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シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
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作戦会議


「そうだ!こんなの絶対ダメだっ。だってよぉ、オレ、小林ゆきちゃん密かに狙ってたんだぜー。マジで。そのゆきちゃんが、まさかひかるに恋しちゃうなんてよぉー」


嘆くジン。


「まぁまぁ、ジンも落ち着いて」


有理絵が笑いながらジンをポンポンと叩いた。


「ひかる。おまえだって、このままじゃよくないだろ?男からはからっきしモテないのに、女からはごっそりなんてなぁ」


「ま、まぁ……」


ちょっと、グサ。


健太のヤツ、ズバッと言ってくれるな。


「ひかるに惚れてるアイツらにも、いろんな意味でまっとうな恋愛をしてもらおうじゃないか。そのためにも、これ以上面倒なことにならないうちに、なんとか食い止めようぜ」


「あたしも賛成。ひかるにも早くホントの恋してほしいし」


有理絵もすっと手を挙げた。


「だな」


「おう!ひかる、策を練るぞ策をっ。ゆきちゃんカムバック!」


うなずく卓の横で叫ぶジン。



みんな……。


あたしのためになんとかしようと考えてくれるなんて。


ううう、なんか感動だぁー。


やっぱ仲間っていいなぁ。


「ありがとう、みんな!」


「よし!そうと決まれば動くのみ!オレにいい考えがある。ひかる、おまえはまず髪を切れ。刈り上げろ。これでもか!というくらいにバッサリ短く潔く!!」


ズコッ。


「ちょっと待て。なんであたしがいきなりバッサリ潔く髪を切らなきゃいけないんだ。しかも刈り上げろ⁉︎」


感動して涙ぐんでたあたしに向かって、健太、おまえはいきなりなにを言い出す!


「まぁ、聞けよ。オレの見解はこうだ。ひかる、まず今の外見を変えろ。思いっ切りイメチェンしろ。なんつーの?こう、今の女らしい見た目からガラッと一変して、とことんボーイッシュを目指すんだよ。なぜなら、表面上だけとは言え、わずかに残っているその女的な部分がおそらくダメだからだ」


「なるほどー。この今のサラサラロングヘアのひかるをステキだと思って憧れてる女子達は、バッサリ短くなって男の子っぽくなったひかるを見て、ちょっとガッカリして……そしてひかるへの想いも徐々に薄れていくーーー。というわけだな?」


「ジン、そのとおりだ。そしてひかる、見た目が男っぽくなったら、今度は中身だ。オレが本物の男というものを伝授してやるから、おまえは更なる男前を目指せ。そして極めるんだ。身も心もすっかり男らしくなれば、ひかるに対するイメージも変わっていくだろう。そうすりゃ、ひかるへの憧れもなくなっていき、ラブレターも来なくなるーーー。どうだ、オレの計画完璧じゃねーか?」



ドカッ。


「いって!」


あたしはじと目のまま、容赦なく健太のスネに蹴りを入れてやった。


「更なる男前を目指せ?身も心も男らしくなれ?ふざけるなっ。あたしは、女だ!こう見えて、心の中だって実は誰よりも乙女なんだぞ!長い髪だって、カワイイ洋服だって大好きなんだからっ。勝手なことばっか言うなっ」


むにぃぃ。


怒りおさまらずのあたしは、健太のほっぺたを思いっ切りびよんびよん縦に横に引っ張ってやった。


「いてててっ。わかったわかった!ひかる、わかったってっ」


「まぁ、確かにあんまり見たくねーな。ひかるのバッサリ刈り上げショート。似合わなそー」


ぶるっと身震いするジン。


「おい、ジン」


あたしがジロリとジンを見ると。


「まぁまぁ、みんな落ち着いて。ひかるもほら、健太のほっぺた離してあげなさい」


いつものように姉さんオーラを放ちながら、有理絵がギャーギャー騒いでいるあたし達の仲裁に入った。


「だって、ひどいと思わないか?有理絵。健太もジンも勝手なことばっか言いやがって」


「だから、悪かったって言ってんだろー。でも、マジでいい案だと思ったんだけどなー」


健太がほっぺたをさすりながら言う。


「いいわけないだろっ」


「まぁ、確かにちょっとひどかったわね。大体、そんなことしたらかえって逆効果よ」


「なんでだよ、有理絵」


聞き返す健太。



「だって。ひかるは男の子っぽいサバサバしたカンジのところが人気なんだよ?それなのに、服装や髪型までボーイッシュにしたら、それはそれで『カッコイイ!』ってますます惚れられちゃうよ」


「なるほどなぁ」


腕組みをしながらうなずく健太。


「と、すると……」


「注目すべき問題点は、見た目じゃないってことよ。つまり、ひかるのその中身!ひかるのその男の子っぽ過ぎる全ての立ち振る舞いよっ」


ビシ。


有理絵があたしを指さした。


「へ?」


「まずその足っ」


「足?」


「女の子なんだから、そんなにダラっと大股開いて座らないのっ。それじゃ、まるで健太と同じでしょ」


有理絵に言われて、あたしは自分の足えお健太の足を見比べた。


ホントだ。


あたしと健太ってば、同じカッコしてる。


「無理、無理。ひかるは顔は女だけど、中身は女じゃねーもん」


ジンが笑いながら手を振った。


「おい、ジン。今のは聞き捨てならないぞっ。女じゃないって、なんだよそれ。何度も言うけどあたしは正真正銘女だぞ!」


「それから。そのデカい声と言葉遣い。そしてケンカっ早いところ」


有理絵があたしの唇をむにゅっとつまんだ。


「うぐ……」


「確かに。言われてみれば、ひかるの男っぽい行動ってけっこうあるよな。元々大雑把な性格ってのも関係してるんだろうけど。いろいろ気にしなさ過ぎて、逆にこっちがハラハラする時はあるよなぁ」


