第359話 暴言を全力で否定してみよう
悶えてたモンザさんが、一通りの会話が終わると立ち終わった。
「なかなかいい突きだね、一瞬気を失ったよ。
鍛えれば、いい武闘家になれると思う。
どうだ?格闘術を習ってみないか?」
僕は、一瞬モモを思い出すと、
「いいんですか?ありがとうございます。
モモが使ってるのをみて、僕も使えるようになりたかったんですよ」
僕の発言に気になったのか、彼は、腕組みをすると、
「うん?
ヒビキ君は、モモお嬢様を知ってるのかい?」
「ええ、前にギルドで――」
僕が話している最中にいたずらいっぱいの目をしたナナさんが、話に割って入ってきた。
「モモとちゅーしたなかだもんね」
「えっっっ!!!
な、なっ、なっ、なんだって!!!!」
驚愕の表情を浮かべ、モンザさんはあからさまに動揺したら、怒ったような顔になったり、悲しそうな顔になって体を小さくしたかと思ったら、天を仰ぎ、最後は、諦めの表情で、何も言わずに、使った調理器具を洗ってしまい始めた。
「モンザさん、待って。
ほっぺだですから!
町を案内してくれたお礼として上げたイヤリングのお礼ですから!!」
僕は、慌てて追いかけ、必死になって説明をしたが、必死過ぎて説明が変で、ちゃんと伝わったか不安だった。またも、判りやすい表情で、はっとした表情から、納得といった表情にかわり、普段と同じような姿勢かと思ったが、目が泳いでいた。
「と、ところで、ヒビキくんは、
モモお嬢様のことをどう思ってるんでございますか?」
既に、動揺が隠し切れないのか、口調がおかしなことになっているが、
「僕は、いい子だなとは、思うけど――」
「――僕には、リイナっていう婚約者がいるから、彼女の気持ちには答えられないよ」
ナナさんが、僕の後ろから、声色をまねて勝手に発言すると、嬉しそうな表情に変わり、
「そうか、そうか。
別に婚約者がいるのか。
応えられないか、うん、うん」
何か大きな勘違いをしながら、喜んでるモンザさんに
「ちょっとナナさん、勝手に話さないでください。
誤解を生んだじゃないですか?」
「え?」
「いいじゃない。別にホントのことでしょ。
そ、それに、両家とも、ヒビキ君を婿にって言ってて、取り合ってるんだよね。
うひひひ」
ナナさんは、背中を丸め、握りこぶしを自分の口に当てて、下品な感じに笑っていた。
「なんの話ですか!
そんなの知りませんよ」
僕が否定をすると、ナナさんは背筋を戻して真顔になり、
「あ、ごめん、秘密だった。聞かなかったことにして。
でも、リィちゃんと、ぶちゅっとやったんだから、教えてあげてもいいんじゃないの」
僕は、港でのことを思い出すと、自分でも顔が熱くなることが判ると、
「み、み、み、見てたんですか!」
「見てなくても、帰ってきた二人っていうか、リィちゃんの幸せそうな顔を見れば、
作戦がうまくいったことぐらいわかるわよ」
僕は聞き捨てならない単語を聞くと強い口調で聞き返した。
「作戦って?」
けらけらわらって喜んでいたナナさんが、また真顔に戻ると、
「ごめん、こっちも秘密だったわ。聞かなかったことにして」
僕が、聞かなかったことにせず、問い詰めようとすると、話についてこれてないモンザさんが割って入ってきた。
「申し訳ないのだが、りィちゃんっていうのは……
両家で、ライバルっていうと、オウサ家の方でしょうか?」
またも、面白いことになりそうと目が楽しそうなナナさんが、
「よく、知ってるじゃない。
リィちゃんは、オウサの長女のご息女よ、うふ♪」
「じゃ、ヒビキくんは、あの伝説の二人に認められてるってことですか?」
「そうよ、この女たらしのヒビキ君は、いろいろな町で美女を惚れさせては、捨てていく屑。
違ったわ。
魔王と伝説のハンさんを、同時に倒した強者なのよ。
あれ、これも違うっけ……うひひ」
けらけらとこれ以上ないくらいに楽し気なナナさんを、僕は、冷静になり、冷たい目をすると
「そんな風に思ってたんですが、
それに、誇張しすぎです!!
た・ま・た・ま!倒せただけです!!」
そんな話を聞き入れたのか、またも、驚愕な表情で見てるモンザさんが、
「最初の発言でただの屑かと思った……おっと、失礼。
一撃でも与えれれば、免許皆伝がもらえる、あのハン師匠と、
それを軽くあしらう、あの魔王を同時に倒すだなんて!!
英雄、色を好むと聞くが、他の美女を夢中にさせるのも納得だな」
僕は、慌てて強く否定をしたが、モンザさんの中では、納得しているようで、ちっとも、聞き入れてくれなかった。




