なんでアイツが⁉︎
そして、やってきました日曜日!
天気も良好。
まさにお出かけ日和。
「いってきまーーーす」
あたしは元気よく家を飛び出した。
わぁ、ホントにいい天気だなぁ。
空は真っ青。
気持ちいいぜ。
なんかいいことありそ。
有理絵と待ち合わせの場所で、ポカンと空を見上げていたら。
ふと、思い出したんだ。
桜庭と2人で、授業サボって屋上で昼寝したこと。
「ぷ」
おっかしい。
だって、桜庭ってばホントにおやすみ3秒なんだもん。
また、あそこで昼寝したいなぁ。
「ひかるーーーっ。お待たせ!」
すぐに有理絵が走ってやってきた。
ガヤガヤーーーーーーーー。
ライブハウス。
もう既にすごい人、人、人っ。
始まる前から熱気むんむん。
ボワッと青っぽく光るライブハウスの中。
いろんな人達が、思い思いに待ち時間を楽しんでいる。
ほとんどがあたし達と同じくらいの年の人だと思うんだけど、ちょっとキレキレのカッコしてる人達から、フツウのラフなカッコをしてる人達と、ホント様々。
そんなみんなのファッションを見てるだけでも、すっごくおもしろい。
ちなみに、今日のあたしのカッコはと言うと。
七分袖のシンプルな赤のボックスミニのワンピに、白のラバーソウルのブーツと、ちょっとキラキラのシルバーのスパンコール付きの小さなポシェット。
そして髪の毛は、ちょっと気合いを入れて全体をヘアアイロンでくるんくるんに巻いて、太めのヘアバンド。
テーマはどことなく60年代風のレトロモダン。
有理絵のご要望どおり、今日は女の子ちっくに決めてみましたわ。
「いやぁ、すっげー人だな」
飲み物を買いにロビーに行ってた健太達がようやくっ戻ってきた。
「あっちもこっちも、人で人でよぉ。もぉ、すげーのなんのって」
でもホント、すごい集客率だなぁ。
今日やるバンドって、そんなに人気あるわけ?
オールスタンディングの会場だから、あたし達は早めに来てよく見えそうな前の方をキープしてるんだけど。
「なぁ、有理絵。今日出るバンドってどんなバンド?そんなに人気あるのか?」
「あたしもよくわかんないんだよね、うちの学校のくらいしか。うちの学校のバンドはさ、毎年学祭で演奏してるんだけど、ロックバンドのコピーとかやっててめちゃめちゃ盛り上がってたよ。でも、今日はオリジナルの曲をやるって噂みたいだけど」
へぇー。
「そうなんだ」
「ひかる、知らない?B組の大谷くんとか。けっこうカッコイイ人達だよ。出てきたら教えるから。ちゃんと見ててよ」
有理絵がニヤッとしながら肘であたしをつついてきたその時。
「ねぇねぇ、カッコよくない?前の2人」
およ?
すぐ後ろの女の子達が、なにやらヒソヒソしゃべっている。
「ホントだ!やだ、めっちゃカッコイイ。特にあの黄色いTシャツ着てる人っ」
小声でキャーキャー騒いでいる。
黄色いTシャツ……?
ピクッと眉毛が上がった。
むむむ?
あたしの耳はダンボ。
「えー。あたし、あの赤いニット帽かぶってる人の方がタイプかもー。カッコイイー」
赤のニット帽……?
黄色いTシャツ、赤のニット帽……。
それって、それってーーーー。
「ぎゃははは」
2人の笑い声。
「あ、笑ってる。やだ、笑ってる顔もいい!」
ギョギョギョ!
それってそれって、もしかしてもしかすると。
健太と卓のことではないかっ⁉︎
うっひょー。
何気に速攻チェック入れられてるよ、健太と卓ってば!
