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シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
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最後の夜


桜庭のケータイが突然通じなくなったのは、その翌日のことだった。




時間になっても、朝の待ち合わせ場所に来ない桜庭。


あたしは桜庭のケータイに電話したんだ。


だけど、留守電になってるばかりでサッパリ応答がない。


これからは毎朝一緒に登校しようと誘ってくれたのは、桜庭だ。


そんな桜庭が、連絡もなしに約束をすっぽかすわけがない。


桜庭、どうしたのかな。


急にお腹が痛くなったとか?熱が出たとか?


体調不良もいろいろ考えてみたけど、昨日あんなに元気にあたしと花火して遊んでたし。


どうしたんだろう………。


そう心配しながら、あたしはひとりで学校へと歩き出したんだ。



だけど。


これから向かおうとしているいつもの教室で。


あたしは、衝撃の事実を知らされることになる。


信じたくない、信じられない、悲しい出来事。



その時のあたしは、まだなにも知らずにいたんだーーーー。





「おはよー」


ガラッ。


教室のドアを開けて中に入る。


なにかいつもと違う様子に、あたしはすぐに気がついたんだ。


なんとも言えない、暗く重い雰囲気。


クラスメート達がヒソヒソと話している。


なに?


教室を見渡してみたけど、有理絵やさとみはまだ来てない様子。


そんな中、近くにいたクラスメートの女子達が、あたしに声をかけてきた。


「あ、立花さん。………大変だったね……」


「桜庭くんのお父さんのこと………」


クラスの女子が気の毒そうにあたしに言った。


「え?」


桜庭の、お父さん?


あたしがなんのことやらわからず、キョトンとしていると。


「……もしかして、まだ聞いてない?テレビの朝のニュースも見なかった?」


「テレビ?ニュース?特に気にして見てなかったけど……。っていうか、なに?桜庭のお父さんがどうしたの?」


なにかイヤな予感がして、胸がざわついた。


すると、そんなあたしの耳に信じられない言葉が飛び込んできたんだ。


「桜庭くんのお父さん。今建設中の高層マンションの工事現場で働いてたらしくて。その現場で鉄骨が崩れ落ちる事故が起きて。桜庭くんのお父さん、その事故に巻き込まれて……。今朝、亡くなったって……」



え・・・ーーーーー?



今、なんて?


桜庭のお父さんが………亡くなった?





そして。


朝のホームルームの時間に、先生からクラスのみんなにこのことが知らせれた。


ざわざわとどよめく教室。


沈痛な面持ちで、桜庭を労るように話す先生の声が聞こえる中。


あたしはまだ夢をみているような気持ちで、桜庭の机をただ黙って見つめていた。


突然の出来事に、あたしはまだこの現実を受け止められずにいたんだ。


昨日の花火と桜庭の笑顔が、あたしの胸の中をいっぱいにする。



こんなことが。


こんな悲しいことが。


こんな身近で起きるなんて。


なんの前ぶれもなく、ホントに突然に……。



「ひかる……」


ポン。


有理絵が振り返り、優しくあたしの肩を叩いてくれた。


「まさか、こんなことになるなんてね……」


有理絵の言葉に、あたしは黙ってうなずいた。


隣に座っている卓もなにも言わずに静かにあたしの肩に手を置いた。


「……桜庭、大丈夫かな……」


小さく心の声がこぼれる。


「……ひかる。桜庭のこと、支えてあげよう。ひかるならきっと桜庭のこと元気にしてあげられるから……」


あたしの手を、有理絵がそっと優しく握った。


「……うん」



桜庭。


悲しいよな……。


あたしも、すごく悲しいよ。


悲し過ぎるよ。


桜庭のお父さんに……会ってみたかったーーー。


静かに涙が頬を伝った。





そして、桜庭から電話がきたのは、その日の夜のことだった。


「もしもしっ?桜庭っ?」


『……ああ』


「……大丈夫?」


『なかなか連絡できなくて悪かったな……。立花、今から出てこれないか。会って話がしたいんだ』


「う、うん。どこにいるの?」


『おまえんちのすぐ近くのコンビニ』


「わかった。すぐ行くから」


電話を切るとすぐに家を飛び出した。


あたしは桜庭の元へと全速力で走った。



これが。


桜庭と会う、最後の夜になるということも。


まだ、知らぬままーーーーー。





「桜庭!」


コンビニのわずかなスペースの駐輪場の隅に立っていた桜庭。


あたしは急いで駆け寄った。


「ごめんな。いきなり呼び出して」


悲しくて辛いハズなのに、桜庭はあたしに優しい笑顔を向けた。


そんな桜庭を見て、胸が痛くなった。


「桜庭……。大丈夫か?……あのさ。あたし、どうしたらいいかわからないんだけど……。桜庭の力になりたい。支えになりたい。だから、あたしにできることがあったらなんでも言ってくれよ」


あたしが真剣にそう言うと。


桜庭が、悲しそうな切なそうな……そんな寂しげな瞳であたしをじっと見つめたの。


そして、静かにぎゅっとあたしを抱きしめたんだ。


「さ……桜庭?」


そして、次の瞬間。


桜庭の口から予想もしない言葉が聞こえてきたんだ。



「ごめん。オレ、ここ離れるわーーー・・・」



「……え?」


桜庭がゆっくりとあたしから離れた。


「オレ、長野に行くことになった」


「……長野って?え……?」


なに?


