第368話 ナナさんと対戦してみよう
三匹が、食べ終わるのがあっという間だったため、そんなに遅れることなく、出発することができそうだった。
僕は、昨日習ったことを反復練習し始めながら、進もうとすると、
「ねぇ、ヒビキ君、
手合わせしてみましょっか?」
「え、いいんですか?」
「いいわよ、教えてもらったんでしょ?
実践で使えるか知っておきたいし、どんな感じなのかも見てみたいしね♪」
ナナさんは、僕から少し離れると、エドワードのほうを向いた。
「エドワードは審判ね。
ヒビキ君は、無手でいいわよね?
私は、ここに落ちてる木でいいわ」
そこには、形の悪い長い木が落ちていたが、彼女は形を気にしていないようだった。
「一本いれたほうの勝ちですね」
「ええ、いいわ。
ふふ、私に勝ったら、なんでも言うことを聞いてあげるわよ」
「えっ!」
僕よりも先に、エドワードが驚愕の表情を浮かべたが、悲しそうな目を一瞬してから、覚悟を決めたみたいだ。
「じゃ、始めるでござる」
「よろしくね♪」
「よろしくお願いしたします」
僕が頭を下げた一瞬で、頭の上に、木の棒が通った風が、感じられた。
いつでも、攻撃できるということだろうか。
急いで、少し距離を置いて、相手の出方をうかがってみることにした。
「今ので、一本でいい?」
「まだですよ、ま――」
「しゃべってる暇はないわよ。
そら!三連突き!!」
しゃべってる間に、彼女が一歩大きく前に出ると木の先がギリギリ届きそうな距離で三回突きを行ってきた。僕は、後ろに下がりながら、体をそらして、最後の突きをよけると、さらに、攻撃は続いていた。
「下層突き!」
ナナさんは、伸びた棒の下にいた僕に攻撃するように、棒の中間を踏みつけると、棒の真下にいた僕に先端が迫ってきた。先端が刃物であったならば、危険であったがただの丸い先であったため、握ると槍を起点にして、くるりと円回転で攻撃を躱した。棒の先端は、攻撃する相手を失い、地面に突き刺さり、折れるぐらいに曲がっていた。
「あら、やるわね。
これで、終わりかと思ったけど」
「ヒビキ殿の手に当たったで終わりでいいでござるか?」
「そんなぁ~」
「まだ、いいわ。
次こそ、しっかりと当ててあげるわ♪」
彼女は、そういうと、楽し気な表情から、真顔になり、腰の位置に構えたと思ったら、目にもとまらぬ速さで近づき、突きを放ってきた。
「高速突き!」
僕は、切っ先がどこを狙ってるかわからず、イチかバチか、ナナさんのほうに、踏み込んだ。
棒が来る前に地面に倒れるくらいまで、仰向けになり、地面ギリギリまで体を下げ、なんとか棒をよけることができ、ほんの少し上には、ナナさんの手が見えた。
僕は、棒を握り、ナナさんの頭があるであろう場所に、右足で蹴りを入れたが、棒を持ち上げられることで、軌道が変わって蹴りは空きった。
僕は、棒を放し、くるりと回転して両足から降りると、ナナさんが棒を腰で横に構え、こちらに振り向いた。
「腰横打!」
ナナさんは、背中で両肘で抱えるように持つと回転し、穂先で僕の腰部分、今はしゃがんでいたため、頭めがけて、棒を振るってきた。ぼくは、両足で、真後ろにジャンプすると、棒は空振りし、二回ほどバク転しながら、距離をとった。
「なかなか、やるわね。
次こそ――」
彼女が言い終わる前に、僕は、モンザさんから、教えてもらって、まだ、実践で放ったことのなかった、最終奥義を出すことにした。
右手をぐるぐる回し、言われたように飴を練るようにイメージするため、目を瞑った。
ナナさんの声が聞こえ、
「それは、モモがはなった――」
僕は、言葉をきくと、目を開き、にやりとし、今度は左手を回し始めたが、正面のナナさんをみると後頭部が見えていた。その瞬間後ろの木で、鈍い音が聞こえた。
ドン!!!
「そこままでござる」
僕は、最終奥義を出すのをやめると、
「僕の判定勝ちってこと?
あのままだったら、吹き飛ばせれて、危ないからでしょ?」
エドワードは、僕の少し後ろにあった、巨木を指さした。
「一瞬早く、ナナ殿が放った技によって、ヒビキ殿の負けが確定したでござる。
見るで、ござる。股の間にある木の棒を!」
彼がいうように、いつの間にか、ナナさんが持っていた棒は、僕の股下の数センチしたぐらいの位置で、後ろの樹に深々と刺さっていた。
少し上だったらって考えると、背中がぞぞぞっとした。
「仮に、みぞおちを狙われていたら、生死に影響したでござる
ナナ殿の慈悲に感謝するでござるよ」
「もう、エドワード。
殺すことや、痛めつけるのが目的じゃないんだから!
そこまでするわけないでしょ!!
でも、ヒビキ君、相手から目線を外しちゃ、だめよ♪」
ナナさんは、とびっきりの笑顔で、注意をしてくれた。
きっと、この恐怖から、一点、天使ような笑顔の落差で、落ちない男はいないだろう。
僕は、脂汗を拭くと、
「肝に銘じます」
僕は、感謝を告げると、賭けなんてなかったんだぐらいの勢いで、歩きだしたが、
「さ、ヒビキ君に何させよっかな。
これで、旅の楽しみが増えたわぁ♪」
と、あからさまに、聞こえるぐらいの一人事が聞こえた。
「……可哀そうでござる」
「あ、あん
なんかいったか?」
低く悪魔みたいな美声が山道に木霊したが、その後、誰も発言することはなかった。




