誤解カップル
「えーーーっ?告白されたぁっ⁉︎」
次の日。
有理絵の高い声が、休み時間の教室に響いた。
「しっ!声がデカイっつーの!」
あたしは慌てて有理絵の口を押さえた。
昨日の出来事を有理絵に話そうと、有理絵の席にやってきたのだ。
「ごめん、ごめん」
有理絵が慌てて小声になって聞いてきた。
「昨日の、あのジュース買いに行ってた時に告白されたってわけ?それでなかなか戻って来なかったっのねぇ。でも、なんでその時教えてくれなかったのよー」
「いや、ちょっとなかなかいろいろあってさ。教室までの道のりだけではちょっと話しきれない内容でさ。みんなもいたし、ほら、また健太の耳にでも入ったらこれまた面倒だろ?で、とりあえず有理絵にだけ話そうとと思って」
「なるほどね。で、その一件はどうまとまったわけ?いろいろって?」
「それがさーーー……」
話出そうとしたその時、健太がやってきた。
「よぉ、今日は中坊じゃないじゃん」
いつもの悪ガキ面で、あたしと有理絵が座ってる席の近くの机の上にピョンと座る。
「ホントはけっこう好評価だったんだろ。残念だったな、今日はその中坊じゃなくて」
「バーカ。ところで、その後どうだ。おまえのファンとかいうヤツらは」
「昨日はまたラブレター入ってたんだけど、今日はひとつもなし!」
ネクタイをピシッと直しながら胸を張って言うと。
「って。喜んでられないんじゃないの?ひかる。ラブレターよりももっと刺激的じゃん」
「有理絵っ。なんで言うかなっ」
頬杖ついてる有理絵がニヤッと笑ってぺっと舌を出すと、それを見た健太がガバッとこっちを向いた。
「ラブレターより刺激的って。おまえ、まさかまた直接告白されたのかっ?」
「ああ、もぉー。大声出すなよっ。そしてあたしを責めるなっ。あたしだって、されたくてされてるわけじゃないもん」
「で、誰にだよ」
「小林ゆきちゃん。ジンがカワイイって騒いでた子よ」
あたしに代わって有理絵が答えた。
「マジ⁉︎あの、ひと言〝好きです〟のラブレターの子⁉︎マジかぁ……」
健太が呆れたような、半ば気の毒そうな顔であたしを見る。
「なんだよっ。しょうがないじゃん。されちゃったんだもん」
あーあ、これが男からの告白だったらなんの問題もないのに。
むしろ嬉しいのに。
「あーーーっ。もう!」
ぐしゃぐしゃぐしゃっ。
「ひかる、頭ぐしゃぐしゃしないのっ」
あたしが髪の毛をぐしゃぐしゃ引っ掻き回していると。
「おい。なんかあっち騒がしくねー?」
健太が廊下の方を指差す。
「騒がしい?」
あ、ホントだ。
見ると、女子達ヒソヒソがキャーキャー騒いでる。
と、思ったとたん。
ガラッ。
教室のドアが勢いよく開いて、さとみとマヤが駆け込んできたんだ。
「なにごと?」
「さぁ」
有理絵と首を傾げていると。
2人が机の間をぬって、こっちに向かって走り寄ってきたの。
そして。
「ひかる!!」
ガタンッ。
さとみとマヤが、机にぶつかりながら、息を切らしてあたしの前に立ちはだかったんだ。
「ど、どーしたんだよ」
みんなの視線があたし達に集中してる。
そんな中、荒い息のマヤがごくんとツバを飲み込んで口を開いたんだ。
「ひかるっ。桜庭とつき合ってるって、ホントなのっ⁉︎」
え。
一瞬の沈黙のあと。
たちまち教室中が騒ぎ立った。
「マジーーー?」
「ウソ、立花と桜庭がっ?」
「ヒューヒュー」
指笛まで聞こえ出す始末。
おいおい!ちょっと待てっ。
「ひかる、ホントなのっ⁉︎」
「おいっ。聞いてねーぞ、そんな話」
有理絵と健太があたしの肩をつかむ。
「ち、違うって。つき合ってないよ!」
と、いう声も、みんなの大騒ぎでかき消され。
「ひかるっ。ちゃんと教えてっ」
詰め寄るさとみとマヤ。
ちょっと待ってくれよーーーーっ。
一体どっからそんなでたらめな噂がっ。
「……あ!」
も、もしかして、昨日の〝あれ〟ーーー?
