新たなる未来へ
「イェーーーイ!!」
ひゃっほー!
大歓声が響き渡る中。
あたしはブンブン拳を振り上げて、大声で叫びながらぴょんぴょんジャンプ。
「ひかる、ダメよ!あんまり暴れたらっ」
隣の有理絵が慌ててあたしの腕を引っ張る。
「大丈夫だよぉー。このとおり、元気モリモリなんだから」
あたしは有理絵にガッツポーズ。
「無理だけは禁物ですよ!桜庭ひかるさん」
あれから2年後ーーーーーーーー。
そうなのです。
なんと、あたしは………。
立花ひかるから、桜庭ひかるへと華麗なる大変身を遂げました!!
あたしと桜庭は結婚し、『恋人』から『夫婦』と呼ばれる存在へと変わったんだ。
そして……。
「もうひとりの体じゃないんだから。あんまり暴れてたらお腹の赤ちゃんがビックリしちゃんだから」
心配しながらもビシッとした有理絵の声。
またしても、そうなのです。
なんと今、あたしのお腹には小さな小さな新しい命が宿っているんだ。
今、妊娠4ヶ月。
母子共にすこぶる健康。
生まれてくるのが、今から楽しみ過ぎるぜ。
あたしは、ほんのり膨らみのあるお腹をそっとなでた。
入籍と式は、あたしの誕生日でもあり、2人の記念すべき再会を果たした8月6日に無事とり行われたよ。
披露宴というほど大々的にはやらなかったんだけど、ごく親しい友達や親族達でささやかなレストランパーティーをやったんだ。
アットホームな雰囲気で、和気あいあいとね。
本当に嬉しくて、楽しくて、幸せで。
その日は、嬉し涙の洪水だったよ。
桜庭のお母さんもね、とっても元気になったんだよ。
この2年間、あたしも時々長野に行って、桜庭のお母さんといろんな話をしたり、一緒にご飯を食べたり、買い物にも行ったり。
楽しい時間を一緒に過ごしてきたんだ。
お母さんが少しずつ笑顔になって、少しずつ元気になってきて。
そんなお母さんの姿を見ていて、あたしは本当にに嬉しかったんだ。
あたしと桜庭のことも心から喜んでくれていて、いつも親身に応援してくれるの。
あたしのことも本当の娘みたく可愛がってくれて、今ではすっかり仲良しだよ。
そんな桜庭のお母さん。
やっと気持ちの整理がついたみたいで、新たな第二の人生をスタートしたってカンジで。
今はパートの仕事も始めて、前向きにがんばってるんだ。
それから。
桜庭の弟、竜介くんーーーー。
彼もすごくがんばってるんだよ。
知人から、竜介くんのような視覚障害者も障害者が働ける職場を紹介してもらい、毎日イキイキと仕事しながら充実した日々を過ごしてるとのこと。
そして。
現在27歳のあたしと桜庭は。
ずっと変わらずに持ち続けていたお互いの想い、強い絆を確認し合い、夫婦としての新たな道を歩み始めたところで。
あたしは元気な妊婦、そして桜庭はーーーー。
ほら、あそこ!
