第385話 チャチャさんの話をきいてみよう
「場所は、二階の奥の部屋になります」
女将のいう階段をあがり、廊下の奥に進んでいくと、木造の扉が現れた。ゆっくりと扉を開けると、シックなつくりで、物があまりないことで、部屋が広く感じられたが、10畳ほどの広間と2部屋の寝室が置かれていた。広間の奥には、ベランダと隣接している露天風呂が設置され、柵があることで、反対側からはみれないがこちらからは、見えるようになっていた。
「ヒビキさん、露天、気持ちよさそうですよ。
景色もいいですし、町の真ん中で見下ろせることなんて、なかなかないですよ♪」
「うん、ソウダネ。キレイダネ。
サァ、ツギヘイコウ」
想像通り過ぎて、何にも興味もわかなかった僕は、返答に気持ちを込めることができなかった。
「もう、ヒビキさんたら、照れちゃって。
さぁ、はいりましょう!
今だったら、私と一緒にはいれますよ♪」
それは、一景があるねと言いそうになるのをなんとか抑止すると、
「うん、また後でね。
3階にあるっていう大浴場の風景をみてみたいな」
「ちぇっ。どっちも一緒でしょ」
あからさまに嫌がっていたが、次ははいれるのだろうと期待しているのか、すんなりと従ってくれた。
僕は、いったん特別客間からでて、階段に戻り、もう一度のぼり階段を上ると、その先には、手前の部屋が数個あるだけで、後は全部大浴場のようだった。
チャチャさんと一緒に脱衣所に入ったが、中には、入っている人がまだいなかったことを確認すると、脱ぐこともせず大浴場に入って行った。
「ひ、ヒビキさん、はいらないんですか!?」
「まぁ、風景を見るだけだから」
僕は、さらっと告げると、中にはいって風景をみると先ほどより1階層高いせいか、別で作られたベランダの露天風呂は、風が入ってくると、幸せな気分になれた。
結局脱ぐのを辞めて、速足で僕の近くまで来ると
「どうしてはいらないんですか!
入ってくれないと、みんなに、じま……」
慌てて、口を紡んだが、だいたいの想像がついたので、問い詰めることにした。
「で、誰に自慢したいの?」
「……モモや、ムラサキちゃんに!
だって、二人とも、一緒にご飯食べたり、お風呂入ったりしたっていってたから」
「ムラサキさんの場合は、どっちかというとリイナだったんだけどね」
「命を懸けて守ったんでしょ。
王子様じゃん♪」
「うっ。
人助けはするでしょ、当然のことをしたまでだよ」
「またまた~♪
モモちゃんと、一緒にご飯をたべてお風呂も一緒にはいったんでしょ?」
「お酒飲んで、気を直ぐに失ったから、どうなったか判らないんだよね」
「え、聞いてたのと違う。
一緒にご飯をたべて、そのまま、村一番のホテルの一番いいお部屋で、お風呂に入ったっていってた」
「うん、正しいんじゃないかな。
一緒にご飯を食べて、勝手に高い宿をとられて、一人で一番いい部屋のお風呂を堪能して、そのまま、モモは自宅に帰ったみたいだよ」
「そ、そうなんだ。
それはそれとして、
私も、思い出をつくりたい!
ヒビキさんと!!
二人に自慢したいの!!!」
既に、温泉の湯気で熱くなってきた僕はどうでもよくなってきたため、
「じゃ、次のおすすめの宿で、少しゆっくりしようか?」
「やったー!
約束ですよ。
じゃ、さっそく向かいましょう!!」
彼女は、さっさと大浴場をでると、玄関でまっている女将のところに向かっていった。
「あら、早いですね。
よかったでしょ」
「ええ、とっても、よかったです。
ちょっと、他のところを見てきます。
また、相談に乗ってくださいね」
早口でまくし立てるように話、軽く頭を下げると、女将が何かいいたげだったのを、見なかったことにして、今来た道を戻って行った。




