第529話 魔法耐性と絶対回避
そのころシューリンは、自分を倒すであろう冒険者と対峙していた。一目見たときにはちゃらちゃらしたたんなる優男にしか見えなかった。
「おぬしが、第3エリアの神を倒した冒険者じゃな?」
「そうだ、
よく知ってるな、まぁ、お前らは繋がってるっていうしな。
知っててもおかしくはないが」
「ふむ、よく知ってるな」
荻原は、シューリンの話の途中で絶対切断のスキルを持つ青い透明な剣をとりだすと、シューリンへの戦いに向けて戦意を高めていった。
「お前と話しても、先にすすまないからな。
それに、話たいこともないし。
ヒビキを助けるためにも、お前を倒させて貰うよ」
「ふふ、儂を倒してもヒビキは解放されんのじゃがな。
だが、簡単には倒されんのじゃ」
素早い速さで突っ込んでくる荻原の前に、青龍偃月刀をとりだすと袈裟斬りできた刃を止めた。
絶対切断のスキルを何事もなく受け止めた鉾に可笑しいと一瞬思ったが、すぐに神樹の昔の思い出がよみがえり理由がわかった。
「それは、壊れない何かのスキルがついてるな」
「そりそうじゃ、その厄介なスキルに合わせてこちらも相応の武器が必要じゃろう」
「それぐらいの機転がないと歯ごたえがないな」
袈裟斬りを留められた刀を、巻き込むように回転しながら胴への横斬りへときりかえた、シューリンは、その姿をみて薙刀の持ち手部分で受けて、左足でけ飛ばした。荻原は、その蹴りをを難無く避けると、後ろへと下がって行った。
当たらなかったことを悔しくもせず、冷たい視線で凝視した。
「まぁ、序盤はこんなもんか、そろそろこちらも本気をだすかな」
「それは、どうじゃかな。
四方神蒼龍 雷印!」
シューリンが、目の前で印字を組むと、一本の細い雷が荻原の頭へとすこまれるように落ちていった。
どんな魔物すら一瞬で黒焦げにするその雷は、目の前の冒険者を塵と化す予定だったが、食らった荻原は何かが突き抜けた感覚だけで何もダメージを負っていなかった。
「少し、背筋がぞくっとしたかな」
「ばかな、必殺の印が……
なぜじゃ」
「わざわざ、説明するわけないだろうが」
「そりゃそうじゃな」
荻原が、シューリンの目の間で飛び上がると何なく飛び越え十数メートル上空へと移動した。荻原はポジションを考えながら降りていくと、太陽を背に上段斬りで切りかかった。一瞬太陽で目が見えなくなったシューリンは、くる剣筋を予測し上半身を左方向へと逸らした。だが、予測よりも荻原のほうが若干早い剣速だったため、避けきれず数本の髪と髪留めが真っ二つにきれその場に落ちていった。
「なかなかやりおるな。
四方神蒼龍 暴風!」
シューリンの後方へと降りる直後に、左手で掌を翳すとすさまじい衝撃波が荻原を襲い数十メートル先まで吹っ飛ぶ想定だった。だが、荻原は吹っ飛ばず近距離に着地すると、背中へと柄の先で体重を乗せた思い一撃を当て数メートル先へと吹っ飛ばした。シューリンは、常人なら骨折するほどの一撃でも竜人のため、赤い痣ができるぐらいで済んでいた。
「流石に、神様だね、これで終わりってわけにはいかないな」
「やっかいじゃな、その魔法無効系の能力は」
「流石に無効までのアイテムは用意できなかった。
っと、教える必要はなかったな」
シューリンが体の傷を治すため集中していたため、荻原の小さな呟きはシューリンには届いていなかった。なるべく直す時間が欲しかったシューリンは、ゆっくりと起き上がり、その結果立ち上がったことには、彼が攻撃した背中の傷は完全に治っていた。荻原は衣類の下を見ることができなかったため、まだダメージが残っていると思った。雑に一瞬で間合いをつめると、下斬りで先ほど攻撃した背中へと狙いを定めた。だが、シューリンは、真後ろだったにも関わらず、見切っていたように左へ難無く避けると絶対に回避できない攻撃が彼の無防備な背中へ斬りつけた。確実にダメージは与えられると思っていたが、彼は背中に眼があるのかと思うぐらいに、不自然な動きで薙刀の刃を軸にしたかのように一回転して避けきった。
あまりの気持ち悪いよけ方に、思わずシューリンも口をだしてしまった。
「なんじゃ、その避け方。そっちも厄介なスキルを持っているのじゃろう」
「教えるわけないさ」
荻原は反論にならない返答をしながらも、少し距離をとって、本格的に動くために体へのストレッチを開始していた。その間に、シューリンは首を振ると、乱れた髪は弁髪へと一瞬で結び直りその先には、とがった武器が装備されていた。
「まさに魔法だな」
彼の一声を合図にシューリンが攻勢にでた。胴への突き、突き払い、払い後の柄での撲打、回転させからの上段からの最大速度での一撃、そして最後に頭を動かし弁髪での最後の突撃を加えた。だが、荻原は目を瞑ると自然に体が、縦横無尽に避けあり得ない速度と動きで全ての攻撃を回避した。
「絶対回避じゃな、そのスキル。
物理攻撃は、無効のようじゃなぁ」
「もう、みやぶったのか、なかなか頭がいいね」
「さすがにじゃな」
シューリンは、一撃もまとまに攻撃が与えられない現状にどうするか思案していた。だが、戦いに集中していないと毎度来る彼の必殺の一撃を躱し切れない現状だった。
これは、じりひんかもしないのじゃ。
シューリンの考えはまとまらず、また時間もとれない実情に次の一手が思いつかなかった。




