第486話 ぐるっと山を一周してみよう
後片付けし準備が終わると先ほどと同じように、魔法を唱えながら進んでいくことにした。これまではジグザグと右往左往し悪路のため上下しながら山を登っていったが、これからは山をぐるりと一周しながら、上に向かって進んでいくとのことだった。
正面で暇そうにしていたユキナが話しかけてきたが、僕は魔法を唱え続けることに集中していた。
「ヒビキ、ここは高いね。
景色が綺麗だよ」
僕は、イメージを固めることに集中しているため、全く景色は見ることができなかった。
「ヒビキは見えないけど
わたしも、ほとんど見えないわね」
「そっか、
じゃ、私だけの特権だね」
「ふふ、そうね。
朝辛かったんだし、
風景を楽しむといいわ♪」
「そうだね。
そうするね♪
あー、あっちの砂漠の奥に村があるよ、
湯煙っぽいのがみえる」
「そうじゃな。
あれが、わしがいた村じゃな。
ヒビキが来んかったら、まだ、わしがギルドを納めていたはずなんじゃ」
「そうなんだ。
でも、終わったことを気にしちゃだめだよ。
また、復帰できるよ」
「そうかしら、難しいんじゃないかしらね。
また、アメリアは眠ってるのね」
この後も、ユキナのおしゃべりは途切れることがなかったため、何度となく集中が途切れそうになったが、なんとかぎりぎりで踏みとどまることができた。
そんな中、馬車をあやつっているザジさんが話しかけてきた。
「だいぶ進んだのじゃ」
「そうなの?
大分陽が落ちて、間もなく夕暮れになりそうだよ」
「そうじゃな、夕焼けの景色はきれいじゃぞ。
この後は、直線の登り路じゃて、
揺れも少ないのじゃ」
「そうなのね。
よかったわね」
ザジさんは、崖に挟まれたところで、一旦馬車を止めた。
「そろそろ、魔法は不要じゃろうから解いてお嬢ちゃんもはいったほうがええのじゃ」
言われたとおり、魔法を唱えるのを止めるとユキナが荷台に入ってきた。
「ヒビキ、お疲れ」
「うん、つかれたよ」
「ふふ、マッサージしてあげるね」
「大丈夫だよ」
狭い馬車のなかで、僕の肩をもんでくれようとするユキナを制止し、気になった単語を聞いてみることにした。
「ザジさん、大陸酔いってなんですか?」
「大陸酔いは、大陸酔いじゃ。
そのまんまじゃ」
返答にまるで分らなかった僕を見かねてか、ユキナが代わりに質問してくれた。
「大陸酔いだと、どんなことになるの?」
「そうじゃのぉ。
その境界に差し掛かると、人間や魔物は全員、意識を失うのじゃ」
ザジさんは僕の回答にあからさまに適当に返して、ユキナには贔屓にしているようにしか思えなかった。




