第375話 武器屋でアンナに武器を買ってあげよう
僕が、問答を繰り返してる横で、ナナさんも話に参加し始めた。
「ヒビキ君、その辺にしたら、
おじいさんが可哀そうよ」
「そうでござるよ」
僕は、二人に聞こえるぐらいの声で、若いギルド職員のことを告げた。
その後、ギルド長に聞こえるように、会話をすることにした。
「そうだね、今日、何をしてもシルバ様持ちだから、
思う存分、買い物をしまくろう」
「こっちのギルド持ちじゃというのに……」
悲しそうな肩を落としているギルド長をみながらも、まだ事態は全て理解しきれていない以上、追撃の手を緩める気にならず、何も気にしないまま、買い物に勤しむため、商店街に向けて歩き出した。
ギルドをでて、辺りをみまわすと、直ぐに、武器屋の看板が目に入った。
「あれ、武器屋ですね。
見てみたいです」
「そう、ヒビキ君?
そういや、杖はいいけど、剣はヒビキ君にあってなかったわね。
買い替えてもいいかもね♪」
「それなら、拙者が、作ってあげるでござるのに」
「エドワードのだと、重いやつばっかりじゃないの?」
「切れ味は保証するでござる!」
「私も重いのは、嫌だわ」
「……わしも高いのはいやじゃ……」
一番後ろで、ぎりぎりみんなに聞こえそうな小さな声が聞こえた気がするが、気にせずに店に入っていった。
「おう、いらっしゃい。
お、ザジさん、今朝言ってたやつ、まだやってなかったよ。
すまんねぇ~。
もう少し後でいいのかい?」
「や、や、や、や、なんの話じゃかな」
あからさまに動揺してるギルド長に店主は追い打ちをかけていた。
「あれだよ。
高いやつ全般を倉庫にしまっといてくれってやつ。
夕方前でいいだろ。
ははは」
僕は、後ろを向いて目線を合わそうとしないギルド長に、
「へぇ~、そんな依頼あったんですね?」
「なんのことですじゃかな」
僕にしか聞こえないように発言するおじいさんに、追い込みをかけることにした。
「隠そうと思ってたものを、紹介してもらっていいですか?」
「ぎゃ~~~」
悲惨な叫び声も、みんなに聞かれたくなかったのか、直ぐに、手で塞いで叫び声で小さくなると、近くにいた僕にしか聞こえてなかったようだ。
武器屋の店長は、カウンターの後ろにある立派な斧槍を指さした。
「一番は、この英雄の戦斧だな。
ハルバートに近いものだな。
ユニークスキルに確定ダメージがついてるから、
当たらなくても相手を倒せることができるすげぇ武器だ。
過去10年で、これを超えるものはないな!
まぁ、城が立てるほど高いがな、がぁっはっはっは」
「じゃ、もらおうかな……
ナナさん、これ、どう?」
「私には、邪魔かな。ちょっと重たいし。
遊ぶには、おもしろそうだけどね。
そういう意味では、いいかもね♪」
「そ、そ、そ、それは、ふ、不要じゃろ。
おねがいですじゃ」
あからさまに涙を流しかねないギルド長が哀れに思え、
「そう?
じゃ、諦めようかなぁ」
他には、ある?」
「あんまりないなぁ~
少しいい奴ならこれかな。
最近エルフで、発掘されたばっかりで、売りに店にきたやつだ」
店主は、カウンターの奥で束になっておかれている中から、鞘の装飾が美しい銀色の細い剣をとりだした。
「レイピアだ!
素材が不明でな、金属ではないな。
だいぶ扱いが難しくてな、人を選ぶとは思うな。
少しでも、変な扱いをしたら、剣が折れるほど剣幅が薄い。
だが、切れ味は、良いし、羽ほどの軽さだ」
ナナさんは、鞘から抜いて剣をみて一振り二振りすると、
「エドワードの折れた剣みたいね」
確かに、前にエドワードが使い切り用の剣にだいぶ近かったが、剣幅はより薄く、斬るにはまるで向いてなかった。
ナナさんが、物欲しそうなエドワードに手渡すと、顔の近くで値踏みしているようだった。
「拙者が扱ったことのない素材でござるな」
エドワードが、剣先をつまみ強度を確認しようと、折り曲げると少しだけで、直ぐに、パキンと音を立てて真っ二つに割れた。
「ぎゃーーー、買い取り」
後ろで、絶叫がしたかと思うと、直ぐにとほほと悲しむ声が聞こえたが、振り向く必要などなかった。
そんなギルド長に対し、店主は笑顔で、
「ははは、きにすんな。
買い取りじゃなくていい。
これは、折れたものを鞘に入れておけば、一日で元の形に戻る。
再生のユニークスキルがついてる」
後ろで、深い安堵の声が聞こえたが、
「はぁ、よかったですじゃ」
「これ、貰います!!」
「毎度!!」
「な、なんとですじゃ」
「ヒビキ君、そんなの使うの?」
「僕は、使わないけど、アンナにあげようかと」
「また、そんなことしちゃうと、リィちゃんが、いじけるわよ」
「リイナとアドアにも、他になんか、買ってあげようかと思ってます。
せっかくなんで!」
僕の発言を聞くとあからさまに、嫌そうな顔をし始めた。
「はぁぁ、シルバと賭けなんかしなきゃよかった……」
聞き捨てならない言葉が聞こえたが、今は、追及しないことにした。
僕は、バックから、最近とんと使えていないミスリルの剣を店主の前のテーブルに置くと、
「ねぇ、この剣よりも、いいものある?」
店主は、鞘から剣を抜きとり、両面を確認し、一振りすると、
「ほぉ、悪くはないが、
中級の冒険者用だな。
だが、
悪いが、ここには、これを超えるものはないな。
すまんな」
「やったぜ、いえす、いえす!」
振り返ると、じじいは、急に元気になると、後ろで小さくガッツポーズをしていた。
「これなんか、どうだ。
直刀の剣ではないが、重さはそれほど、切れ味は同等だが、敵に向けて投げやすい」
店主がだしたものは、漆黒のククリだった。ククリのほうが重く、小ぶりであったが、剣とは違って投げやすかった。
「当たる確率があがるユニークスキルがついてるから、少し外れた感じに投げても、当たる……かもしれない」
「全然違うから、いらないじゃよね」
「これも、貰う。
他には、ないの?」
「ここには、これといったものは、ないな。
奥の雑貨屋と骨とう品やに、変なものが入ったっていってたな。
急げば、まだ、店にでてるんじゃないか?」
「ありがとう、行ってみるよ。
じゃ、ギルド長、お会計は、任せたね。
僕らは、奥の店にいってくるから、後で追いかけてね」
「お、ザジさん、お金は、金貨15枚でいいよ。ククリ分は無料にすっから」
「ぐはっ」
膝から崩れ落ちたギルド長をおいて、買い物を続けるため次の店に移動することにした。




