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シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
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スーパーガール


あたしの名前は、立花たちばなひかる、17歳。


東高等学校、3年F組。



この春から、お父さんの仕事の関係と、あたしの学力増進のために……という理由で、隣町のこの学校に転校してきたんだ。


勉強面でも友達との生活面でも、あと1年というこの大切な時期に、なんでわざわざ転校なんて……って思うかもしれないけど。


友達面に関しては全然大丈夫。


ちょっと離れてるけど、隣町だからね。


小学校や中学校が一緒だったヤツらがけっこういるんだよね。


ちなみに有理絵ゆりえとは、幼なじみのようなもんで、ずっと仲良しの親友。


小さい頃からずっと一緒で、高校進学の時に初めて違う学校になったんだ。


ホントは高校も有理絵と同じ学校がよかったんだけど、有理絵は勉強得意組で、あたしは勉強不得意組だったものですから。


ほほほほ。


それで、有理絵は高校入学と同時に引っ越して、家はだいぶ離れちゃったんだけど。


連絡はずっと取り合ってたし、ちょくちょく会って一緒に遊んだりもしてたんだ。


でも、こうしてまた一緒に同じ学校で残り1年、最後の高校生活を送れるようになったのは、ホントに嬉しい限りだよ。


転入試験はかなりイヤだったけどね。


だけど、ここだけの話、実はこの学校の理事長がうちのお父さんと中学時代からの仲のいい友達ということもあって。


ちょっと融通きかせてもらったとこはあるんだけど。



いやいや、そうは言ってもあたしも珍しく必死で勉強してがんばりましたよ。


お察しのとおり、この学校はあたしが前通ってた学校よりもちょっとランクが上の学校なのね。


で、あたしはと言うと、昔っから勉強は二の次で毎日遊んで騒いでるタイプの人間だったわけで。


テストの結果なんて毎回ひどいもんで、いわゆる赤点組というヤツですよ。


しかも、3年になるというのに、あたしってばこれからの進路もサッパリ考えておらず。


自分のことながら全く見当もついてなくて、親も先生もえらく心配してたんだよ。


そんな中、突如浮上してきたのがお父さんの転勤話さ。


それでもって、お父さんとお母さんがここぞとばかりにこの学校に転校するのはどうかと、あたしに相談を持ちかけてきたというわけよ。


まぁ、新しく住むところからいちばん近い学校だからってのもあるけど。


ほら、今よりちょっとでもレベルの高い高校に行けば、勉強だってがんばるしかないだろうし、進路に関しても少しは有利になると思ったんじゃない?


だけど、あたしとしては『ないない!』ってカンジだよね、当然。


だって転入試験なんて受けたくないし、勉強だってがんばりたくないし、今の友達と離れるのもイヤだったし。


そもそもあと1年で卒業なのに、なんでわざわざ新しい学校に行かなきゃいけないの?って思ったよ。


お父さんが単身赴任する、もしくはあたしがひとりで残って暮らす、またはなかり遠いけど新しい住まいから今までの高校に通うーーー。


転校しなくても済む方法はあるじゃん!って。


でもーーー。


ちょっと考えたんだよね。


いや、かなり考えて悩んだよね。


あたしひとりが残って暮らすのも無理があるし、通うにも遠過ぎる。


経済的にも負担がかかり家計を圧迫するだろう。


そしてなにより、お父さんもお母さんもできる限り家族一緒に暮らしたいって思いがあったみたいだし。


今まで、さんざん自由に好きなことやらせてもらってたあたしだし。


いつもあたしのことをいちばんに考えて応援してくれる、大好きな両親だし。


いろいろ考えた結果、協力しようと思ったの。


お父さんの仕事上仕方なないかなって思ったら、なんか踏ん切りついたんだよね。


それに、有理絵や昔の仲間がいることもわかってたから、ある意味ちょっと楽しみにもなってきて。


あたしお得意の前向き思考も出てきてさ。


新しい学校、新しい生活……これも新たなステキな出会いのひとつだと思って。


ここに転校してくることを決めたんだ。




そして、ありがたいことに。


理事長のはからいか、たまたまラッキーだったのか、有理絵や仲の良かった友達らと一緒のクラスにもなれて。


期待どおり……いや、期待以上に新鮮な気持ちでワクワクしつつ、懐かしくホッとする昔の仲間とも再会できて。


なんかすごく楽しくなりそうな気配で。


あたしは、すごく喜んでいたんだけど。




「はぁーーー・・・」


先ほどから、海よりも深いため息をつきっぱなしのあたし。


机の上には、朝のラブレター。


「いやー。ビックリだわー。あたし、女の子からラブレターもらってる女の子見たの初めて。しかもこんなに」


「でも、ひかるは女の子からラブレターもらうの初めてじゃないもんね」


「え?そうなのっ?小学校ではもらってなかったよね⁉︎ってことは、中学でっ?」


「そうなの!ひかるってば、なホントどこに行ってもモテるんだよねー。女子に。あの中学の時のラブレターなんてさぁ……」


「それ、すっごい覚えてる!あれでしょ?ほら、校内でもめちゃくちゃカワイイって言われてた後輩の子が、ひかるにラブラブのラブレター出したんだよねー」


「えー!!」


「美しき、禁断の愛!」


「きゃーーーっ」



あたしは、キャーキャー騒いでいるみんなをじと目で見た。


「ちょっとぉ。勝手に盛り上がんないでくれる?こっちは困ってんだからー」


あーーーあ。


頭が痛い。


このラブレター、どうしろっつーんだよ。


「でもさ、ひかるすごいよ。同性にこんだけモテるっていうのはなかなか素晴らしいことだよ。もっと喜びなさい」


「そうそう」


小学校まで一緒だった景子、中学の時に仲が良かったさとみとマヤ、そして有理絵。


みんなが妙に納得した様子でうなずく。


「喜ぶか!」


女にモテたって、ちっとも嬉しかないぜ。


「喜びなさい。同性の目は確かなんだから。それだけひかるが魅力的ってことでしょ」


「そうだよ。だってさ、大人しく立っていれば、ホントそこらへんのヘタな芸能人よりよっぽどキレイだよ。なんかオーラあるし」


「わかるわかるっ。なんかパッとしてるんだよね。舞台映えしようなカンジ!ひかる、いっそ宝塚とか入ったら?男役も姫役もどっちもいけるし、おまけにトップスターになること間違いなし!」


