第434話 間話 乙女3人旅 1日目 ~硬いものを細い剣で切り付ければ、折れるよね?
リイナは、立て続けに魔法を唱え始めた。
「火炎玉!氷棘!竜巻!雷の矢!」
すべての魔法は、ゴーレムの当たる直前で、一切のダメージを与えれないまま、すべて雲散霧消してしまった。
「リイナ姉さん、魔法は駄目みたい。
アドアも役にたったし、今度は私の番ね!」
アンナは母譲りのレイピアを取り出すと、ゆっくり歩いてくる巨大ゴーレムと対峙した。絶対の自信を持って突き出した必殺の一撃は、硬い胸板にわずかに傷をつけるとパキンと根元から折れてしまった。折れるぐらいの一撃により、腕に痛みが走りしびれが来たがそれ以上に茫然自失が彼女に襲い掛かった。「痛っい。
あーーーー!!折れてる~」
茫然としてその場に崩れ落ちたアンナの両腕を二人で持ち上げると、引きずりながら後ろに下がって行った。
ゴーレムは、何事もないままゆっくりとした足取りで彼女たちに迫って行った。
「いいから、下がるわよ。
自分で歩きなさい!!!
このままじゃ、全滅だわ。
何か手がないか考えないと……」
「ヒビキさんなら、きっと打開策をかんがえてくれるのにぃ」
「いない人を頼ってもしかたないわよぉ~」
「わたしのけんがーーー」
「いいから、静かに」
絶望しているアンナを抱えての後方移動は歩みが遅く、ゆっくり歩いてくる巨大なゴーレムにあっさりと掴まった。金属音のするいびつな右腕が高々とあがるとアンナ目掛けて、振り下ろされた。リイナとアドアは全身に力を籠めると真後ろに飛び跳ねた。ぎりぎりで両足を広げていた足の間に、ゴーレムのギガトンハンマーを避けることができたが、そこには、アンナの頭以上の陥没した穴が出来上がっていた。二人の血の気が一気に引いたが、いまだにアンナは現実世界に戻ってこれてなかった。
「アンナ、早く戻ってきて。
これ以上は、避けきれないわ」
「剣が…、剣が……」
「だめだめ……
どうしよ?リイナ姉。
このままじゃ、全員ころされちゃうわ」
絶望が全てを包み込んだとき、森の中から、リイナ達が見慣れぬ姿のシルエットがやってきた。それは、以前に会ったゴブリンの姿とは、かけ離れた姿で、認識することができなくても当然ではあった。3人を4本の腕で抱え込むと、うしろに飛び去り、ゆっくりと地面に降ろすと、最強のゴーレムに向かって構えだした。リイナとアドアは、信じられない表情で、今のできごとを考える余裕はなかった。直ぐに二体の魔物が、戦いを開始しており目線を外すことができず、また、何がおきているか見守るしかできていなかった。
最初に全体重をかけたドロップキックでゴーレムを数メートル吹っ飛ばすと、後ろを振り返り、リイナ達と距離が離れ3人に被害が及ばないことを確認した。吹っ飛んでいったゴーレムめがけて一気に距離を縮めると丸太以上の腕で殴り掛かった。全力の一撃により、厚い胸板にこぶしのへこみができたが、ゴブ八のこぶしは折れ、手の甲には折れた骨が見えていた。それでも気にせず、折れていない3本の腕で一撃、二撃、三撃と思いっきりなぐりつけ、4つのこぶしのあざができただけだった。確実にダメージは与えているがそれ以上にゴブ八もダメージを受けていた。次は、手刀を肘をラリアットをとどんどんと腕の形はかわっていったが、それでも攻撃を緩めようとはしなかった。
ようやく思考ができるぐらいまでリイナは回復すると、目の前の魔物が自分たちを必死にまもってくれていることを理解した。
「アドア、回復してあげて」
「でも、リイナ姉、あの魔物が倒せた後、私達を……」
「わたしたちの代わりに戦ってくれてるのよ、捨て置けないでしょ」
「……
わかったよ、リイナ姉を信じる!
高回復!!」
アドアは、魔物に最大治療のある魔法を唱えると、ゴブ八に緑色の光が包み込み、これまでのゴーレム戦以前の戦いの傷や怪我も全て治ると、先ほどとは打って変わって動きが良くなっていた。その一撃は、ゴーレムに当たる前の衝撃波でダメージを与え始め、一撃打つごとに胸の形で変わって行った。その一撃で、リイナとアンナは、勝利を確信しその予想通り、数分後には、ゴーレムの頭をゴブ八がもぎ取ると光の粒子へと変わって行った。




