第511話 全員を回復してみよう
2人とくっつきながら並んで2階へと上がり辺りを見回すと、一階と同じように入り組んだ壁によって、誰が何がいるのかさっぱりと判らなかった。
僕は一階の時のようにお願いするしかなかった。
「じゃ、カリナよろしく」
カリナは目に涙いっぱいあげながら、すがるようにこちらを見ていたが、目的のためには心を鬼にするしかなかった。
「……はい、でありんす……
あとで、魔王様にこっぴどく怒られるでありんすぅ」
そんなカリナの前にユキナが現れると握りこぶしを手に応援していた。
「カリナ!
私も一緒に怒られてあげるから」
僕は悲観的なカリナの前に、魔王とはを説いてみることにした。
「なんで、怒られる前提なんだよ。
大丈夫、魔王様は理解ある人なんでしょ、
きっと、判ってくれるよ」
「そうでありんすね……
そうと信じるでありんす」
「そうだよ、ヒビキを信じて二人を助けてあげようよ」
「そうでありんすね!
ヒビキ様とユキナ様を信じるでありんす♪」
彼女の心がかるくなったのか、軽々と両手を翳すと全ての壁がなくなり2階のの全域を見渡すことができた。
辺りには、無数の魔物で溢れていたが、カリナが更に鉄扇を一振りすると全て緑の粒子へと変わり消え去った。
「流石だね、カリナ、かっこいいよ!
冒険者はいなさそうだね。
じゃ、次の階に」
「はいで、ありんすね。
階段をここに作り替えればいいんでありんすよね」
彼女は言葉通りに、畳んだ鉄扇をくるりと天井で回すと、奥にあった階段はなくなり手前に階段ができあがった。
「ありがとぅ、カリナ。
さぁ、先を急ごう、夜明けまでに頂上まで昇らなきゃ」
「そうだね。
でも、カリナがいなきゃ、うまくいかなかったね」
階段を登りながら、カリナを讃えることにした。
「そうだね、カリナ様様だね」
「そうでありんすか。
もっと褒めてくれてもいいでありんすよ」
僕らは、このあとも3階4階と同じように上がって行き、5階へと到達した。
「問題ないね、こうでありたいね」
「そうもいかないでありんす。
誰かが、ボスと戦ってるでありんすね」
「初めてあう冒険者さんたちだね」
カリナが、ボス部屋以外の壁と魔物を失くすと奥に大きな部屋へと通じる扉があった。中には、冒険者が魔物と戦ってる音と悲痛な声が聞こえてきた。
「カリナ、扉を開けてくれ。
助けたい!」
「きっと、もめるでありんすよ。
でも、きいてはくれんでありんすよね」
彼女は、呆れた様子で頭を振ると鉄扇を自分のほうに一振りすると、堅く閉ざされていた扉が開き中の様子を窺うことができた。
中では、普段は絶対にあかないであろうボス部屋の扉があいたことで、冒険者が驚いているようだった。
「な、なにがおきたの?」
その声の先では、3人の冒険者が十匹以上のゴブリンの軍団に囲まれていた。端の壁では気を失ってる魔法使いとそれを必死で助けようとしてシスターがおり、二人を守るように前面では戦士が襲ってくるゴブリンから守っていた。
「それより、キャシャーテを早く回復しろ。
こっちは、一気にこられたら、耐え切れない!」
「わ、わかってるけど、傷が深くて……
私のヒールじゃ……」
泣き出しそうな悲痛なシスターの前に、ユキナがそんな様子を見ると、魔法を唱え始めていた。
「回復領域!」
ユキナの杖から放たれた中級魔法によって、ゴブリンを含めて部屋中のすべての冒険者と魔物が全回復していった。
「あっ、やりすぎちゃった。
しっぱい、てへ♪」
それでも、瀕死だったキャシャーテという魔法使いは、生死の境からはなんとか離脱し安定した呼吸へとかわっていた。
「た、助かったわ。
駄目かと思った……神の思し召しだわ」
シスターは膝まづき、こちらに向けて天を仰いでいたが、正面の戦士からは怒声のような悲痛な声が聞こえてきた。
「なぜだ、あんなに死にそうだったゴブリンどもが全回復してやがる。
もう、防ぎきれないっ」
「カリナの言ったとおりだね。
これは、余計なことをしたかも、
でも、やったことはしかたないね。
どうせ、3人とも助けるつもりだったし、行ってくるよ。
カリナは、ここで待ってて」
「はいでありんす」
カリナは、部屋の外まで行くと3人に見つからないように、ゆっくり姿を隠した。
「じゃ、ユキナ二人の元に急ぐよ。
戦線が崩壊しそうだ」
「了解だよ!」
どう言い訳をすれば、3人が納得できるのかわからなかったが、戦線がいまにも崩れそうな彼らの前に全力で走っていった。