「っていうかさ、この前もまた芸能プロダクションの人にスカウトされたんでしょ?駅前歩いてた時に」


「マジで⁉︎それはもうなるしかないわ、ひかる。なろう!芸能人に!タレント?女優?きゃー」


「そうだよ、なっちゃいなよひかるっ。あ、でもテレビはダメじゃない?だって、しゃべらなきゃいけないじゃん?だから……モデル!モデルなら絶対いけるって」


「だね!モデルがいいよ。雑誌とかファッションショーとかの。ひかるは、黙ってるぶんには文句なしのルックスなんだから」


「うん。そうだ。モデルだモデル!それなら大丈夫だ。それでいこ!」



ちょいと、ちょいと。


黙って聞いてりゃ、みんなずいぶん好き勝手なこと言ってくれるじゃねーか。


「やめろよなー。言っとくけど。あたしは宝ジェンヌにもタレントにも女優にもモデルにもなる気はないっ。全く興味なし!それより、『大人しくしてれば』とか、『黙ってれば』とか、いぶん言うけど。どういう意味?あたしがしゃべるとなんかまずいことでもあるわけ?」


「当たり前じゃない。ありありよ」


ズコー。


「なんでだよっ」


「まぁ、あたし達は昔から知ってるから慣れてるけど。ひかる自身はあんまり自覚してないようだからハッキリ教えてあげる。この際だから。いい?ひかるの場合はね、一見するとすごくキレイでおしとやかな美少女ーーーってカンジなんだけど。ひとたび口を開くと、行動し出すと。開けてビックリ、まぁボーイッシュ。ボーイッシュっていうとなんか聞こえがいいけど、簡潔に言うと要はするに、男っぽいってことよ」その外見とはまるで裏腹で。おしとやかとはかけ離れたボーイッシュ過ぎるちょっとまずいひかるのが正体が、一気にバレてしまうのよ」


ズコーーーッ。


サラッと言ってのける有理絵のマヤの横で。またしても吉本新喜劇バリにずっこけてみるあたし。


いやいや、そんなことをしてる場合じゃない。


今の発言は、聞き捨てならぬ発言だぞ。


「おいっ。あたしはそんな男っぽくないぞ!そのまずい正体ってなんだっ。そのまずいひかるの正体ってなんだよ。あたしはいたってフツウの女の子いたってフツウの女の子だぞ」


「と、思ってるのはひかるだけ」


有理絵がポンとあたしの肩に手を置いた。


「だって考えてみなよー。いろいろあり過ぎでしょ。短いスカートなのにおかまいなしに大股で歩くわ、走るわ、ジャンプするわ。カバンの持ち方だって、男子と同じように肩にかついで持つわ。声はデカイわ、笑い方も豪快過ぎるわ。そしてその言葉遣い!他にもいろいろ。まぁ、お世話でも女の子らしいとは言えないわね」



げげげっ。


なんだよ、なんだよ。


まるで用意された台本を読むかのごとく、そんなにすらすらと有理絵の口から出てくるほど、あたしってばまずい要素が盛りだくさんのヤバイ女子なのか?


「確かにねー。でもさ、そこがひかるらしいと言えば、らしいのよねー」


「そうそう。見た目はキレイで可憐な美少女……美少女……ってカンジなのに、自分でそこを全く自覚しておらず。全くもって〝女の子らしさ〟という概念にとらわれないその自由奔放なカンジが、ひかるのいいところでもあり。ちょっともったいない部分でもあり」


おいおい。


「言ってることがよくわかんないぞ。つまり、あたしは褒められてんのか?ダメ出しされてんのか?』


あたしがじと目で聞くと。


「要するに。カワイイのにそこを鼻にかけたりしないひかるは、飾らず気取らず自然体でステキな女の子男だってこと。ちょっと男の子っぽいけど」


さとみが、あたしのほっぺたをむにゅうっとしながら言った。


「そうそう。その見た目とのギャップにキュンとしちゃう女子達がいるってなわけだ。あ、チャイム鳴る。じゃ、教室戻るわ。またね!」


景子とマヤがF組を出て行った。


「あたしも席戻るねー。じゃねー」


同じクラスの有理絵とさとみも、自分の席に戻って行った。


もうすぐ昼休みも終わり。


っていうか、ギャップにキュンって。


なんだよ、それ。




はぁーーーあ。


窓側のいちばん後ろの席のあたしは、壁にイスごと体をもたせかけ、足をブラブラさせながら窓の外を眺めた。


外はこんなにいい天気で、桜もこんなにキレイなのに。


「…………………」


机の上のラブレターをちらっと見る。


「……はぁ」


ダメだ、憂鬱になってきた。


しまお、しまお。


あたしが体を起こし、机に手を伸ばしたその瞬間。



ひょい。



白い封筒の手紙が宙に浮いたんだ。











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