第360話 夜の話をきいてみよう
さらに、腹を抱えて笑ってるナナさんの後ろから、エドワードが眠そうに近づいてきて、全身にかかるように、小瓶を振りかけた。
「すまんでござる。
昨日、サキュバスにやられて、感情のコントロールが不安定でござる」
ふぁぁ、と大きな欠伸をしながら、ナナさんの隣で彼女を見つめると、
「もう、エドワード、それは、秘密っていったでしょ♪」
いたずらっぽく人差し指でエドワードの口を塞ぐと、そのまま、ゆっくりt倒れるようにエドワードに持たれ掛かり、抱えられると眠りについた。
「まだ、魔素が消えてないでござるから、
この、シルバ様特性の浄化薬が必要でござる」
「大丈夫なの?」
「大丈夫でござる……はず。
二日もすれば……
明日になれば、浄化薬も必要ないといってたでござる!
きっと、アカリ殿も今頃は、治療されているでござろう……」
「え、アカリさんも!?」
しまったといった顔をしたエドワードは、助け舟を出してもらおうと、辺りを見回したが、いつも助けてくれる優しい女性は、彼の腕の中で気持ちよさそうに眠っていた。
大きなため息の後、エドワードは、諦めた表情に変わると、
「もう、覚悟したでござる。
すべてを話すでござるよ、はぁ~……
サキュバスは、アカリ殿の母君と名乗るヒカリでござった」
僕は、眉間に皺を寄せたが、話が気になったため、口をいれなかった。
「アカリ殿は、あの連れて行ってもらった店で、
我らを眠らせて、取り込む手筈だったらしいでござった。
だが、ナナ殿とヒビキ殿には、まるで効かなく、拙者だけ眠ったので困ったらしいでござる」
「たしかに。
そういえば、いつもより、早くエドワードがつぶれてたね」
「つぶれたんじゃないでござる。
ね、ね、ね、眠った振りでござる」
「へぇ~。
まぁ、いいや、で?
まだ、判らないことが多いんだけど……」
納得はしてないことが嫌そうだったが、さらに口を開くと、
「ん。
もっと、最初から、話すでござる。
宿に到着して直ぐに、シルバ様から店にみんなが来ないってことで、
ギルド職員が慌てて宿まで、探しに来たらしいでござる。
どの店にいったか聞かれたので、ナナ殿が詳しく話すると、そんな店は聞いたことも行ったこともないっていってたでござる。
それに、ギルド職員は全員ほぼ大通りの店にいたらしくて、その店にはアカリ殿を除いてだれも行ってなかったのでござる」
「うん。
あかりさんの話だと、全員ギルド職員っていってたもんね」
モンザさんは、話に集中してるらしく、手を止め、ごくりと生唾を飲んだ。
「そこが変と、ナナ殿も言ってたでござる、この後聞いた話でござるが……
拙者は、寝てたでござるが、ナナ殿に起こされて、アカリさんを、
シルバ様配下の職員たちと、別々に追うことになっだでござる。
ナナ殿が、おばあさんに、出かける旨とヒビキ殿の警護をお願いして、
出かけることにしたでござる。
その時に、ギルド職員から聞いた話を、拙者にしてくれたでござる。」
「@けいごは、おばあさんから、ろてんぶろで、たのまれたよ@」
「だから、露天風呂と寝室で、猫がいたのか」
僕は少し合点がいったが、まだ、物語の本質まで、話は届いていなかった。
「ちゃんと、やっててくれたようでござる。
で、急いで宿をでて、バラバラに追いかけると、
拙者とナナ殿が一番にみつけたでござる。
その時は、まだ一人で、アカリ殿はゆっくり歩いていたでござる」
「で、どうしたのだ?」
モンザさんも話に食い入るように聞いているようだ。
「二人で、見つからないように、隠れて付いていくと、ヒカリが薄暗い路地でまっていたでござる」
「うんうん、それで?」
「急にアカリ殿が、ヒカリの前にしゃがみこんで、話しだすと、アカリ殿が罵倒されたでござる。
時折聞こえてくる怒声から、どうやら、ヒビキ殿の誘惑の失敗、拙者とナナ殿も仲間に入れ損ねたことへのしっ責だったでござる」
「拙者とナナ殿が二人の前に立つと、最初は、なんでもなかったようにふるまったてでござるが、直ぐにナナ殿が論破したでござる」
まぁ、エドワードじゃヒカリさんへの論破は無理だよなぁ
「論破されるとヒカリは、羽が生え魔物へと容姿がかわっていったでござる」
「じゃ、そこで、ヒカリさんが」
「魔物であったことがわかったでござる。
その後、戦闘になってヒカリは、空中から攻撃したりと、やりたい放題でござった。
力も半端なかったでござる。拙者ですらかなわなかったでござるから、膂力がすごかったでござる。
後からシルバ殿に教えてもらったでござるが、眷属が多くなるほど、
力を増すらしいのでござるとのこと。
きっと、かなりの眷属がいたのでござろう。
強烈な攻撃の連続で、拙者とナナ殿、防戦一方になったでござる」
「で、どうなったんだ?」
「それで、騒ぎが大きくなったでござるから、ギルドの職員がくるでござろうと、ナナ殿の提案にのり 必死で防御に回っていたんでござる。
ヒカリも焦ってきたのが、攻撃が雑になってきて、こちらも最初よりは避けるのに余裕が
出てきたでござる。ときおり、こちらも、攻撃を仕掛けたでござるが、
ダメージは与えられても討伐までには、時間がかかりそうでござった」
「とはいえ、そこまでいけば、慎重に進めたら、倒せそうだね」
エドワードは、僕の発言を聞くと首を横に振った。
「が、拙者とナナ殿は、油断したでござる。」
「油断?」
「そう、最初から、アカリ殿は、戦闘できないと踏んでしまってたでござる。
そのちょっとした油断で、ぼうっと気配を消していたアカリ殿の前に、
ナナ殿が躱した拍子に飛んでしまったでござる。
そして、後ろから羽交い締めにされたでござる」
「でも、ナナさんなら、振りほどけれるでしょ?」
「そう、振りほどけれたでござる、数秒後に。
その数秒の間に首元に噛まれたでござる」
「じゃ、その後、二人とも、咬まれたのか?」
モンザさん、みんな噛まれたら、二人、ここにいないでしょ
エドワードが、また、首を横に振ると、話始めた。
「ナナ殿は、その場に崩れたでござる。
そんな様子に、拙者は、我を忘れて感情の赴くままに、攻撃したでござる。
そして、スパッと一撃のもと、ヒカリを倒すと、口からナナ殿の血を流していたアカリ殿も、
同時に倒れたでござる。
直ぐにナナ殿に駆け寄って、困ってたところに、シルバ様が駆け付けてくれたでござる。
他にも多数の眷属になった人たちがギルド内、夜通し治療を受けていたでござる」
「だから、一晩中、シルバ様のところで治療を受けてたの?」
「そうでござる。
ナナ殿について、心配で、ずっと、手を握ってたでござる」
そうだったのか、あの夜、僕が、知らない間にそんなことが起きていたとはなぁ。




