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シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
20/59

ブラックコーヒーとアイツ


「だってさぁー。あたし、勉強ホント苦手なんだよー。集中力ないしさー」


「でも、赤点は取りたくないし?」


「それそれ。補習と追試だけは、なんとかまぬがれたい!だから、桜庭が勉強教えてくれるって言ってくれて、あたしホントに助かったよ。でも……桜庭も自分の勉強もしなきゃいけないのに、ごめんな」


「別にいーよ。オレも自分の勉強にもなってるからちょうどいいし」


そう言いながらコーヒーを飲む桜庭。


桜庭って、なぜかコーヒーが似合うんだよなー。


しかも、甘いコーヒーじゃなくて、無糖のブラックを飲むんだぜ?


あたしはコーヒー苦手で、甘い缶コーヒーですら飲めないから。


ブラックのコーヒーをクールに飲んでる桜庭が、なんかちょっと大人の男風ってカンジに見えるんだよ。


実際、あたしなんかよりずっと落ち着いてるし、頭もいいし。


それでもって、ギターなんかもカッコよく弾きこなしちゃう技量も持ち合わせていて。


なんか、すごいなぁって思うんだよなー。



あ、そうだ。


あたしはハタと思い出し、桜庭に聞いてみた。


「あのさ。昨日……楽屋にあたしを運んでくれたのって……。もしかして、桜庭?」


「ああ。そうだけど」


桜庭がサラッと答えた。


やっぱり桜庭だったのか。


「……かたじけない。重くて大変だったよな。っていうか、昨日はホントにいろいろありがとう。あたし、桜庭にちゃんとお礼言うの忘れてて。ごめん!」


ペコッと頭を下げると、桜庭がふっと笑った。


「立花ってさ、意外と律儀なヤツだよな。全然気にすんなよ。立花を楽屋に運んだのも自分のとこ終わってからだったし。ちなみにおまえが倒れた時、最初救急車呼ぶかってなったんだけど。立花がひらひら手振りながら『大丈夫です……少し休めば……』ってうわ言言ってたらしいぞ」


「え⁉︎あたし全然覚えてないんだけど」


「だろうな。まぁ、無意識だったんだろうけど、『すみません』って謝ってたって。で、そのまま爆睡?みたいなカンジでしばらく隅の方で寝かされててさ。安心しろ。硬い地べたじゃないぞ。スタッフがちゃんと布製の折り畳みベンチ持ってきてそこで寝てたから」


「……そうだったのか」


で、そこから桜庭があたしを楽屋まで……。


「っつーか。重いどころか軽くてビビったよ。ちゃんと飯食ってんのか?」


「く、食ってるよ。とにかく……ありがとう」


「おう」


カラッと笑う桜庭。


そんな桜庭を見て、あたしの口からポロッと素直にこんな言葉が出た。



「ーーーやっぱり、桜庭ってすごいな」



「すごい?なに言ってんの、おまえ」


「だってさ。サラッと人助けできちゃったり、大勢の人の前でライブやったり、あたしに勉強教えてくれたり、苦いコーヒーも飲めちゃったり」


「苦いコーヒーって」


桜庭が吹き出して笑った。


「まぁ、コーヒーは置いといて。とにかくさ、桜庭はなんかすごいヤツってこと。桜庭が人気者の理由が最近よくわかってきたよ」


そう言いながら、あたしは座っているイスの背に深くもたれた。


はぁー。


休まる。


ロビーの高い天井を眺める。


なんか今、桜庭と2人で屋上で昼寝してた時のような気分だ。


このイスが、ふかふかして気持ちいいからかな。


そんなあたしの隣で、コーヒーを飲み干した桜庭が言った。


「人気者なのはそっちだろ」


「う。イヤなこと思い出させるなよな。でもさでもさ、今はラブレターもホント来ないんだよ」


「そっか、よかったじゃん」


桜庭が笑顔で言った。


そんな桜庭を見ながら、あたしはふと思ったの。


桜庭の目にも……。


やっぱり男っぽく見えてるのかな、あたし。



あたしは、思い切って聞いてみたんだ。



「ーーーねぇ。あたしって男みたい?」


「は?」


いきなりのあたしの質問に、キョトンとする桜庭。


「みんなに言われるんだ。あたしが女子にモテるのは、あたしが男っぽいからだって。ジンなんて、あたしのこと女じゃないとか言うんだぜ?」


笑ってるのに。


なぜか、心のどこかがチクンってした。


そんなあたしに、しらっとした桜庭の声。


「女じゃん。違うの?」


「顔とか性別とかじゃないよ。その、なんていうか。あたし!見た目も中身もひっくるめた、あたし全部で……」



「だから。女にしか見えないけど?オレには」


「ーーーーーー」


「なんだよ」


思わず、桜庭のことじーっと見ちゃった。


だって。


そんなこと言ってくれる人、初めてだったから。


「ホントに?」


聞き返してみると。


「ウソ言ってどーすんだよ。さ、休憩終わりっ。勉強すっぞー」


すっと立ち上がって歩き出す桜庭。


大きくてガシッとしたアイツの背中。



どうしてだろう。


なんだか、胸がドキドキしてる。


なんだろう、この気持ち。


なんだかわからないけど、ドキドキしてるよ。


あたしーーーーーー。



「行くぞっ」


「あ、ちょっと待ってよー」


あたしは慌ててペットボトルのキャップをしめて、桜庭の後を追いかけた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





そんなこんなで。


ちょいちょい休憩を挟みながらも、放課後は図書館に行き桜庭に勉強を教えてもらう日々が始まり。


なんだかんだであっという間に毎日が過ぎて。


あたしと桜庭が誤解カップルになってから、もう1ヶ月が経とうとしていた。


で、あたしはと言うと。


もぉ、まさにルンルンなのだ。


だってだって、あれ以来女の子達からのラブレターもピタッと止まったし、もちろん言い寄られることもなくなったし。


それにね。


ついこの間あった中間テストでは、なんと全教科自己ベストを取ってしまったんだぜ!


赤点をまぬがれたどころか、自己ベスト点まで取れちゃうなんて。


これも、ホント桜庭のおかげなんだよねー。


放課後、ほぼ毎日勉強教えてもらってたから。


テストが返ってきた時、点数見て2人で飛び上がって大喜びしちゃったよ。


無事テストも終わったから、桜庭達もバンドの練習再開するみたいで。


7月にはまたライブもやる予定らしいんだ。


たぶんあたしの方が楽しみでワクワクしてるな。


そんなわけで、ホントに心からルンルン気分でいたわけなんだけど。


そううまいこと、トントン拍子にいかないのが人生ってもんよね。


大体、女子から絶大な人気を得ている学校一のモテ男の桜庭と、片や女子からしかモテない強烈キャラの変わり者のあたしがカップルだと噂になって、それで今まで何も起こらなかったってのが、逆に不思議だったのかも。


勘違いされてるこの状況の方が、あたし的にはいろいろと都合がよかったってのもあるし、このことがきっかけで桜庭といろいろ話すようになって、気がついたらなんとなく仲良くなってて。


『つき合ってる』っていう誤解も、そのままあえて否定もせずにやってきたんだけど。


いつまでも、こんな平和で楽しい日々が続くわけなかったんだよね。


ってなわけで。


とうとう起こっちゃったんだよね。



アンラッキーな事件、がーーーーーーーーーー。



それは。


そろそろ初夏の青々した緑の香りも風に乗って漂ってくる、ある晴れた金曜日。


いつものメンバーでワイワイ教室に残ってた、放課後のことだった。











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