第533話 大剣削り
荻原が突き刺そうとした瞬間に、シューリンの後方から小さな異音が聞こえてきた。それは、フォンフォンという風を切り裂いている音だったが、遠くの橋を見ても何も見えなかった。
さらによく目を凝らしてみると小さな針のような黒い点のようなものが見えた。その黒い点をじっと凝らしてみているとだんだんと大きくなり鉛筆程ほどまで大きくなっていった。同時にぶぉーんというすさまじい音が聞こえたと思うと黒い小さな円は、急に平べったい板のような物に代っていた。既に脅威を感じていたが、見すぎたと感じた時には、荻原の胴よりも大きな黒い塊が近づいていた。回避が必要だと判断した時には、二体の分身の胴を突き抜けて黒い塊は通過していった。その直線状には、本体もはいっていたが、絶対回避のスキルによってあらぬ動きをしながら、回避できた。
「な、なんだったんだ、いまのは」
分身が光の粒子になった時には、二体分のダメージが荻原を襲いこの後の戦闘を考えると、目の前に走ってくる二人組が来る前にポーションを使って体力を回復する必要があった。
ポーションを使っている間に、ゴスロリの服をきた美少女とドワーフには似合わない魔法使いの服をきた小さい背の二人組が、シューリンの前までやってきた。
エレメールは、シューリンの悲惨な状況を一度みたが、部下に任せることにすると倒すべき敵に向かって全速力で駆け抜けた。
「ペテ、シューリン様を頼むなの。
私は、あいつをやっつけるなの!」
「判りました、姫様」
ペテは、死亡寸前のシューリンに持っているだけのポーションを全て振りかざすと上半身に刻まれたバツ印の傷が無くなり荒々しかった息は整い始めた。
とりあえず、命の危険が無くなったシューリンをペテが持ち上げた。自分の3倍の大きさのシューリンを頭の上に持ち上げると、後方へと下がって行った。
荻原は、この場に似合わない少女をみて疑問をぶつけた。
「なんだお前らは?」
「シューリン様を助けにきたなの」
「お前みたいなやつが助けになるわけないだろ」
荻原は、目の前のツインテールの美少女が自分の背丈よりも長く黒い大きな大剣を持っていたが、どうしても張りぼてで本物の剣だとは思えなかった。何度となく、オペレータだったヒビキから、見た目で判断してはいけないと忠告されてきたのだが、今回もまた同じ過ちをするのだった。
それでも、油断はしないと最大である3体の分身を生み出して、一斉にエレメールに向かって襲い掛かった。エレメールは、ゴブリンを見るような目つきで相手を見ると、大きな黒くて堅い鋭い大剣を横一列にないだ。前から走ってきた3体は、大剣を意識することなく真っ二つに切り裂かれた。だが、荻原の本体だけは絶対回避により急激なブリッジによって、真っ二つは裂けられた。
横に切り裂きおわった大剣は、上空から襲ってきた人間に対しても縦に一撃入れた。上空にいた荻原の分身は、何とか剣でうけとめようとしたが、剣の絶対切断のスキルにより大剣は切断され、切断された塊によって分身は二つへと別れ光の粒子へと姿を変えた。
姫は自慢の大剣の切っ先がなくなり若干短くなった大剣を見つめると人間をにらみつけた。
「その剣はなんなの?」
大剣の切っ先が切れ若干短くなったがそれでも荻原の身長の倍を超えていた。その荻原は、あり得ない形で回避したことで、体も内部の筋肉繊維が断線されそのばで苦しんでいた。さらに3体の分身のダメージも加わり外見は擦り傷すらないが、内面のダメージは瀕死に近かった。
カバンからポーションを取り出すと自分に振りかけ、なんとか回復することができた。そして簡単に分身を倒した姫をにらみつけると、言葉を発した。
「それよりも、そのでっかい武器はなんだ。
お前が持てるしろものじゃないだろ」
荻原がみた先は、かけた大剣の先が地面に埋まっているようだったが、切っ先は見えず深い穴があすようにしかみえなかった。
「私の剣を欠けさせた罪は重いなの!」
エレメールは、一本の剣をぐるぐると振り回すと荻原にはその剣はまるで見えず、風圧だけでどんなものもみじん切りになることが判った。そんな中、試してみるかと右腕にもっていた剣を突き入れた。姫の大剣は、彼の剣に触れるとだんだんと短くなっていったが、たまたまあたった大剣が、剣の腹に当たると今度は逆に荻原の剣が木っ端みじんに粉砕された。
しびれる手に新しい剣をつくるため荻原が離れると、エレメールは剣舞をいったん解いた。改めて大剣をみると相手よりもほんの少しだけ大きいくらいまで削られていた。