今まで黙っていた卓が、妙に納得した様子でうなずいている。


「でしょ?ひかるにはさっき学校でもちらっと言ったけど、まだまだあるわよ。例えば、手もあてないで口の中が丸見えになるくらいのカバ並のデッカいあくびするところもそう。それと、これはホントに要注意なのがその脚元!歩くのも走るのも大股過ぎ。その上階段では平気で飛んだり跳ねたり。角度によってはパンツ見えちゃうからね?スカートなんだから、もっと気をつけて。それから、カバンを肩にかついでのオラオラ歩き。制服も着崩し過ぎだし、ネクタイもダラっとゆるめ過ぎ。男子と一緒。他にもいろいろ」



「あるある」


「やってるやってる」


有理絵の言葉に、健太もジンも大きくうなずく。


げげげ。


あたしって、男子からもそんなに納得されてしまうくらい。女の子らしくないヤバいヤツなわけ?


自分じゃ全然そんなこと気にしていなかったが……。


いや、改めて言われてみると、思い当たるフシがないでもないが……。


でも、なんかそうなっちゃうし。


にしても、そんなにひどいか?あたし。


みんなの満場一致の空気に、ちょっと納得いかずに首を傾げるあたしの肩を、有理絵がポンッと力強く叩いた。


「いい?ひかる。今の状況を変えるにしても、ひかるの明るい未来を望むにしても。全てひかるが鍵を握っているわ」



有理絵の言ってることがいまいちわからなくてポカンとしていると。


有理絵がぎゅっとあたしの両手を握ってきた。


「ひかる、変わるのよ」


「変わるって?イメチェンはダメなんじゃなかったのかよ」


健太の言葉に、有理絵が待ってましたとばかりに答えた。


「健太の考えてたイメチェンとは真逆をいくのよ。ズバリ、テーマはフェミニン!!」


フェ、フェミニン?


「ガーリーもプラスしよう。ファッションのことだけを言ってるんじゃないわよ。今のひかるに重要なのは外見も中身も伴うってこと。つまり、身も心も女の子らしく。今までとは違う新たなステキ女子なひかるに変身するのよ」


「え」


ガーリーもプラス?身も心も女の子らしいステキ女子……?


一瞬の沈黙のあと。


「ぶっ」


健太が吹き出した。


「ぶはははっ。女の子らしいステキ女子なひかるに変身って!」


ちょっとちょっと。


「なにがそんなにおかしいんだよっ」


あたしはね、自分のことはフツウに女の子だと思ってたんだよ。


そりゃ、有理絵やみんなに比べたら、自分はやっぱり『カワイイ女の子』ってカンジじゃないことは認めるけど。


でもさ、そんなにまで女の子らしくない、男っぽいとみんなにハッキリ断言されて、けっこうげげげってカンジなのに。


なにもそこまで笑わなくたっていいじゃん。


女の子らしいあたしは、そんなにおかしいわけ?


「だって。おまえ、女の子らしいってガラじゃねーじゃん」


健太のヤツ、まだ笑ってやがる。


「わーるかったな!どーせあたしは男らしい女ですよーだ!」


ふんっ。


「こらこら2人とも。健太も茶化さないの。ひかるがこのまま女の子からモテまくっててもいいの?なんとかするんじゃなかったの?」


「そりゃあ、まぁ……」


健太がポリポリ頭をかいた。


そんな様子を見ながら、あたしは考えたんだ。



あたしが変われば……。


きっと、あたしに対するみんなの見方も変わる。


健太達も、あの子達も。


きっと、あたしの世界も変わる。


フェミニンなあたし。


ガーリーなあたし。


身も心も女の子らしいあたし。


女の子らしい、あたしーーーーー。



よし!


バンッ。


あたしは、テーブルを叩いて勢いよく立ち上がった。


「なんだよ、ひかる。どうした?」


ちょっと驚いた健太の声。



高校、最後の年なんだよね。


来年の春には卒業しちゃうんだよね。


それなのに。


最後の高校生活、このまま女子からばっかりラブレターもらってていいのか?


どうしたらいいんだと悩んでていいのか?


いいや、よくないっ。


あたしだって、ちゃんとステキな恋愛してみたい!


だけど、今のあたしは男っぽ過ぎる上に女の子からしかモテないちょっとヤバい女子。


このままじゃ、恋なんてできないよ。


そんなのイヤだぜ!



「ーーー決めた。あたし、明日からステキ女子目指す。フェミニン女子に変身する!」



ポカンと口を開けて、あたしを見上げている健太。


ふふふ。


今に見てろよ。


女の子らしく変身して、いつかステキな誰かの彼女になってやるっ。


あたしは、胸にひしと手をあてて心に誓ったんだ。


女の子らしいステキ女子目指して。



新しい自分に生まれ変わるんだーーーーって。










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