どういうこと?


心臓が、重く鈍く響き出す。


「おふくろの実家に行くことになったんだ」


「え……」


「おやじが死んで。おふくろ、精神的にも体力的にもまいちっまてさ。オレ、弟がいるんだけど。実は、障害があって……。生まれつき目が悪くて。ほとんど見えない状態でさ」



えーーーー?


弟?


目が見えない……?



桜庭のお父さんが亡くなった知らせを聞き。


お母さんが大変なことを聞き。


初めて弟の話を聞き。


そして、ここを離れると言われ。


いろんなこと、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになって。


なにをどう言っていいのかわからず。


あたしは、ただ頭が真っ白になっていた。



「ど……どのくらい?いつ頃、こっちに帰ってくるの……?」


やっと出た、精一杯の言葉。


だけど。


そんなあたしの精一杯の問いに、桜庭は静かにこう答えたんだ。


「……もう、帰ってこれないと思う。学校にも今日、退学届け出してきたんだ」


「え……?」


「もう、今までのようには会えなくなると思うーーーーー・・・」



もう、帰ってこれない?


退学届け?


会えなくなる……?


心臓がドクドク鳴っている。



「ちょ、ちょっと待って……。学校、辞めるの?もう会えなくなるって、なに……?」


どういうこと?


震える胸を押さえながら、あたしは声を振り絞って桜庭に聞いた。


「……今の状態で、オレとおふくろと弟の3人でここで暮らすのは正直かなり難しい……。たぶんここにいる限り、おふくろはおやじの事故のことを思い出しちまうんだと思う。オレは、向こうで仕事見つけて働く。たぶん、ずっと向こうで暮らすことになると思う……。だからーーー・・・」



ウソ。


ウソ。


イヤだ……。


「いきなりこんなことになっちまって………。ホントにごめんな」


桜庭の悲しそうな目。



なに……?


これで……この夜で。


ホントに桜庭と離れ離れになっちゃうの……?


イヤだ。


イヤだ。


そんなの絶対イヤだよ!!



「あたしも辞める!学校辞めるっ。桜庭と一緒に長野に行く!!」


「立花……」


「絶対行く!行くもん!一緒に働くっ」


「立花……」


あたしは、聞き分けのない子どもみたいに、泣きながら桜庭の胸をポカポカ叩いて叫んだ。


「行くっ!行くもんっ……!」


ポタポタとこぼれ落ちる涙。


「行くっ………!!」


体の力が抜けて、あたしはその場にへたり込んでしまった。



涙が止まらない。


ホントはわかってる。


一緒に行けるわけないって。


学校辞めるなんてできないって。


全部、やむを得ない事情のためなんだって……。


ホントはわかってるけど……。


「桜庭と……離れたくないよっ……」



離れたくないよーーーーー。



「立花……」



静かにあたしのそばにしゃがみ込んだ桜庭の声が、かすかに震えていた。


「オレも。おまえと離れたくないーーー」


あたしは、涙でぐしゃぐしゃになった顔で桜庭を見た。


あたしを見つめる、真っ直ぐで優しい瞳。



桜庭……。


好きだよーーーーー。



あたしは涙でボーッとする頭の中で、この数ヶ月のことを思い出していた。


この学校に転校してきて、そして隣の席だったのが桜庭で。


あたしは、桜庭に恋をした。


きっと、初めてのホントの恋ーーーー。




いろいろあったよね。


楽しかったよね。


デートしたよね。


告白しあったよね。


彼氏と彼女になったよね。


手、繋いだよね。



花火、キレイだったよね・・・ーーーーー。



健太ともちゃんと話せて、全てがうまくいき出したような気がして。


これから、もっともっと。


桜庭との楽しい日々が始まるって。


そう思ってたのに。


そう信じてたのに。



どうして離れ離れになってしまうんだろう。


やっと、恋が実ったのに。


こんなに好きなのに。



大好きなのにーーーーーーー。






高校3年生の初夏。


この夜を最後に、あたしは初めて本気で恋した桜庭亮平と、離れ離れになってしまった。


あたしの大好きなアイツは、遠くへ行ってしまった。


そして。


遠すぎる距離と、いろいろな事情から。


あたしと桜庭は、それ以来……。



もう、会うことはなかったんだーーーーーー。













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