第412話 ジーンに話をきいてみよう
彼女から放たれた矢は、見えることなく、空間を切り裂く音が魔物の真後ろをはるか通り過ぎても聞こえていた。頭を貫通させられたオーガは一瞬で光の粒子へと切り替わったが、トロールの厚い胸板は、徐々に傷が塞がっていった。
僕は、急いでトロールに近づいた。新しく新調した黒赤剣で、太もも付近を横なぎにすると、当たってもいないのに胴体と両足に別れ崩れ落ちた。地べたに向かう胴体に対し、薙ぎ払い行い更に真っ二つにきりわかれ、ようやく首元が届くところまできたところで、最後に一撃を入れることでようやく光の粒子へと変わって行った。
トロールの対峙が終わったところで、エドワードとナナさんが警戒しながらやってきた。
「ヒビキ君、
いきなり出ていったら、あぶないじゃない。
矢を放った相手が敵か味方かわからないじゃない」
「大丈夫ですよ、
知合いですから♪」
「そうなの?
こんなところにヒビキ君の知り合いがいるなんてね」
「へへへ。
あの技は、見たことがあるんです」
「ってことは、
もしかして、
彼女がリィちゃんと一緒に旅をしていたっていうもう一人の」
「ええ、エルフのジーンのはずです」
僕の予想通りやってきた相手はジーンだった。そのジーンは、一人の小さな少女と一緒に、僕らのほうにゆっくりと近づいてきた。
「あら、誰かと思えば、ヒビキじゃないか。
見かけない間に、精悍な顔つきになったな、
それに、一緒にいるのはリイナじゃないんだな」
僕は、これまでのジーンと違った話し方に戸惑いを隠せなかったが、
「ジーンだって、知らない子と一緒じゃないか」
ジーンの腰ぐらいの高さしかいない美少女は、膝丈くらいの黄緑色の髪をなびかせながら、僕とジーンの顔を見比べていた。
「この人が、アメリアがいってたヒビキしゃんなの?
優しそうな顔ってより、かっこいいよ。
どうして、ジーンって勘違いしてるのなぁ」
「ん、アメリア?」
彼女の発言に僕が怪訝そうな顔をすると、ジーンは、直ぐにこちらに近寄ってきて、小声で話しかけてきた。
「詳しい話は、後でするから、今は私をアメリアで話を合わせてくれ」
「わかったよ。
それに、話し方も違うような」
「そ、そこも気にするな。
いいな、今は!
気にするな!!」
「わかったよ、もう」
彼女が僕から離れると、
「ヒビキたちが、あいつら以外のモンスターを退治したのか?」
「うん、そうだね
反対周りで、リイナたちが、同じように退治してると思うけど」
「どうなんだ、シルキィ?」
黄緑が実の少女 シルキィは、彼女に似合わない大きなマップをバックから広げると、みんなが、のぞき込むように見始めた。
大きなマップには、この大陸であろう五角形の形が記載され、いくつかの赤い印が光っていた。
「そのようでしゅ。
あっち側の異常種は、討伐されてましゅ」
僕は、ここから近いところにある二つの赤いマークが気になり、指さした。
「ここに魔物がいるようだけど?」
「ここは、海の奥でしゅ。
簡単には、手を出せないでしゅし、倒せないでしゅ」
「それは、仕方ないわね。
とりあえずほおっておくしかないわね。
じゃ、あとは、反対側に二つ、赤いマークがあるわね」
「そのようだな
じゃ、今から、向かうか」
「わかったでしゅ」
地図をバックにしまうと、身支度を始めたので、改めて自己紹介をすることにした。




