私にできること。
しーーーん。
さすがの3人も、あたしのパンチの効いた巻き舌と言葉と迫力にビクッとしたらしく、一瞬静まり返った。
あたしをなめんなよ。
あたしはな、おまえらみたいなせこいヤツらが大嫌いなんだよっ。
西崎と目が合った。
あたしは、まだなにかイヤミを言おうとしている西崎に言ってやったんだ。
「アンタに騙されたあたしもバカだったよ。でも、平気で人の気持ちを踏みにじるようなひどいことをするのだけは、絶対に許せない」
「『平気で人の気持ちを踏みにじるようなひどいことをするのだけは絶対に許せない』」
あたしの声色を真似て、小バカにしたようにわざとらしく笑っている。
「昨日のサンドイッチ!あれは、あたしが桜庭のために一生懸命作ったヤツだったんだよ。今までやったことなかった料理を教えてもらいながらがんばって練習してさ。それを……」
「そういうのがムカつくんだよ」
大声を張り上げたのは、性悪アイドルだった。
「彼女でもないくせに。なにでしゃばって調子に乗ってんだよ。そういうのがうざいんだよっ」
あたしは、ひとつ深呼吸して性悪アイドルの方を向いた。
「彼女じゃないよ。全然彼女じゃないよ。だけど、好きなんだもんっ。いいじゃんか!」
3人の驚いた顔。
きっと、あたしがこんなこと言うなんて思ってなかったんだろう。
「ーーーちょっとしたことから、桜庭とあたしがつき合ってるって噂が流れて。ホントは全然そんなことなかったんだけど。あっという間に広まっちゃって。でも、その噂のおかげで女の子からのラブレターもおさまったりして、あたし的には助かったっていうのもあって。それで、誤解の噂をあえて否定しないで一緒にいたりしたのは確かだよ。でも………。桜庭といると、なんか楽しくて。嬉しくて。知らないうちに好きになってたんだよ」
そう。
いつの間にか、アイツのことを好きになってるあたしがいたんだ。
「アンタらにあんなことされるまで、自分の気持ちに気づかなかったけどさ。でも、おかげでハッキリわかったんだよ。あたしは桜庭が好きだ」
「……うるせーよ」
性悪アイドルが、うつむいたままボソッと言った。
でも、あたしはかまわず続けた。
「だから、サンドイッチもがんばって作った。『うまい』って笑う桜庭の顔が見たかったから。喜んでもらいたかったから。もちろん、これはあたしの気持ちであって、あたしが勝手に桜庭のことを好きなだけであって、桜庭があたしのことをどう思ってるかなんて全然わからない。あたしの気持ちだって知らないし。でも、あたしはそれでいい」
そう、それだけでいいの。
好きっていう、この想いだけでいいの。
今は、このままでいい。
桜庭と一緒に話したり、笑ったり。
それで、時々桜庭の笑顔が見られたら。
それでいいーーー。
そう思うんだ。
「ミカ。アンタもさ、桜庭のこと本気で好きなんでしょ?」
ハッと、性悪アイドルがあたしの方を見た。
その顔は、やっぱり恋している女の子の顔だった。
イヤなヤツだけど、気持ちは同じなんだよね。
「昨日のことはホントにショックだったし、ホントにムカついたけど。もういい。今更サンドイッチが戻ってくるわけでもないし。ただ……」
あたしは真っ直ぐにアイツらを見た。
「せこいことすんなよ。不道なことすんなよ。ホントに好きなら正々堂々やれよ。体当たりする相手は、あたしじゃないだろ」
静まり返る3人。
「アンタ達はいいよ。女の子らしーじゃん」
あたしの言葉に、3人が顔を上げた。
「は……?」
「男っぽいなんて言われることもないだろうし、誰が見てもカワイイ女子じゃん。あたしなんて、まぁ見た目こそは女かもしれないけど、男子とは仲良くなればなるほど、女扱いされなくて。しまいには、おまえは女じゃないとまで言うヤツもいるんだぞ?」
ホントにひどい話だよ。
「失礼だよなぁ?」
あれ、なんか話の趣旨がズレてないか?
