いろんな気持ち
「今まで、自分の気持ち抑えて諦めようとしてたんじゃない?でも、本格的に2人がいいカンジになってきてさ。ついには、自分の好なひかるをデートに誘おうとしている桜庭を知って、健太も自分の気持ちにコントロールが効かなくなってきたんだよ、きっと」
健太ーーー・・・。
「健太は健太でさ、できるだけフツウにしようと精一杯だったのかもね」
あたしってば。
なんにも知らないで、ひとりではしゃいで。
健太のこと、傷つけてたんだ。
あたしは桜庭のことで頭がいっぱいで、周りのことなんてちっとも見えてなかったんだ。
「あたし。ひどいヤツだよな……」
「ちょっとちょっと。なに言ってんのよ。ひかるはなんにも悪くないじゃない。ううん、誰が悪いとか、そんなのないよ。どうにもならない時があるのよ。好きって気持ちはさ。だってさ、自分が好きになった人が必ずしも自分を好きになってくれるとは限らないもん。
どんなに大好きでも、叶わない恋……片想いの恋だって数えきれないほど、この世の中にはたくさんあるんだから。お互い気になって、仲良くなって、両想いになれるのって、奇跡みたいなもんなんだよ」
奇跡ーーーーーー。
「ひかると桜庭は、今まさにそういうカンジだと思う!だから。ひかるは自分の気持ちに正直に、桜庭のことがんばってよね」
「でも……」
「健太はかわいそうだけど、こればっかりは仕方ないよ。すぐ……ってわけにはいかないかもしれないけど、きっとまた今までみたいな2人に戻れると思うよ」
誰かを好きになるって。
ハッピーなことばっかりじゃないんだね……。
こんな風に、知らない間に誰かを傷つけてしまったり、いいカンジで保たれてたバランスが、簡単に崩れちゃたり……。
……なんか、もうわからない。
空になったコーラのカップ。
なんだか、今のあたしみたい。
なんだか、心が空っぽだよ。
「とにかく!ひかるは明日の桜庭とのデート、楽しんできなさい!」
「うん……」
「健太のことは大丈夫だって!学校でさ、また話せばいいよ。ひかるの気持ち、素直に正直に言えば。健太だってちゃんとわかってくれるよ」
有理絵がニッコリ笑った。
「……そうだね。月曜日に、ちゃんと健太と話してみるよ」
そうだよ。
とにかく、健太とはもう一度きちんと会って話をしなきゃダメだよね。
ちゃんと会って、あたしの気持ちを正直に伝えないと……。
ちゃんと〝ごめんね〟って謝らないと……。
今でも信じられないけど。
健太、あたしなんかのためにケンカしてくれてありがとう。
あたしのこと、〝好きだ〟って抱きしめてくれてありがとう。
あたし男の人にそんな風にされたことないから、今考えると、ちょっとドキドキするよ。
でもーーーー。
あたし、健太とは友達でいたいの。
今までみたいな、大好きな仲間でいたいの。
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夜になっても。
あたしの心はモヤモヤしたまんま。
ベッドに仰向けになって、ボーッと天井を眺めていた。
明日は、待ちに待った桜庭とデートの日。
大好きな桜庭とご飯を食べたり、映画を観たり。
夢のような1日があたしを待っている。
でも……このまま行っていいの?
健太はあたしのためにケガまでしたのに。
しかも、あたしは知ってしまったのに。
あたしと桜庭のことを応援してくれようとしていた、健太の気持ちを。
それなのに、いいの……?
プルルルルルーーーーーー
バッグの中に入れっぱなしだったケータイが、小さく鳴った。
ガサゴソ。
ケータイを取り出す。
待ち受け画面を見て、あたしはドキッとした。
健太からだーーーーー。
ど、どうしようっ。
なにを言えばいいの?
で、でも、とりあえず出ないとダメだよねっ。
あたしはドキドキしながら、おそるおそる電話に出た。
「も、もしもし………?」
『おうっ。ひかる』
思いがけない元気な声の健太に、あたしはビックリしてしまった。
あ、あれ?
なんかフツウだぞ……?
『今、家か?』
「う、うん……。家……」
妙な緊張があたしを襲う。
『そっか。じゃあちょっと出てこいよ。オレ、今おまえんちの近くの公園にいるから。待ってっから。
じゃあな』
プツ。
えっ?
切れちゃったよ。
っていうか。
出てこいって?近くの公園にいるって……?
待ってるって⁉︎
え、ええっ⁉︎
そ、そんなこと急に言われても!!
昨日の今日で一体なんて言えばいいわけっ?
どうしようっ。
あたしは意味もなく部屋の中をウロウロ。
で、でも、行かないわけにはいかないよな。
健太、待ってるって言ってたし。
それに、遅かれ早かれ、健太とはちゃんと話をしなくてはいけないんだから。
ーーーよし。
あたしは気合いを入れた。
そして、強くうなずくと勢いよく部屋のドアを開け、階段を下りて行った。
「お母さん、ちょっと出てくるね」
「え?今から?もうすぐご飯よ?」
キッチンから顔出すお母さん。
「すぐ戻るから。あ、先食べていいから。……友達が近くに来てるんだ。ちょっと会ってくるから」
「あら、そう。気をつけてね、暗いから」
「うん、いってきます」
あたしは慌てて玄関を飛び出した。
いつもだったら、『健太が来てる』ってそのまま言えたのに。
今日は、なんだか言えなかったよ……。
あたしは、小走りで近くの公園に向かった。
今まで味わったことのない緊張感。
心臓がドクドクいっている。
公園の灯りが見えてきた。
あたしは、立ち止まって深呼吸をひとつした。
そして、ゆっくり公園の中に入って行ったんだ。
健太ーーーーーー。
ベンチにぽつん。
そこには、だらっと背もたれによしかかるようにして座っている健太の姿があった。
静かに歩み寄るあたし。
「おう」
いつものように、軽く手を上げて笑いかけてくる健太。
でも、街灯に照らされた健太の顔は、昨日より更に痛々しくなっていた。
傷口には、血の滲んだバンソウコ。
青アザは、昨日よりも大きく濃くなっていた。
「健太……。大丈夫?」
あたしは、傷口や青アザをそっとさわった。
痛そう……。
「なんでもねーよ、これくらい」
笑って、あたしの手をそっとよける。
健太……。
あたしのせいで、こんなーーー……。
悲しい気持ちが一気に胸の中に広がった。
そして、あたしの目から涙がこぼれた。
「ご、ごめん、健太……。あたしのせいで……」
「お、おいっ。泣くなって。おまえはなんにも悪くねーだろーが!」
あたふたする健太。
「で、でっ……。あた、あたし……」
せきを切ったように、あたしの涙は大量に溢れ出てきたんだ。
たぶん、あたしの胸の中でぐるぐる渦巻いていた気持ち達と一緒に。




