第519話 大陸も救ったから、城で帰還しよう
魔王は、大きなマントを広げながら、恭しく敬礼をすると手を上げて城のほうへ指した。
「さぁ、我が城の中へ、
吾輩を救った英雄様御一行に無上の扱いをさせてもらおう。
だが、そのまえに」
彼は、反対の手で持っていたヨシワラに投げた仕込み杖を手渡してくれた。
「ダンジョンの壁に突き刺さっていたのでな拾ってきた。
君のものだろう。
他は何もなかったからな、なにも。
……カリナ、ダンジョンについて話がある。
あとで、皆さんが帰った後、吾輩の部屋までくるのだぞ」
魔王の横にいたカリナの顔がこわばったとともに真っ青になっていった。
「ひぃーー、
ヒビキ様助けてでありんす」
僕の横で、リイナが上目視線で口角をあげカリナを見下していた。
「何をしたかしらないけど諦めるのね」
ユキナが、リイナの腕をつまみながら、魔王へと仲裁し始めた。
「まぁまぁ、魔王様も許してほしいな。
あぁするしか手段がなかったんだよ」
「ユキナ殿、これは吾輩らの問題だから、口出し無用だ。
おっと、ヒビキ殿には、塔を100階まで到達したご褒美が必要だな。
何か願い事はあるかな?」
「え~。私にはないの?
私だって、登ってきたのに~!!」
「ユキナ殿は、99階まで踏破しているな。
後一階階段を登れば願いを叶えられる。
おしかったな」
「むぅ、でも、魔法陣で100階も来たのに!。
階段で上がればよかった」
「しょうがないよ。
階段は、彼が降りてきてたんだから」
「じゃ、今から降りて登ってくる!」
「それは、やめたほうがいいな。
99階のフロアボスがいるかもしれないぞ」
「じゃ、じゃ、りっちゃん、すぅちゃん、倒しにいこうよ」
「もう、ゆっちゃん、落ち着きなよ。
せっかく、みんなが集まったのに」
スズネにたしなまされほっぺを膨らましてる中、魔王がコホンと咳ばらいをすると改めて聞いてきた。
「さぁ。ヒビキ殿何か望みはあるかな?
そこのポンコツが欲しいでもいいぞ」
「う~ん、どうしようかな。
とりあえず、カリナはご遠慮させていただきます」
「残念でありんす。
ヒビキ様は、この後隣の大陸へ急いで戻らないといけないでありんす」
「そうなのか、カリナ。
だが、一番早いであろう船は解放戦線のやつらに全て壊されてるな。
他には、馬車での陸路もあるが、かなりの遠回りになってしまうな」
「うぅ、やっぱりあれしかないのかな。
はぁぁ」
「?
どうやら、決まってるようだな。
大陸全てを救った勇者様の頼みだ、どんな望みだって構わないのだぞ」
「この城を下さい!」
「「「「は?」」」」
カリナとユキナ以外のメンバーがぽつんとしている中、諦めたような口調で魔王が話始めた。
「カリナだな。
おまえにも飛ばしたところを見せてないというのに。
だが、仕方あるまいな、約束だ」
「ありがとうございます。
絶対に返しに来ます」
「必要であればまた作ればいいだけだ。
返さないでいいぞ」
僕は絶望の中、魔王は納得の表情、カリナは知ったかで他はぽかんとしていた。
その中、アメリアが真っ先に口を開いた。
「ヒビキ、どういうこと?」
僕の代わりに魔王が説明を始めた。
「君たちは知らないんだな、
こういうことだ」
魔王は、バックから大きめの真っ青な水晶を取り出すと念じ始めた。青い石の中が明るく光り始めると、地面が揺れ始め徐々に上空へと浮かび上がった。
「な、なに、これ浮いてるの?
ヒビキ、どうなってるの?」
「うん、この飛空城をもらったんだよ、褒美として」
「「「「そうなのーー」」」」
話を聞き全てを理解したのか、各々がキャッキャと城の中庭からの風景を眺め始めた。
みんながひとしきり風景を楽しむと僕の近くへ戻ってきた。
「そんなに急ぎで帰らねばならないの?」
「うん、知り合いがやられちゃうかもしれないからね」
魔王は城を動かしながら、話しかけてきた。
「たしかにこちらの神も殺されたし、向うの神も危険だ。
神候補のヒビキ殿は、早く戻らないといけないな」
「僕、神候補なんですか?」
「うん?
知ってなかったのか?
何か青龍様から物を貰っただろう」
僕は思い出してみたが、バックに思いつくものがなかった。
「何か、貰ったかなぁ、覚えがないな」
僕の横で何かを思い出したのか、リイナがバックから鍵を取り出すと、ヒビキの前にさしだした。
「これじゃない?
そういえば、ヒビキが貰ってたわね」
僕はシューリン様のやりとりを思い出しながら受け取り、鍵を握りしめたが特に何事も起きなかった。
「ここは、かの神様の管理する大陸じゃないからな。
そろそろ、大陸酔いが始まる距離だな。
カリナ、塔へと戻るぞ」
最後の一言の時だけとても醒めた口調がこの後のカリナへの罰が可哀そうだと改めて思った。
「うへぇ、ひびきぃさまぁ」
「ざまぁないわね、カリナ。
みっちりとしかられなさい、うひひ」
「もう、リイナったら。
魔王様、僕はこの飛空城の動かし方がよく分からないから、カリナに付いて来てもらっていい?」
「動かし方も何も、願えばいいだけなのだが……」
魔王は、少し目を瞑り考えこむと何かを納得したのか、頷いた。
「ふむ、そうだな。
私の未来予知では、カリナも必要のようだな。
同行を許そう、その分帰ってきてから、みっちりと再教育だな」
「な、な、な、なんですとぉ」
「あんまり、他の方に迷惑かけるんじゃないぞ。
……
では、カリナをよろしくお願いします」
彼女の絶叫をよそに、魔王様は恭しく頭を下げると一瞬で飛空城の上から消え去った。
僕は、カリナに振り向くと、
「と、とりあえず、今すぐじゃなくなったから
よかったよね……」
僕の声はみんなには聞こえていなそうだったが、直ぐに大陸酔いが始まり城の上にいた全員はその場に倒れこんだ。
僕の冒険が終わって大陸に戻る中、親友と話で何とかなると思ってい。たがこの後、大陸中の全ての命運をかけた戦いになるとは、この時は思ってなかった。
今回で4部が終了となり、後ほんの少しだけ進みます。
最後まで、よろしくお願いしますm(_ _)m