眩しいライトに照らされたステージ。
ステージの上で、楽しそうに笑ってる5人の中のひとり。
そう、桜庭は今大勢の観客の前で演奏するバンドのギターリスト。
メンバーはもちろん、あの仲間達。
高校時代、いつか必ずプロになろうと誓い合った、あの〝5人バンド〝from here〟。
ボーカルの大谷、ドラムの幹太、ベースの佐々木くん、ギターのつよぽん。
そして、もうひとりのギター、
桜庭亮平ーーーー。
あたしとまた改めてつき合うことになった桜庭は、こっちでの仕事先が決まり、あたし達のいるこの街に戻ってきた。
長野で働いていた自動車整備工場の社長の知人がこちらで同じく自動車整備工場を経営しており、人でを探してるとのことで、社長が桜庭を紹介してくれたんだ。
あたし達の結婚も心から喜んでくれて、あたしが長野に行った時、結婚のお祝いにと食事もご馳走してくれたんだ。
辛い思いもたくさんしてきた桜庭だけど、こんな風に助けてくれる人、力になってくれる人がいてホントにありがたいし、よかったなと思う。
こうして、無事仕事も決まり、この街に戻ってきた桜庭。
このことを機に、またみんなが集まった。
再び音楽への熱い想いが集結し、満場一致で5人でのバンド活動を再開したんだ。
みんなそれぞれ仕事を持ってるから、その仕事の合間合間に曲作りや練習を重ねてコツコツと活動を続けてがんばってきた5人。
そして今では。
満員のライブハウスで、割れるような歓声を浴びるほどの人気のアマチュアバンドにまで成長していったの。
まだプロにはなれていないけど、あたしは信じてる。
いつかきっと、夢を果たせるってーーーーー。
不思議だね。
今、こうしてここにいる自分も、自分から見えているこの光景も、すごく不思議。
これまでのいろんなひとつひとつの全てが、なんだかとても愛おしく思えるんだ。
お父さんの転勤が決まったこと。
あたしが高校3年生で東高に転校してきたこと。
有理絵や健太と同じクラスになれたこと。
隣の席が、桜庭だったことーーーーー。
なんだか知らないけど、やたら女の子からモテたことモテたこと。
小林ゆきちゃんに告白されて迫られて、通りすがりの桜庭をいきなり彼氏役にしちゃったこと。
2人で、授業サボって屋上で昼寝したこと。
ライブハウスでギターを弾く桜庭を見て、驚いてぶっ倒れちゃったこと。
一緒に図書館で勉強したこと。
一生懸命差し入れのサンドイッチを作ったこと。
ミカ達ともモメたこと。
桜庭を好きになったことーーーー。
初めて2人でデートしたこと。
告白したこと、されたこと。
彼氏と彼女になったこと。
誰もいない公園で2人でやった、あの花火のこと。
離れ離れになってしまったことーーーーー。
そして。
寂しくて寂しくて、会いたくて会いたくて。
ずっと切なかった、これまでの日のこと……。
いろんなことがあったね。
いっぱい笑ったし、いっぱい泣いた。
だけど。
これまでのどれかひとつでも欠けていたら、今のあたし達はいなかったのかもしれない。
桜庭と出会うことも、恋に落ちることもなかったかもしれない。
その時の今が、
〝今〟に繋がっているからーーーー。
だから、あたしは感謝したい。
今までの全ての出来事、出会った全ての人達に。
だけど、ほんのちょっと思うんだ。
運命って言ったら、ちょっと大げさかもしれないけど。
もし、あの時あたしが転校しなくても。
もし、あの時桜庭と出会ってなかったとしても。
きっと、いつかどこかで出会ってたんじゃないかなって・・・ーーー。
なんか……そんな気がするんだ。
あたしは、お腹を優しくなでながら、ステージの桜庭に目をやった。
たくさんの歓声を浴びて、キラキラ楽しそうに輝いている桜庭。
すごいね、桜庭。
あたしも、ずっとずっと応援し続けるよ。
これから生まれてくるベビーと一緒にね。
この子にも、桜庭のとびきりステキなギターの音色を聴かせてあげよう。
まだお腹の中だけど、きっとこのライブを楽しんでるよ。
きっとあたし達に似た音楽好きな子になるね。
いろんな音楽や楽器に興味を持つかもしれない。
その時は、いつか親子でセッションなんて楽しいこともあるかもしれない。
なんかいろんな楽しい妄想が止まらない。
ワクワクしちゃうぜ。
なんてノリノリで聴いてると。
「もうあんまり飛んだり跳ねたりしないでよー?こっちがヒヤヒヤするんだからー」
相変わらずやっぱり心配そうな有理絵。
「大丈夫だって!この子にもさ、桜庭の音楽の才能とあたしの元気モリモリ遺伝子がしっかり受け継がれてるから。きっと今もお腹の中でロックに踊って楽しんでるよ」
「もぉー」
あたしの言葉に有理絵が笑った。




