第363話 世界の本質を理解してみよう
なかなかうまくいかない技の練習で、両腕と両足、普段使っていない筋肉が悲鳴をあげきり、強制的に可動域を開けさせられた股関節、肩甲骨は、痛みがどんどん増していき、歩くのもしんどくなっていった。
海沿いを歩いていたが、砂浜が終わり、だんだんと岩浜となり、やがて、今は崖といわれるような、場所を歩いていた。それでも、夕日が落ちはじめ、そろそろ、崖から海をみながらの山越えとなりそうになってくると、少し開けた場所が見えてきた。
日も落ちかけそうなこのタイミングで野営をすることに決まった。
そんな僕のことにはお構いなく、モンザ師匠は、鼻歌を歌いながら、夜の食事の準備で、調理台をだし始めていた。
エドワードは、大木の脇に、ベッドロールを敷き、ナナさんを大事そうに置いたが、まだ、彼女起きることなくは夢の中だった。
僕は、野営の準備を進めながら、うまくいかない技について、聞くことにした。
それは、モモが出していた技だった。
「師匠、何度やっても、奥義が出せません。
っていうか、片腕で風の渦も出せません」
モンザは、ちらりとこちらをみたが、その後は、昼に準備をしていた食材を一つ一つ調理台に出していった。
モンザ師匠は、包丁を洗いながら、考えてるようだ。
「エドワードは、火床を二つ位作ってくれ。
で、渦か……。
ヒビキ君は、どうやって渦を出そうと思ってるんだ?」
僕は、上がらない腕を痛みをこらえて回すと
「モモや、師匠のように腕をまわしただけです」
あきれたような顔になったあと、当たり前かといった表情を彼がすると、
「そりゃ、ただ、腕を振り回したって、渦なんかでないだろう」
「え、早く腕を振りませば、出るんじゃないですか?」
今度は、弟子に教える喜びか楽し気に大きな声で笑いだすと、
「だったら、早く腕を回すだけになるんじゃないのか?」
「そりゃ、そうでしょ!
どういうことですか!!
わかりませんよ」
僕は、いたい両腕をさすりながら涙目になると、彼は、にやりとし
「風という粘度のある物体をかき回して、渦ができるようなことを想像しながら、徐々に大きく前のほうも巻き込むように想像するんだ」
いったい何のことかさっぱりわからなく考えていると、いつのまにか、起きて来た寝ぼけ眼のナナさんが、
「まるで、魔法みたいね。ふぁぁぁ
だったら、魔法と思ってやってみたら、できるんじゃない?
ヒビキ君だったら」
僕は、杖を取り出すと、言われたように魔法で、渦が前にでき広がっていくイメージをした。
「風の渦]
杖からでた風の渦は、モモやモンザさんが出していた技と寸分違わなかった。
「ヒビキ君、できるじゃないか。
って言っても、魔法か。
魔法もできるんだね」
「ええ、リイナに教えてもらって」
「でも、魔法も剣も、近接も行うなんて、器用だね」
「いいところを取りたいんです」
「そうか、いいところを。
一つを突き詰めるではなく、いいところを融合していく……」
モンザさんは、包丁を持ちながら腕組して考え事をしているようで、怪我をしないかこちらがどぎまぎしていた。
「なんか、判った気がするよ、ありがとうヒビキ君。
あ、そうそう、
だったら、奥義で近接じゃなくて、魔法でいいんじゃないのかい?」
「だって、手に何も持ってなくても……」
といいながら、魔王の呪魔法を思い出していた。
本来の名前でなくても、魔法を出せる。武器を持とうが持ちまいがイメージできてしまえば、近接攻撃だろうが魔法だろうが、結果は一緒ということか。
「そういうことか。
なんだ、答えは、もう前から出てたじゃないか。
攻撃方法や技名に拘る必要なんてなかったんだ」
「ん!?
なんのことだい、ヒビキ君?」
「いえ、自分が攻撃の仕方に拘って、習おうとしてたのが愚かだったってことです」
「なんのことか判らないけど、ヒビキ君は愚かじゃないわ、気づけたんだから」
「攻撃方法にこだわるか。
ハン式に拘る必要はなく、自分の攻撃、生き方を進めということか……」
「なに、難しい話をしてるのよ、
料理が進んでないじゃない。
ヒビキ君も、なんか怪我してるんじゃない。
動きがぎこちないわよ。
ポーションあげるから、回復しなさい」
眠り姫のてきぱききとした指示に、素直に従い、僕は疲労から回復すると、モンザさんの手伝いを改めて、開始した。




