ラブレター
第1章
カパ。
バサバサーーー。
「げ、なにこれ」
あたしの下駄箱の中から、なにやら手紙らしきものがこぼれ落ちてきた。
「きゃーっ。ひかる、それってひょっとして、ラブレター⁉︎」
少し遅れて玄関に入ってきた有理絵が、黄色い声を出して飛びついてきた。
らぶれたぁ?
あたしに?
しかも、1、2、3通もっ?
「ウソウソ、ちょっとちょっと」
なんでなんで?
だって、あたしまだこの学校にきたばっかだよ?
一体どうしちゃったの?あたしってばそんなに魅力ある?
いや、まいったなぁ。
などとちょっと照れながら、あたしは拾い上げた手紙のひとつの封を急いで開けてみた。
「どれどれ?」
有理絵も、興奮しながら覗き込んできた。
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立花ひかる様
先輩、初めて先輩を見た時から、すごくステキな人だなぁと思っていました。
先輩はついこの間、隣町から転校されてきたそうですね。
先輩みたいなキレイな人は、今まで見たことがありません。
先輩のことがもっと知りたいです。
好きです。
2年A組 長沼陽子
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「え。ヨウコ?」
ちょ、ちょっと待って。
これって………。
「あれ、ひかるちゃん。ひょっとしてこのラブレター、女の子からだったりしてー」
背後から聞こえる、ニヤついた有理絵の声。
な、なにぃーーーっ?
女からラブレターだと⁉︎
そんなアホな!!
「ジョーダンだろ。あたしはノーマルだぞ。身も心も正真正銘女だぞっ」
「うん。でも、この子も間違いなく女の子だよ。見て。字、カワイイー」
「うむ。確かに字はすごくカワイイ。いやいや、そうではなくて」
どうして女のあたしに、女からラブレターがくるんだよ。
本来は異性である男からくるものではないのか?
でもまぁ、大丈夫だ。
この子もなにを血迷ったのか知らないが、人生そういう間違いを起こすことも時にはあるだろう。
だから、あとの2通は当然……
「坂川奈津江に、小林ゆきーーーだって」
残りの2通の封筒を見ながら、有理絵がにっこりほほ笑んだ。
ズコーーーッ。
あたしは思わず、吉本新喜劇バリにズッコけてみた。
いやいや、そんなことをしてる場合ではない。
3通ともしっかり女の名前じゃないか!!
一体これはどういうことだっ。
下駄箱にラブレターが入っている!なんて喜んでみたら。
差し出し人は、全部女。
なぜだ?どうしてだ?
せめて1通くらい、男からであってもいいのではないか?
………これは悪夢だ。
そうとしか言いようがない。
「有理絵、これはきっと悪い夢を見ているに違いない。よし、家に帰って寝直そう!」
あたしがガシッと有理絵の肩をつかむと。
むにぃ。
有理絵があたしのほっぺたをつねった。
「いてっ」
「ね。夢じゃないでしょ、ひかるーーー。ってな会話、前にもどっかでした気がするんだけど」
ギク。
ニヤニヤしながら、遠くを見るように懐かしそうに目を細める有理絵。
「あれは、確か中学の時だったよねぇ。朝、学校に来たら、ひかるの下駄箱になんか入ってたんだよねぇ。
なになに?って一緒に見てみたら。なんと女の子からのラブレターだったんだよねぇー。懐かしいね、ひかる」
ズン。
あたしの頭上に、重い石がのしかかってきた。
ああ、あたしってなんて不憫な子なんでしょう。
17年間生きてきて、今まで一度たりとも男の子から告白されたことなんかないのに。
なんでかどうしてか。
あたしってば、女の子からばっかり好かれるんだよーーー!
ううう。
中学の時も、今のようなラブレター。
前の高校ではラブレター&直接告白。
しかも2回。
だけど、今度の学校こそはもう大丈夫!って思ってたのに。
なのになのに。
またもや女からラブレターかよ。
しかも3通も!
しかも転校してきて、まだ1週間しか経ってないというのに!
一体、世の中どうなっちゃってるわけ?
誰がなんと言おうと、あたしは正真正銘の女だし、人並みに恋だってするんだよ。
もちろん男に。
そりゃ、この地球上はいろんな人達がいるさ。
いろんな愛のカタチがあるさ。
性別を超えた愛もあるだろうさ。
あたしだってそれは理解してるし、よくわかってるよ。
いや。
よくわかっているなどと愛を語ってはみたが。
ホントのことを言うと、誰かのことをすごく好きになったこととかは、実はまだい。
だけど、これからその恋とやらもするのだよ。
たぶん。
そしてあたしの場合は男に!
残念ながら、女からラブレターもらっても告白されても全くときめかん!むしろ困る!
だから、こんなの納得いかん!
あたしだって、あたしだって。
ちゃんとフツウに、男の子から告白とかされてみたいんだっ。