第384話 村一番の宿を紹介されてみよう
チャチャさんと並んで、ゆっくりと歩いて向かっていくと3階建ての木造の建物が見えて来た。屋根の周りには赤い提灯が幻想的にみえるんだろうけど、まだ昼過ぎなため、灯りはついていなかった。
僕は、建物を指さすと、
「あれでしょ?」
「そうですよ。
一番いい部屋をとってもらったので、見てみませんか?
気になりますよね」
残念ながら、僕は、複数の大陸でいろいろな町のもっといい宿をみているため、特にはいらなくても、大体の予想がついていた。
「いや、別に」
「私は見たことがないんです!
いいじゃないですか、ひとめくらい
みせてくれたって!」
チャチャさんが下から、涙目で訴えられると、断りづらい雰囲気だった。
「たぶん、ここには、泊まらないと思うけど、
チャチャさんが見たいってうなら、行ってみる?」
「やったー!」
さっきまでの泣き顔がうそのように嬉しそうにジャンプしている姿を見ると、少しぐらいなら時間をさいてもいいかなと思えて来た。
「ささ、
気が変わらないうちに行きましょう!」
僕の腕をひっぱると、ノスタルジックな旅館に連れて行かれた。
旅館の玄関まで向かうと、入り口で女将さんが出迎えてくれていた。
「チャチャさん、待ってましたよ。
そういえば、先ほど、男女の二人がきましたよ。
ちゃんと案内しときましたよ」
僕は、遮るようにチャチャさんに話すと、
「ナナさんたちに伝えたの?」
「はい、ここも、大浴場から見える風景が絶景だって言われてますので」
「二人は、特別部屋の個室の露天風呂ですから、
特別部屋とは、また違った風景ですよ」
「え~、そうなんですか。
ぜひ、見せてください!
楽しみにしてたんです!!」
彼女の返答で、気をよくした女将が、
「ええ、ええ、じゃ、うちに、お泊りということですね」
やっぱり、誤解されてる……
僕は、苦虫をつぶした顔をすると、
「すみません、いいところをたくさん紹介されておりまして、
どこにするか、思案しているところです」
「そうですか、ぜひ、うちでお願いします。
絶対、後悔させませんよ」
「そうですよ、ここにしましょうよ、ヒビキさん」
いや、ここにはしないよ、きっと。
大体の風景の想像がついているから。




