第473話 うまいぞぉ~を叫んでみよう
テーブルに置かれた料理は、見たことも聞いたこともない料理が並んでいたが、僕よりも先に手を付けた4人の顔を見る限り、全員が一口ごとに笑みが漏れていた。
「うまいな」
「おいしぃよ」
「そうね。
この野菜炒め、お肉入ってないけど、肉ような香ばしいわ
それに肉の臭みがなくてうま味がいっぱい」
給仕係のルルがそんな様子を楽し気にやってくると、一振りの小瓶をもってきた。中には茶色く稀に光る砂が入っていた。
「ふふふ
そうなんです、それにかけてるこの瓶には、あらゆる肉のうまみが詰まったエキスが、茶色い砂にはいっているんです」
「へぇ~
じゃ、いっぱいかけちゃおう」
「ふふ。
一振りで口内香りが、二振りで皿の上に香りとうま味が、三振りで全身を魅了するといわれています。
かけすぎると、味と香りがきつくなって、美味しくなくなりますので、気に入ったものを数振りがいいですよ」
「私は、この緑の砂がすき」
「それは、野菜が……」
ルルさんは、ユキナの横に立つと似たような話を繰り返していた。その後も、アメリア、シャルルと横に付くと自慢げに繰り返して話していた。どうやら、それ以上の詳しい話は知らないようだ。7種類ある色とりどりの砂がテーブルの真ん中に置かれており、その中のど真ん中には、全ての砂が混じった虹色の砂が置かれていた。
いったいどんな味なんだだろう。
僕は、その小瓶を手に取ると目の前の薄味のステーキに数振り振りかけた。振りかける前は素朴な肉だったが、今は、口いっぱいに一噛みごとに違った味が僕を襲っていた。野菜のうまみが、次に噛めば魚のうまみが、そして、キノコとそれぞれが鼻腔にも、まるで違う香ばしい香りが襲い掛かり、これ一つで至福の時間がいつまでもつづきそうな夢の時間だった。
「う・ま・い・ぞぉーー!」
僕の大きな叫び声で、全員の手が止まってこちらを見ていたが、そんなことは気にする余裕もなく、一口ごとに叫んでしまっていた。僕の叫びを止めるには、目の前にあった虹色の砂の料理が食べ終わるまで続いていた。
「ふふ
それを使ってしまいましたね♪
もう、それ以外の料理を食べられない体になってしまいましたね。
至高であり魔性の砂のとりこです♪」
「はぁ、はぁ、
すごかった、うまかった」
「そ、そんなにすごいの?」
僕を見ていた他の3人は、僕のあまりの変貌に手を出したがったが、リイナは興味が勝ったようで、虹色の小瓶を手に取った。
「りっちゃん、やめときなよ」
「うぅ……
ヒビキが美味しそうだったもの」
リイナも数振り目の前のサラダに振りかけると、一口食べて叫び始めた。
「おうしいわぁ♪」
流石に、僕のように叫びはしなかったが、ほっぺてが落ちないように手をつけ目はうっとりした表情へと変わっていった。
アメリアも、興味をわきはじめ、一人で全てをもっていった麺料理にかけていった。
「5人前を一人で食べちゃうことになるから、それにかけちゃ……」
僕の声を聞こえず、一口食べ始めると口から魂を出したように、一噛みごとに上向きに口が全開きになっていた。
「はぁ~♪
うまい、うますぎる!」
リイナとアメリアを見比べると、ユキナもカルパッチョに振りかけると食べ始め両方の目からは涙を流しながら食べ続けていた。
シルキィも3人の様子に自分も食べてみたいと思ったのか、見事な大きさのキノコの焼き物に数振りをかけてあげるとかぶりついた。一口は、美味しそうにしていたが、二口目で見るからに顔が真っ青になると、勢いよく吐き出した。
「べっ!!
げろまず!!」
「な、なにが、あったんですか!」
「しゃかなとキノコのかおりが喧嘩して、しゃいあくだった」
香りのよいキノコと魚の香りが邪魔したのか、想像もしたくなかった。




