第544話 親友の決断
ヒビキは、なんとなく今後の予定としてきりだしたのだが、彼から返ってきた言葉は想像外の返答だった。
「そうそう、おっくんは、この後どうするの?」
「あぁ、俺は、こんど第一エリアが新しく作られるって聞いたから、
そっちで、神様と戦ってこようかと思ってる」
「また、戦いにいくんだね。
じゃ、オペレータさんも一緒に行ってくれるの?」
荻原は、現実世界の隣でヒビキの代わりにサポートしてくれていた森山春奈を思い浮かべると大事な決断をあっさり決めたのだった。
「あぁ、当然さ。
向こうに行くときにプロポーズしようかと思っている」
親友の決断がこの場でオペレータに届いているであろう報告にヒビキは呆れるしかなかった。
「はぁ、これだだから、おっくんは。
それをここでいったら丸聞こえでしょ。
それも、移動の時とか。
もっと気の利いた場所とか選ばないの?」
「そうか?
面倒だろ、探すの。
移動の時間は暇だから、ちょうどいいじゃないか」
ヒビキは、親友の相手の心情を感じ取れないことに頭を一掻きすると、こんな奴に付き合ってくれていたであろうオペレータの女性に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。ヒビキの想像通り、森山春奈は、自分の横で仮想世界に入っている年下の彼氏に、怒りを覚えながらも、そういうやつだったと思うと盛大なため息が自然とでていた。だが、納得できない部分もあったため、今すぐこちらに戻らせることにして、文句の一つでも言ってやろうと決断した。
「まぁ、成功することを祈ってるよ」
「ああ。なんか春奈が騒いでるから切るよ。
じゃ、またな」
「うん、また」
荻原は、笑顔で手を振ると一瞬で光の粒子に変わると、直ぐにその場には何も残らなかった。
テーブルに一人でいると、現実世界のことも理解できるようになった妹と妹の親友が声を掛けてきた。妹は普段と変わりはしなかったが、ユキナはしゃべり方が現実世界の時のように少し距離を置いた話し方へと変わっていた。性格も、スズネはまったく変わらなかったが、ユキナは、あっけらかんとした性格から、おしとやかさと臆病な性格へと変化していた。
「あにぃ。何ひとりで黄昏てんの?」
「そうですよ、ヒビキさん。
何かあったんですか?」
「うん、おっくんと話してたんだよ」
スズネは、過去に一緒に遊んでいた思い出を振り返り懐かしさを感じた。
「あぁ、荻原にいちゃんと?
で、なんだって」
「あと一か月もすれば、
2人とも現実世界に戻れるって」
「そうなんだ、じゃ、この世界をもっともっと満喫しなきゃね」
ユキナは、親友の考えが手に取るようにわかり、諦めたように呟いた。
「……はぁ。
そういうと思ってたよ」
「私は、ここでゆっくりと待ってるでいいよぉ」
ユキナは、スズネと違いインドアな思考が強くなり、外で驚くよりも町の中の平和な空間で過ごしたいと思っていたが、親友は許してくれないだろうことは分かっていた。
「そんなこと言わないで、一緒にみてまわろうよぉ。
一人じゃさびしいよぉ、ユキナちゃんがいないと……。
やっぱり冒険が一番だよ、ね♪
特にあの塔♪
一階も登ってないんだよ、ユキナちゃんはあと一階登れば何でも叶うんでしょ。
いこうよぉ。あにぃからもお願いしてよぉ。
ね、あにぃ♪」
こんな時だけ甘えた口調でお願いする妹はどうかとヒビキは思っていたが、一緒に居られる時間も少ないことから説得する手助けをしてあげることにした。
「そうだよ、ユキナちゃんも、一緒にいこうよ。
ばらばらだったら、何かあったら困るしね、お願い」
ユキナは、自分よりも一歳年上の憧れのお兄さんから、お願いされると顔を真っ赤にして頷くしかなかった。
「……はい♪」
「だから、あにぃ、大好き♪」
スズネが無邪気に抱き着いている中、アメリアと共に麺料理を食べに付いて行ったリイナ達が一緒に戻ってきた。