ガタンッ。
あたしは思わず立ち上がってしまった。
ヤバいっ。
誰かがそれを見て勘違いしたんだ。
サーーーー。
みるみる血の気が引いていく。
ど、どうしよう、この騒ぎっ。
っていうか、桜庭にすごい迷惑かけちゃう!
パッと後ろを振り向くと、いつもの席に桜庭の姿。
そして案の定、既にクラスの男子達にやいのやいのとこずかれまくってる。
あたしは青ざめた。
た、大変だ………。
早く誤解を解かなければっ!
慌てて声を張り上げる。
「ち、違うんだよ!だから、そのっ………。あたしが桜庭のことを彼氏と言って、つき合ってると言ったのは、つまりっ……!」
あたしが必死に説明しようとしている側から。
「おお!立花から『彼氏』出ました!よっ」
「『つき合ってる』もいただきましたっ。ごっつあんです!ラブラブー」
クラスの聞く耳持たないお調子者の男子達がはやし立てて、またまた教室中大騒ぎ。
だからっ!違うんだってばーーーー!
ジダンダ踏みながら、思わず桜庭の方向くと。
パチ。
目と目が合ってしまった。
なんか言ってる。
え?なに?バ、カ……?
そう口パクで呟いた桜庭は、頬杖ついて知らん顔しながら、みんなの言葉もスルーしてる。
廊下の方から、他のクラスの女子達が騒いでるのうっすらが聞こえてきた。
「ウソー。ショックー」
「桜庭くんって、彼女いたのぉ?」
「彼女って誰?誰?」
ど、どうしよう。
なんかえらい騒ぎになってる……。
まさかこんなことになっちゃうなんて。
桜庭がこんなにも人気者だったなんて。
『違うんだよ、その噂は勘違いで。ホントは……』
かくかくしかじか……こういうわけで。
ーーーそう、みんなに説明しようと思ったあたしだったんだけど、出かけた言葉にブレーキがかかった。
だって。
考えてみたら、昨日のことには小林ゆきちゃんが関係してるから。
もしあたしが誤解を解くために、昨日あの子に告白されたことをみんなに話したら。
きっとそれもまたまた噂で広がるだろう。
しかも、ことがことだけに彼女を傷つけてしまうかもしれない。
きっと桜庭は、彼女とあたし、両方の気落ちを考えてくれて、あえてなにも言わずにいてくれてるんだ。
ホントは違うんだって、桜庭だって言いたいハズなのに。
昨日のこと、誰にも話さず黙っててくれてる。
冷やかされて、誤解されて。
イヤなハズなのに。
……あたしのせいだ。
桜庭にすごい迷惑かけてる。
迷惑、かけてるーーーーー。
そう思ったら。
あたしはいてもたってもいられなくなったんだ。
やいのやいのと質問ぜめにあってる桜庭。
……助けなきゃ。
あたしのせいで、こんなっ。
助けなきゃ、桜庭を!!
そして謝らなきゃ!!
そう思った瞬間。
あたしは、騒ぎ立つみんなの間をすり抜け。
「桜庭、こっち!」
アイツの手をつかんで教室を飛び出し。
そのまま屋上へと駆け上がって行ったんだ。
そして屋上に着くなり、あたしは思いっ切り桜庭に謝ったんだ。
「ごめん、桜庭っ。あたしのせいで、変な誤解を招いて変な騒ぎになっちゃって……。迷惑かけてごめん。ごめんっ!」
ぎゅっと目を閉じたまま、あたしは90度に頭を下げた。
「おい、頭に血ィのぼるぜ」
桜庭の声。
ちょっとぶっきらぼうな言い方だったけど、明らかに優しい口調だった。
「……怒ってないのか?」
あたしは静かに顔を上げた。
「怒ってなんかねーよ。でも、なんで屋上?」
「え、だって。桜庭、みんなにギャーギャー言われてたから。昨日のこと……ことがことだから。たぶん言いづらくて言えなくて困ってると思って。そしたら、助けなきゃと思って。ちゃんと謝りたかったし。でも、みんな勝手に騒いでて全然収拾つかないからーーー。とりあえずこの場から脱出しなきゃと思って………」
「なるほど。でも、今のでいっそう盛り上がってんじゃねーの?」
「え」
ハタと気づけば。
あの状況の中から、2人で教室を飛び出すなんて。
まさに火に油を注いでるようなもんじゃないかっ。
ぎゃーーー!!
またしてもあたしの顔は一瞬にして青ざめた。




