表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シャイニング・ガール   作者: 花奈よりこ
16/59


パチ。



あたしは目を開けた。


あ、れ?


「お、気がついたか?」


え?


あたしを見下ろす顔。


桜庭っ⁉︎


ガバッ。


あたしは飛び起きると、かけてあった毛布を引っ剥がした。


ここ、どこっ?


しかも、なんで桜庭が⁉︎


混乱。


「おまえ、覚えてねーのかよ。まぁ、あんなハデにぶっ倒れりゃ無理もねーか」


え?え?


キョロキョロ。


ここはどこなの?


あたしが座っている下には、敷布団代わりに座布団が何枚か敷いてある。


なに?なに?なんで?


そんな、ひたすら『?』マークのあたしに、桜庭が毛布をかけ直してくれた。


「まぁ、とりあえず落ち着けよ。まだ本調子じゃねーんだから」


私服の桜庭。


擦り切れたブルージーンズに、シンプルな黒のTシャツというカッコで、あたしの前にあぐらをかいて座っている。


「ここは、楽屋。ライブハウスの」


ライブハウス……。


「で。おまえは、人に押しつぶされて。暑さでのぼせて。ぶっ倒れちまったってわけ。まぁ、酸欠と?貧血っぽいカンジもあったんだろうな」


「ーーーああっ!」


ビデオの巻き戻しのように、きゅるるる!と記憶が巻き戻り、ぶっ倒れる寸前のところでピタッと止まった。


「そうだよ!あたし、あまりにビックリしたのと、あの人混みで頭がボーッとしちゃって。それで……。なんだかわかんないけど、プッチンしちゃったんだ!」


「ビックリって、なにが?」


キョトンとした顔で聞いてくる桜庭。


「桜庭のことでしょーが!」


「オレ?」


「そうだよっ。だって!ステージ見たら、いきなり桜庭がギュイーンってギター鳴らして立ってたんだもんっ。まさか、隣の席の桜庭がそんなとこに居るなんて思ってもみなかったから。ホントにぶったまげちゃったよ」


「ああ、そのこと」


なんてしらっとしちゃって、まるで他人事。


「あのさー。フツウもうちょっとなんか言うだろ。『そうなんだよ。実はオレ、バンドやってたんだよ』とかなんとかさぁっ。あたし全然知らなかったよ」


「だって言ってねーもん」


コケッ。


な、なんなの?


この素っ気なさ過ぎるしらっとした態度は!


桜庭ってば、まるで今もひとりでいるかのように、しらーっとした表情で、近くのテーブルに置いてあったみかんをポーンポーンと上に投げてはキャッチして遊んでいる。


ちょっと、ちょっと。


あたしには、なんにも話すことはないってわけ?


そりゃ、あたしと桜庭はただの誤解カップルで、なんでもない2人だから。


桜庭がなにをしていようが、あたしには関係ないかもしれないけど。


だけど、だけどさ!


席だって隣なんだし、最近はけっこう2人でしゃべるようになったんだし、もうちょっとなんか教えてくれたり、話してくれたりしてもよくない?


こっちはビックリして(それだけが原因じゃないけど)ぶっ倒れたっていうのに。


なんだろ。


なんかわかんないけどムカついてきた。


「……お邪魔しましたっ」


ガバッ。


あたしは毛布をはねのけると、ズカズカとドアに向かって歩き出した。


………違う。


ムカついたんじゃない。


ホントは、ちょっと寂しかったんだ。


あたしと桜庭、友達になれたと思ってたから。



ちょっと……仲良くなれたと思ってたから。


だから、教えてほしかったんだ。


『ライブやるから来ないか』って、誘ってほしかったな……って。


あたし、なんでかわかんないんだけど。


そう思っちゃったんだよね。



「おい。どこ行くんだよ」


「邪魔したな。帰るよ」


「別に邪魔じゃねーよ。オレひとりだし」


あれ、そういや……。


「バンドのみんなは?」


「他のバンドのライブ観てる」


親指でドアの方を指す。


「桜庭は行かないの?」


「オレは別にいーよ」



もしかしてーーー。


あたしのことを心配して、ずっとここでついててくれたの……?



「アイツらもライブ観てるぜ」


「アイツら?」


「健太とかだよ。おまえら一緒に来たんだろ?ステージの上からおまえら見えた。たぶん、立花が倒れたの知らないだろーな。すんげー人だから」


そっかぁ……。


ぐいっ。


「わっ」


ズカズカ歩いてきた桜庭に腕を引っ張られて。


ストン。


あたしは再び座布団の上に座らされた。


「おまえは、終わるまでここにいろ。まーたぶっ倒れるんだから」


桜庭のぶっきらな優しさに。


「……うん」


あたしは思わず素直にうなずいてしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーー





「おいしー」


桜庭が買ってきてくれたホットココアを飲んで、あたしはようやく落ち着いた。



「でも、ホントにビックリしたぜ。まさか、今日のこの場所で桜庭に会うなんて思ってもいなかったから。しかも、客席じゃなくてステージの上なんだもん」


コーヒーを飲んでいる桜庭が、ちょっと笑った。


「オレさ。今日、初ライブだったんだ」


「初ライブ?」


「立花は知らねーかもしんないけど、今のバンド、オレが入る前からずっと活動してたんだ。学祭とかでさ」


「ああ、有理絵からちらっと聞いたよ。すっごい盛り上がってたって。ロックバンドのコピーとかやってたんでしょ?」


桜庭がうなずく。


「でも、去年の学祭の後からコピーじゃなくてオリジナルをやるようになって。オレもそこから一緒にやり出したんだ」


「オリジナルってことは、作詞作曲?さっきやってた曲も?」


「みんなでな」


「すごいな!」


「最初は4人だったんだけど、やっぱギターは2人いた方がいいってことになってさ。ギターが2人いるとさ、音の幅や迫力が全然違うんだよ」


楽しそうに話す桜庭。


「前から誘われてたんだ。一緒にやらないかって。アイツら中学一緒のヤツらもいて、オレがずっとギターやってんの知ってて」


「へぇ。昔からギター弾いてたんだ。桜庭すごいな」


音楽、好きなんだ。


なんかいい意味で意外な一面だな。


「別にすごくねーよ。ただ好きなだけ」


そう言った桜庭の目は、すごく澄んでいて。


なんだかキラキラしているように、あたしには見えたんだ。


桜庭、ホントにギターが好きなんだなぁ。


「でもさ、なんで誘われてたのにやらなかったの?学祭も出ればよかったのに」


もし学祭のライブに出てたら、女子達すごかっただろうな。


だって、ただでさえ人気の桜庭なんだから。


「ーーーいろいろ考えてて。中途半端にやるのはイヤだっていう想いがオレの中にあってさ」


あたしの質問に、桜庭はこう答えた。


「中途半端?」


どういうこと?


ガコンッ。


桜庭が、飲み干したコーヒーの空き缶を、ゴミ箱にシュートした。


そして、真っ直ぐな瞳でこう言ったんだ。



「オレ、プロになりたいんだ」



ーーーーーって。



一瞬。


ほんの一瞬、あたしの体に電流が流れたようになんとも言えない衝撃が走った。


「プ、プロ⁉︎」


驚いた。


思わず声がうわずってひっくり返ってしまった。


本日二度目のぶったまげ。


でも、桜庭は大きくうなずいたんだ。



「オレの、夢ーーーーーーー」



涼しげな瞳をキラキラさせながら、ちょっと恥ずかしそうに笑う桜庭。


オレの夢。


桜庭の、夢ーーーー。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