花火
「よかったな、ひかる。おめでとう。昨日のデート、うまくいったんだな」
「うん……。あのさ、健太。あたし、健太にちゃんと言いたいことがあるんだ」
「なんだよ」
「あの……。健太、ごめん!あたし、健太のことは大好きだけど、健太の気持ちには応えられなかった。でも、あたしのこと好きだって言ってくれて、ホントに嬉しかった。あたしのこと助けてくれてホントに嬉しかった。いろいろいっぱい、ありがとう!!」
立ち上がってペコリン。
90度に頭を下げた。
すると、少し黙っていた健太が突然声を上げて笑い出したの。
な、なに?
そして、健太は笑いながらあたしに言ったんだ。
「好きになったのがひかるで。でもってフラれたのもひかるで。ホントによかったぜ」
「え?」
「気持ちいいほどハッキリ『ごめん』と『ありがとう』って言ってくれて、おかげでオレもスッキリしたぜ。サンキューな」
爽やかな笑顔の健太。
「ま、やっぱこれからも。オレとひかるは、清々しい男同士の友情の方がピタッとくるってことだな」
笑いながらあたしを座らせ、そして肩をポンッと叩いた。
「おい。あたしは女だぞっ」
確かに、あたしも健太とは……なんというか、清々しい心地よい友情は感じてはいるが。
断じて男同士ではないっ。
でもまぁ、ある意味健太とは、男同士のような清々しさもあり、女同士でいるような自然な感覚もあり。
間違いなく言えることは。
大好きな、大切な友達ーーーーー
ってことだな。
「まぁ、確かにひかるも前よりだいぶ……いや、少し女っぽくなったけどな」
「そこは〝だいぶ〟のままでいいだろ」
べしっ。
ふざけて健太を叩く。
あ、なんかこのカンジ。
いつもの健太とあたしだ。
あたしも健太も笑ってる。
でも、それは作り笑いなんかじゃない。
健太の笑顔、ホントに晴れやかな顔してる。
いつもの健太の明るい笑顔。
そしてあたしも、いつもの飾らないあたしで笑ってた。
「よーし。オレも心機一転、がんばっぞー!」
健太が大きく伸びながら元気よく声を上げた。
「もうすぐ他校と練習試合あっからよ」
「そうなんだ。健太、がんばれよっ」
「おう!来れたらひかるも観に来いよ。桜庭と。オレの活躍っぷりをドカンと見せてやるぜ」
ふふんと笑う健太。
「わかったよ。オレの活躍、ドカンと見せてもらうよ」
「おまえ、オレのシュートがカッコよ過ぎて『やっぱり健太ステキかも』なんて思っても、もう受け付け終了だからな」
「はいはい」
笑い合う2人。
もう、大丈夫。
健太とあたし、またうまくやっていける。
かすかに胸に残っていた小さな塊が、いつの間にか跡形もなくなくなっていた。
健太はさっき、〝ひかるでよかった〟って言ってくれたけど。
それはこっちのセリフだよ。
相手が健太でホントによかった。
健太だったから。
今こうやって笑っていられるんだよ。
ありがとう、健太ーーーーー。
健太ときちんと話をして、お互いの気持ちもスッキリ分かり合えたあと、あたしは晴れやかな気持ちで校舎を後にした。
そして、すぐにケータイを取り出して桜庭に電話をかけたんだ。
このことを早く桜庭に教えたくて。
プルルルルーーーーー。
『もしもし』
「あ、桜庭?あのね、今学校出たとこ。あたし、ちゃんと健太と話してきたよ。健太もスッキリしたって笑ってた。もう大丈夫だよ」
嬉しさのあまり、早口で一気にしゃべると。
電話の向こうで桜庭がちょっと笑った。
『そっか、よかったな。立花と健太のことだから、きっとうまくいくと思ってたけど。ちょっと気になってたから。だから待ってた』
「え?」
『立花の目の前』
え?
目の前にあるのは、道路を挟んだ向かいにあるバス停。
よく見ると、そこにはだいぶ前に帰ったハズの桜庭が、誰もいないバス停のベンチにひとり座っていたんだ。
「桜庭、帰ったんじゃなかったの?」
ちょっと離れてるけど、お互いの顔を見ながら電話で話すあたし達。
なんだか、楽しいような、照れくさいような。
『やっぱ立花と話したくて。待ってた』
桜庭の声。
うわ、なんか嬉しい。
「待ってて、今そっち行くから!」
あたしは電話を切ると、すぐそばにある横断歩道へと走った。
ホントは今すぐそのまま道路を渡っちゃいたいんだけど、ここ車の通り激しいから。
あたしははやる気持ちを抑えながら、横断歩道の信号が青になるのを待っていた。
早く青になれーっ。
パッ。
信号が青になったと同時に、あたしは桜庭が待っているバス停に向かって駆け出したんだ。
「桜庭、おまたせっ」
あたしは勢いよくバス停の小さな小屋に飛び込んだ。
すると、桜庭がちょっとやんちゃっぽい笑顔でこう言った。
「立花、散歩するか。で、暗くなってきたら公園でも行くか」
「散歩?公園?」
うわ、これはもしや。
初めての、桜庭とのときめき放課後デートというヤツではないかっ?
やったー!
「行く行くっ!」
あたしが元気よく答えると。
「じゃん。さっき買ってきた」
桜庭が、おもむろにスーパーのレジ袋に入ってる何かを取り出した。
「ちょっと早いけど、夏先取り。暗くなってきたらやろうぜ」
イタズラっぽい笑顔の桜庭の手の中にあったのは、小さな花火セット。
「花火っ?もう売ってたのっ?」
「さっき近くの駄菓子屋の自販でコーヒー買ってたら、店の入り口に売ってんのたまたま見つけて。すげーやりたくなった」
やんちゃな少年のような顔で笑う桜庭。
なんだかちょっと、いや、かなりカワイイ。
そして、そんな桜庭をますます愛おしく感じてしまうあたし。
桜庭、大好きだ!
「あたしもやりたい!ねね、ちょっとあんまり通ったことのない道とか行ってみない?散歩しながら探検しよ。で、初めての公園で、今年初めての花火、しよ!」
「よし、行こうっ」
あたしと桜庭は、元気よくバス停の小屋を飛び出した。
その日ーーーーーーー。
薄暗くなった誰もいない公園で2人きりでやったその花火が、どれほど楽しくて、どれほどキレイだったか。
それは、言うまでもない。
もしかしたら。
今までやった花火の中で、いちばん楽しくて、いちばんキレイだったかもしれない。
儚い美しさだけど、その一瞬の煌めきが、ホントに眩しくて。
花火と夏の匂いのする煙の間から見える桜庭の笑顔は、もっともっとキラキラしてて。
あたしは、眩しかったんだ。
全てがキラキラしてて、嬉しくて楽しくて、そしてときめいて。
あたしはその時思ったんだ。
大人になっても。
歳を重ね、いつか白髪のおばあちゃんになっても。
今日のことは、きっと一生忘れないーーーーー。
って。
なぜだか、ハッキリ強く。
そう思ったんだ。
そして、この日の帰り道に初めて繋いだ手の、あたたかいぬくもりも。
ずっと、ずっと覚えてる。
一生忘れないーーーーーーー。
あたしは、そう思ったんだ。




