力になりたい
「オレ・・・ーーーー」
と、その時。
「あっ。先輩、ここにいたんすか?コーチが先輩のこと捜してましたよ」
タイミング悪く、バスケ部の後輩が健太のところに駆け寄ってきたんだ。
「あ、ああ。わかった。……わり、オレ行くわ。じゃあな」
くるっと背を向けると、小走りで体育館の方に向かっていく健太。
「ちょっと、健太!」
呼び止めたあたしに、健太は笑って言った。
「井戸端会議もほどほどにして帰れよー」
「健太っ」
行っちゃった……。
健太、さっきなにか言おうとしてたのに。
なにを言おうとしたんだろう。
わからない。
でも、明らかに健太はなにか悩みを抱えている。
それは間違いない。
さっきの健太を見て、あたしは確信した。
あたし、健太の力になりたいよ。
だってーーーー。
健太は、あたしが落ち込んだ時、いつも何気に心配してくれて励ましてくれるじゃんか。
昔から一緒にバカやって騒いできたけど、ホントは優しくて友達思いのいいヤツだってこと。
あたしはちゃんとわかってるよ。
だから、力になりたい。
大切な仲間だもん。
仲間だもんーーーーーー。
揺るがず、疑わず、当たり前のようにそこにあるその言葉の意味が。
今、静かに少しずつ……バランスを崩しかけてることに、あたしは、まだなにも気づいていなかったんだ。
そしてこのあと、予想もしてなかった展開があたしを待ち受けているということも。
その出来事が、みんなの胸を痛める小さな事件に発展してしまうということも。
そこで、健太の抱えている本当の想いを知ることになるということも……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さっきの、なにか言いかけた健太のことが気になったまま、あたしは有理絵達と校舎を出た。
「健太、なにがあったんだろうね……。でもかと言って、ひかるまで暗くなる必要ないんだからね?卓も言ってたけど」
途中まで同じ方向の有理絵との帰り道。
夕焼けがキレイに辺りをオレンジ色に染めている。
「ひかるは、あさって桜庭とデートなんだよ?それなのに、そんなシケタ顔しててどーすんのよ。スマイルスマイル!」
「そうだけど……」
確かに、あさっては待ちに待った桜庭との映画デートなんだけど。
なんか今のあたしは、なんとなく手放しで喜んでいられないっていうか……。
コロ、コロ。
歩道に落ちていた小石を、コツンコツンと蹴りながら歩いて行く。
「あたしからも健太に聞いてみるよ。電話してみる。明日は学校休みだからゆっくり話せるし。だから、ひかるもそんなに心配しないの。大丈夫だから」
「うん。ありがと、有理絵。頼むよ」
「任せといて。それよりも。デート、しっかり楽しんでくるんだよ。のろけ話、楽しみにしてるから」
有理絵がニヤッと笑いながらあたしの肩をポンと叩く。
バイバイと大きく手を振りながら分かれ道を歩いていく有理絵の姿を見送る。
あたしもひとり歩き出した。
だけど……ひとりになると、尚のことさっきの健太のことが気になり出した。
なにかを言い出そうとしていた、あの真っ直ぐな健太の目。
寂しげな瞳ーーーーーー。
それが、なぜだか頭から離れないんだ。
あたしは立ち止まった。
やっぱり、ちゃんと健太と話そう。
悩みを聞いてあげよう。
あたし、健太を元気にしてあげたい!
くるっ。
来た道を振り返る。
まだ部活はやってるハズ。
あたしは弾かれたように、再び学校へと走り出したんだ。
学校の正面玄関。
中央の大きな時計の針が午後6時を指していた。
夕日も沈み、辺りは薄暗い。
走ってきたせいでさっきまで荒かった呼吸もだいぶ落ち着いて、あたしはひとり正面玄関の階段に座っていた。
校舎横にあるグラウンド。
練習を終えたサッカー部員達が、バラバラと部室へと戻って行く。
バスケ部は何時に終わるのかな。
日中と違って、夜になってくるとやっぱりちょっと肌寒い。
あたしは、ぶるっとひとつ身震いした。
校門の外に向かって、制服に着替えたサッカー部員達が徐々に消えていく。
チャリで2人乗りしていくヤツ。
練習の続きかのように走っていくヤツ。
ちょうど来たバスに慌てて飛び乗ろうと、猛ダッシュするヤツ。
いろんなヤツがいて、見てておかしくてちょっと笑っちゃった。
サッカー部員もひととおりみんな帰ったらしく、辺りはしーんと静まり返った。
健太、まだかなぁ。
ちょっぴり心細くなりながら、だらんと前に伸ばした足をブラブラさせてると。
ふっと、目の前が暗くなった。
「なにやってんの?」
え?
声がして顔を上げると、デッカいスポーツバッグを肩にかついだ男子生徒がひとり、あたしの目の前に立っていたんだ。
どうやらサッカー部のヤツらしいけど。
なんの用だ?
「なに?」
あたしが怪訝そうにソイツを見ると、ソイツは笑いながらいきなりあたしの横にドカッと座りやがったんだ。
げげ。
「ひとりでなにやってんの?立花」
なにコイツ。
っていうか、誰?
妙に馴れ馴れしいんだけど。
「なんであたしの名前知ってんの?」
あたしはぶっきらぼうに聞き返すあたし。
「みんな知ってるって。めちゃめちゃカワイイって有名になってんの知らないの?」
知るか。
生理的に受け付けない、この手のチャラ男がホントにイヤで、あたしはぷいっと顔をそらした。
「彼氏は?いんの?」
そんなあたしにおかまいなしに、しつこく話しかけてくる。
なにを言い出すのさ、この男は!
「いないけどっ。アンタに関係ないじゃん。早く帰れば?」
ちょー冷たく言い放ったのに。
「いいねぇー。オレ、そういう勝気な性格の子、けっこう好きなんだよねぇ。っていうか。実は前から気になってたんだよね、立花のこと。話したいってずっと思ってたんだよねー」
にんまり笑って、更にずいっと近寄ってきた。
待って待って。
めっちゃキモいんですけど。
コイツ何者⁉︎
あたしがさっと離れようとしたら、なんとソイツってばいきなりあたしの肩に腕を回してきやがったんだ。
な⁉︎
「ちょ、ちょっと!離せよっ。そもそも誰っ」
「露骨に嫌がるなぁー。凹むなぁー。オレのこと全然知らない?B組の河口。一応、サッカー部のキャプテンやってんだけど」
知るかっ。
女子に話しかけることも小慣れたカンジで、サッカー部のキャプテンだということも得意げに述べてるけど。
こういう、自分はモテモテとかって思ってるごう慢な勘違いヤローが、あたしはどわっ嫌いなんだよっ。
「そんなコワイ顔すんなってー。まぁ、コワイ顔しててもカワイイけど」
すっ。
髪の毛をさわられた。
ゾワワッ。
身の毛がよだった。
「離せ!」
すかさずあたしはその手を振り払う。
すると、ソイツはあたしの体をすっぽり包むように更にガシッと強く肩に腕を回してきやがったんだ。