うーむ、隅に置けぬヤツらだなぁ。
腕組みして感心していたら。
「ひかる、ひかる」
有理絵が腕を引っ張ってきた。
「カッコイイ人、いた?」
「え?あ、いや、別に」
「んもう。全然周り見てないでしょう。イケてる人、けっこういるよ」
「そぉー?」
まぁ、確かにこんだけ人がいれば、カッコイイ人もたくさんいるかもしれない。
でも。
なんか、バーゲンで掘り出し物探してるみたいでイヤだなぁ。
なんていうかさ、ライブハウスに来て、一生懸命カッコイイ人を見つけるのではなくて。
例えばーーー。
うじゃうじゃいる観客ではなくて。
ステージの上で、まばゆいライトを浴びて歓声に包まれながらギターを弾く男の子。
楽しそうに、気持ちよさそうにギターを奏でるひときわ輝いている彼。
あたしが、曲に合わせて手拍子しながら彼を見つめていると。
ふとした瞬間に、パッと目が合うの。
そして、2人は見つめ合い。
恋に落ちてしまうの。
最後の曲が終わると同時に、彼はあたしにピックを投げてーーー。
むふふふ。
いいないいな、そういうの。
あたしはね、こう見えてもなかなかのロマンチストなんだから。
男どもはみんな、あたしのことを女じゃないとか言うけどさ。
と、その時。
フッ。
会場が真っ暗になったの。
お客がざわめき出したその瞬間。
パッ!!ーーーーーーーーー
ステージいっぱいにまばゆいライトが照らされて。
体がしびれそうなくらいの大音量の音楽が聴こえてきたんだ。
そして、いきなり会場全体がひとつになって大きく揺れ出したんだ。
ひええっ。
こ、これは、ホントに学生バンド⁉︎
まるで、プロのミュージシャンのライブに来たかのような、熱気と迫力。
すごいーーーーーー!!
なんだか知らないけど、気持ちが高揚してくる。
眩しくてよく見えなかった目も落ち着いてきて、あたしはやっとステージに目を向けることができた。
元気で、そしてなかなかの美声のボーカルの歌声が響き渡る。
ギターも、ベースも、ドラムも、みんなすごい!
ロックなカンジで迫力あるんだけど、なんだか優しくて。
とってもキレイなメロディー。
これは、どこの学祭のバンド?
有理絵に聞こうと思って横を向いたら。
あれ?
いない。
さとみも健太も卓も、みんないない。
どこっ?
「わっっ」
後ろからの人の波にどっと押されて、あたしは思わずよろめいてしまった。
す、すごい盛り上がり。
人の波に押されて流されてみんなとはぐれちゃったんだ。
でも、終わればロビーで落ちあえるよね。
そう思って。
再びステージを向いた、その時。
ーーーーーーーえ?
ブルブル。
あたしは頭を振った。
なんか今。
そんなとこに居るハズがない人の姿が見えたような気がしたんですけど………。
ワァァァーーーーーーー。
ものすごい歓声の中。
あたしは胸を押さえながら、密かにパニクってる頭を整理しようと、大きく深呼吸した。
落ち着けひかる。
きっと見間違いだよ。
だって、こんなとこにいるわけないじゃん。
アイツが!!
ギターのソロ。
なめらかでキレイで迫力のある音が、会場を包み込む。
「キャーーーッ。リョウヘーーーイ!!」
近くから響いてくる、女の子達の黄色い声。
リョウヘイ……?
ごくっとツバを飲む。
確か、アイツの下の名前……。
あたしは、またそっと顔を上げた。
ワァァーーーーーーー・・・・・。
あたしの中でだけ、歓声が遠のいていく。
や……っぱり。
見間違いなんかじゃなかったんだ。
ドッキン、ドッキン。
フルスピードで心臓が鳴っている。
なんでこんなにドキドキするのか。
自分でもわからない。
だけど、とりあえず。
どうして。
どうして、なんでアンタがここにいんのっ?
桜庭ーーーーーーっ!
クラ……。
あ、あれ?
なんかめまいが……。
なんか、ボーッとするような…………。
とにかく、熱い・・・ーーーーーー。
「キャー!ちょっとっ」
「おいっ。誰か倒れたぞ!」
なんか、言ってるみたいだけど……。
よく、聞こえない……。
ずーっと遠くで、かすかに誰かの声が聞こえてるような………。
そう思ってるうちに。
あたしの意識は静かに遠のいていったんだ。




