第365話 美味しいお酒は味わっていただこう
一人は、グラスをほんの少し口に含んだだけだったが、僕は一口ぐいっと口に運んだ。
咥内にわたるバニラの香りは、口あたりよく甘さを感じたが、その後、喉を通る際の焼ける感じが、飲みやすく美味しいがアルコールが高さがわかった。
「おいしいわね」
ナナさんは、そんなにグラスは開けていないのに、すでにお酒が回ってるのか、頬っぺたが赤くなっていった。やっぱり、ウィルスの影響なのか、バッドステータス無効が効いていないようだった。
同じように真っ赤なゆでだこの禿げたおっさんが、涙を流しながら、ちびちびと飲んで、小さい声でつぶやいていた。
「ししょう~、モモおじょうさ~ん」
まだ、食事が始まったばかりなのに、痛がってるドワーフ、目の座った暴力美女、涙を流しているタコ、大きな蟹の甲羅で遊ぶサル。
事態はどのように進むのか、考えたくない直ぐに思い浮かび、酔っ払い無効にしてぶっ倒れるわけにもいかなかった。
僕は、美女の機嫌を損ねないように、好物をもって近づくことにした。
「さ、ナナさん。
お待ちかねのエビですよ♪」
お昼に彼女に大好評だった伊勢海老のぶつ切りにエビ味噌ソースを、正面にもっていくと、彼女は奪い取るように、抱きかかえ、一口一口大事そうに食べていった。
「これは、絶品ね♪うふ♪♪」
とりあえず食べている間は、大丈夫そうだった。が、彼女が、嬉しそうに食べており、他の人間には一口もある気はなさそうだった。それでも、それに夢中でいる間は、全員の無事は取れているので、諦めるしかなかった。
「エドワード、大丈夫?」
「だ・め・で……」
今回もダメそうだが、思い起こすと今までの旅の戦闘のなかで、一番のダメージを受けている気がして、絶対に絶対にナナさんの前で年齢の話などしないと固く誓った。
そんな中で、先ほどナナさんから、もらったポーションを、全て使いきっていなかったことを思い出し、残りをエドワードに振りかけると、とりあえずは、苦しむ感じはなくなり、普段の様子に戻っていった。
「なんとか、生きてるでござる。
たすかったでござる」
「いいんだよ、
お酒、おいしいよ。
一緒にいただこう」
彼のグラスを渡すと、一口飲み、飲み当たりの良さで、ごくごく飲もうとしたが、高いお酒だと推測したのか、味わって飲むことにしたようで、その後は、少しづつ飲んでいるようだ。
僕は、号泣している師匠の隣にいきと、ツブ貝の大和煮を肴のあてとしながら、話をすることにした。
「師匠は、10年何をしてたんですか?」
「私は、師匠から免許皆伝をいただいて、修行の旅と称して大陸中を渡り歩いたんだが、特にこれといった目的も見つけられず……」
そういうと、不甲斐ないと言いながら、また、泣き始めた。
「まぁまぁ。落ち着いて
で、どうしたんです?」
「直ぐに、路銀が底をついて。
その後は、冒険者の助っ人やら、用心棒なんかをやってお金を稼いでは、旅を続けたんだが……」
何かを思い出したのか、より一層肩をおとした。
「で、それが、どうして、この大陸へ?」
「あまりにも、お金がなく盗賊団らしき、用心棒をしてたんだが、若いひょろひょろのやつに、一撃も与えられずにぼこぼこにされて、その場に捨てられてな。
首になったとわかり、逃げるようにあの大陸をあとにしたんだ……」
ナナさんは、いつの間にか話にはいってきた。
「それは、ハヤテかしらね♪」
「そうかもしれないですね。
最近のことですか?」
「ヒビキ君たちは、またも、その人物を知ってるのか。
ほんとに不思議な人立ちだ。
そうだねぇ~。
ほんの十日前ぐらいだ。
で、そのあと冒険者の助っ人で、入ったら、これだし……」
またしても、うまくいなかったことを思い出したのか、また、おいおい泣き始めると
「もう、師匠、お酒は止めましょう。
はい、お水。
それにしても、こんなところまで、あの事件の余波があるなんてね」
ナナさんは、目の座ったまま悪だくみを思いついたのかにやっとすると、
「ふふふ。
このヒビキ君は、そのハヤテを一撃のもとにやっつけたのよ!!
ひれふせ、このはげやろう!」
僕は、固まり、どうすることもできないと悟るのだった。




