第532話 阿修羅モード対4体攻撃
その頃、島では荻原をシューリンが一方的に攻めていた。だが、全ての物理攻撃は避けられどんな魔法攻撃もほとんどダメージを与えられていなかった。
余裕の表情を浮かべながら荻原は会話を続けていた。
「流石に諦めないんだな」
「そうじゃろう、諦めたら終わりじゃからな」
「じゃ、諦めさすかな」
荻原は、装備のスキルを使用して二人に分裂すると正面からきた攻撃を避けながら、一体がシューリンの後ろから切り付けた。シューリンは虚をつかれ、完全に避けることができずに背中に浅い切り傷ができていた。
「うぐっ」
「ふふふ、逆転したかな。
さて、どのくらいまで避けれるかな」
この後、シューリンは勢いを付けて攻撃するともう一体からカウンターで反撃され、カウンターを警戒しながら攻めると攻める前に攻撃され、攻撃の手がなかなかだせなかった。
これは、いかんのじゃな。
攻める手段に困っていると、だんだんと荻原から攻められ回数が増えていった。それに伴い防御や回避に集中する割合を増やすことで、ぎりぎり避けられる範囲となり、先ほどうけた傷は自然に治っていった。
「そんなゆるい攻撃じゃ、
我は、たおせんぞ」
「そうかもな、だが次はどうかな」
会話をしてなんとか時間稼ぎを狙っていたシューリンだったが、荻原はそんな時間を許さなかった。もう一本同じ刀を取り出し、さらに一体の分身を増やすと、左右に一体ずつで三体で迫っていった。
「これは、厄介じゃ」
「かわせるかな」
弁髪も利用して3刀は防げたが、他で防ぐことのできないもう3刀は全て避けることはできず、浅い傷を一回二回と切り傷が増えていった。都度、距離をとっていき何度となく刀傷が増えていくも、回復魔法を唱えることで、なんとか戦線を維持することができていた。
一刻、二刻が時間が過ぎていっても、荻原の攻撃は手が緩めることをしなかった。そして夜が明けようとする頃、シューリンに魔力の枯渇が近づいてきた。どんどんと会話が減って行き、荻原からの声に返答ができなくなっていった。荻原は、そんな様子をまっており魔力が枯渇しているかを会話することで調べていた。
「そろそろ限界のようだな」
「ふ……そんな、わけない……のじゃ」
とぎれとぎれの会話に脂汗、限界が近いことは分かったが、それでも、まだ返答できる余力があると判断した。荻原は無理をせず、何度となく行っている三方向からと上下からの攻撃を続けることにした。
これまでも、いくつかのパターンで防ぎ躱いでいた攻撃も、だんだんと深くくらうようになっていった。だが無理せず慌てることなく、同じ様な攻撃を仕掛けた。今回も今までと同様に、防ぎ躱し受けると予想し若干受けた小さな傷を、攻撃終了した後に距離をとって回復するだろうと思っていたが、今回は様相が違っていた。
シューリン覚悟をきめると、アシュラのように2つの顔と4本の腕を追加すると3方向に対して反撃耐性をとった。既にあと少しで攻撃するところだった分身の二体は、一瞬早く攻撃され串刺し切り刻まれた。上空から避ける事のできないもう一体の分身は、2本の腕と弁髪で刺し殺された。シューリンは、正面から来た本体の荻原の攻撃は避けることしかできずにもろに攻撃を受けることになった。避けそこねた二本の刀がシューリンの腹部といくつかの腕を斬り落とした。相打ちのような状況で3体の分身と数本の腕が地面に落ちると全てが光の粒子へと変わって行った。
本体と思われる二人の体だけが致命傷までいってはいなかった。分身のダメージをもろに受けた荻原は、見た目以上のダメージを負っていた。シューリンは、最大攻撃と完全回復を行ったことで魔力は枯渇といってもいいぐらいまで減っていた。
そのシューリンの様子に満足した荻原は勝利を確信し、ポーションを自分に掛けるとある程度まで回復した。
「そろそろ頃合いだな」
「……あ、あぁ……」
シューリンは荻原が何をいってるか判らず考えもまとまらず、眼もだいぶうつろだった。それでも口で息を吸い何も考えないまま、ゆっくりと立ち上がった。
既に目の前の敵としか把握できないほどに消耗していたが、あと一刻ぐらいは耐えられると思っていた。だが、彼女の最後の判断となる予想は難無く裏切らた。目の前の敵は、分身を3体から4体へと増やすと、真正面方向から3体と上方からも突撃され、真後ろに下がることしかできなかった。
「……うぅ……ぐぅ……」
「それでも、腕一本で避けたとはさすがだな」
完全に劣勢となったシューリンは常に後ろに下がりながら、残った左腕一本と弁髪で防ごうと瞬時判断して対応していった。前方と上方からの4体8か所の攻撃を全て防ぎきることができず、髪は両断され左腕も斬り落とされると、踏ん張って後方にさがりそびれた右足も深々と斬られた。倒れ間際に、トドメとばかりに、上半身に左右からバツの字に体をきられると傷ついたまま後方へと吹っ飛んでいった。
最後の一撃で致命傷を受けたシューリンは、首を上げることもできないまま真っ暗な空をみあげていた。
ちょうど夜が明ける頃で、黒から透き通るような青へとかわっていくと広がっている自然に心も落ち着いていった。
そんなシューリンの小さな喜びも、彼女の瞳の中に屈託のない荻原の笑顔が3つあらわれ潰された。その顔を見ながら消えることだけは嫌だと思たシューリンが目を瞑り先ほど見た空の風景を思い出していた。
荻原が勝利を確信すると二体の分身は2本の剣を心臓へと突き刺すため、真っ青な空へと振りかざした。




