第509話 二人の様子を見に行こう
カリナは、綺麗に整頓された樹々で茂る中庭を迷わずに進んでいた。本来ならそれほど多くの時間がかからないであろうが、足音をけしながら進んでいるため気持ちとは裏腹に進めていけなかった。そのせいで、気持ちが焦る僕らはとても長くの時間がかかっているような錯覚に陥っていた。
そんな中、さらにカリナの歩みが遅くなるとこちらに振り返り聞こえる限界くらいの小さな声で話しかけてきた。
「あれでありんす」
彼女の意図がわかり口を開かずカリナの横に移動すると、その先をのぞき込んだ。数メートル先に薄い水色の8角形の円柱のようなバリアが張られ中に、魔王とスズネが大人しく座っていた。そのとき、一瞬魔王と目が合ったような気がしたが、見直した時には、彼らの正面にいる女性とヨシハワを見つめていた。
魔王は、表情を変えずに二人に話しかけ始めた。
「我々をいつまでこうやってるつもりだ。
退治したければ、今退治すればいいだろう……」
「お前は馬鹿なのか、何度も同じ質問をしやがって。
理解したくないだけなのか?
……
明日の朝日が上がったらころが、お前が死ぬ瞬間だ!
その時には、準備が整うはずだ」
その言葉を遮るようにスズネが噛みついた。
「やめろ。
魔王を討伐する理由なんてないだろ!」
「逆にお前を生かして理由なんてないから、今殺してもいいんだぞ。
お前ごときじゃ、傷なんてつけれないからな」
そんな中、彼に対しいら立つように女性が口をだしてきた。
「ヨシハラ君、スズネちゃんには手をださない約束でしょ。
そんなことしたら、協力しないわ」
彼は、女性に振り向きなおすと両手を胸の前にあげオーバーなジェスチャーをし、冗談であるとアピールしていた。
「オオハシさん、そういわないで協力してくださいよ。
今、魔王を倒せるの俺しかしないんですよ。
せっかく、悲願だった人民の解放ができるチャンスなのに、
棒に振るんですか?」
「……んぅ
しかたなく協力してるだけってこと忘れないでね!」
彼は最後の言葉にイラついたのか、ちゃらかった表情から狂人の目に変えると態度を硬化させた。
「はは、あんまりわがまま言うと、
あなたも倒しちゃいますよ」
その態度に露骨に敵意をむき出した彼女は毒づくようにいらだちを吐き出した。
「それでもいいわ。
でも、あなたが私を倒した瞬間、魔王とスズネちゃんは解放されるわよ。
その瞬間、魔王が空を飛んで逃亡したらあなたじゃ手の出しようがないんじゃないの?」
彼は、一瞬悩んだようだったが、いつものちゃらい笑い顔になると、軽薄な話声にもどった。
「ふふふ、必死ですね、冗談ですよ、冗談♪
いいです、今は従いますよ、オオハシさんの言う通りに。
少し眠くなったんでそこで横になってます。
二人とも静かにしてください」
「ふん!」
スズネは、彼をにらみつけるとそっぽを向いた。僕は、一旦のやり取りがおわったことを確認すると、一旦中庭の入り口まで戻ると皆につげた。帰りの道は、スズネの元気な様子をみて安心したことのだろうか、さっきよりも早い時間で塀まで辿り着くことができた。
僕は、全員が塀の外にでたことを確認すると口を開いた。
「とりあえず、明日の朝までは猶予がありそうだね」
「流石、あちきの魔王様でありんす。
あちきらに気づいて情報を伝えてくれたでありんす」
ユキナは、大きく何回もうなずき肯定した。
「うんうん、そうだね。
きっと、賢い魔王さんなんだね」
「で、この後は、どうするの?
さっき説明してくれたとおり?」
「そうだね、それでいいかな。
ヨシハラの反逆で人が減ったのはこっちにとっては、ありがたかったけどね。
リイナとアメリアは、ここで待ってて。
ヨシハラが下の階にいったら、見つからないようにスズネと魔王様を迎えに行って」
「わかったわ。
じゃ、ヒビキも気を付けてね」
「うん。
二人とも、先走っちゃだめだからね。
じゃ、ユキナ、カリナ、行こうか。
彼を倒すための条件をクリアしに!」
「うん♪」
「はいでありんす♪」
僕は、二人を連れて魔法陣の中心に立つと塔の入口の一階へと魔法を唱えた。見送ったリイナとアメリは、抱きついている二人の中央にいる僕に対して凍えそうな視線を送っていた。