まぁ、いっか。
最初はあんなにムカついてたハズなのに、しゃべってるうちになんだか怒りもクールダウンしてきたよ。
このくらいでよしとしてやるか。
「ーーー話はそんだけ。もうあんなこと二度とすんなよ。あたしだけじゃなくて他の人にもだぞ!今度また騙したりしたら、その時はホントにぶっ飛ばすからな」
ぶんっ。
拳を振り上げる真似をして、あたしはくるりと背を向けた。
ああ、なんかスッキリした気分だぁ。
タン、タン、タン。
軽快に階段を下りていく。
けど、ふと立ち止まって。
あれ。
なんか……これでよかったのか?
「?」
ちょっと考えたけど。
「いいな」
あたしはちょっと笑ってうなずき、スキップで廊下を駆けてった。
「ひかる、どうだった⁉︎」
教室に戻った途端、有理絵が真剣な表情で駆け寄ってきた。
「おいおい、そんな心配してくれなくても大丈夫だよ。まぁ、なんかよくわかんないけど、スッキリした!」
「スッキリしたってことは……。アイツらにビシッとガツンとぶちかましてやったのね!」
「おう」
「で、なんて言ってやったの?」
「あたしは桜庭が好き。でも、アンタも桜庭が好き。だったらせいこいことしてないで正々堂々やれーーー。アンタ達は女の子らしくていいじゃないかーーー。的なことを言った」
カクン。
有理絵達が微妙にずっこけ、はぁーっとため息をついた。
「ひかるー。励まして褒めてどうすんのよ。それじゃ、アイツら全然懲りないでしょ?」
「ま、いいじゃん。あのミカって女もさ、ああ見えてアイツはアイツで真剣に桜庭のことが好きなんだよ。どうにかして、あたしを桜庭と離そうと企んであんなことするくらい。まぁ、アイツらがやったことは決して許されることじゃないけど。でも、それくらい本気で好きなんだな……って。桜庭を想う気持ちは同じなんだな……って。ーーーそう思ったらさ、なんかムカついてた気持ちもだんだんおさまってきて。あ、でもちゃんと最後にビシッと言ったぞ。『今度こんなことしたら、ホントにぶっ飛ばすからな』って」
さとみが呆れ顔であたしを見た。
「ひかるって、昔から正義感強くて平和主義だからなー。そんなお人好しだと、アイツらに桜庭取られちゃうよ」
いやいや、だから。
「取るとか取られるとか、そういうことではなくてだねー。なんつーか……。とにかく!いーの。今はそんなこと」
あたしがしたいのは、想いを届けたいとか、彼女になりたいとかそういうことじゃないんだ。
今、あたしがしたいこと。
それはね。
桜庭の応援をすることーーーーー。
あたしなりにずっと考えていたんだ。
桜庭のバンドが、少しでも夢に近づけるように、なにかアイツの力になりたいって。
少しでもアイツの役に立ちたいって。
今まであたしを助けて協力してきてくれた桜庭。
今度はあたしが桜庭のために協力する番だ。
どうか桜庭の夢が、叶うようにーーーーーーーー。
その日の夜。
お風呂の中で、ボーッと天井を見ながらあたしは考えていた。
チャプン……。
桜庭の力になりたいとは思うものの、あたしになにができるかなー。
うーん。
こう考えてみると、具体的になにか力になれることって、一体なにがあるんだ?
差し入れぐらいしか思いつかない……。
そもそも、あたしなんかが桜庭の力になれるのだろうか。
うーむ。
考え込んでいると。
「ひかるー」
お風呂場のドアの向こうから、あたしを呼ぶお母さんの声。
「電話なんだけど、開けるよー」
電話?
「はい、健太くんから」
健太?
「相変わらず元気そうね。久しぶりにまた会いたいなー。また遊びにおいでって言っておいて」
「へいへい」
お風呂場からお母さんが出ていくと、あたしはコードレスを耳に当てた。




