第353話 おっさんの長い話を聞いてみよう
仕方ないので、もうひと箱を取り出して、手渡すと、さっきまで遠慮をしていたのか、また本気になって食べ始めた。見ていた全員が、引くぐらいの食べっぷりを続けていた。
「ねぇ、ヒビキくん、
彼が食べてるのって、私たちの分じゃないの?」
ナナさんのずばり本質をついた質問に苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ええ、今日の夜と明日の朝分です」
「やっぱり」
「それがなくなるのは、困るでござるな」
僕らの会話が耳に入ったのか、食べるのを辞めると、背筋を伸ばしてこちらを見始めた。無残に食い散らかされたお弁当は、ほとんど空になっていた。
「それは、申し訳ないことをした。
おかげで、最後の晩餐を楽しめた。
本当にありがとう」
彼は、そういうと頭をさげた。頭はぴかりとひかりとても眩しかった。
「え、どういうことですか?」
だったら、そんなに食べないでもいいじゃんって気持ちがほんの少し、ちょっぴりだけ思ったが、直ぐに打ち消し、彼の話を聞くことにした。
「話が長くなるのだが、最後の言葉と思い聞いて貰いたい。
モンテバのギルドで、バンパイア討伐に名乗り出たのは、よかったのだが、どんなに打撃、剣撃、魔法を浴びせても、まったく攻撃が通じなくてな」
「確かに、あのバンパイアは、全部の攻撃が黒い霧で、ダメージが与えられませんでしたね」
「おお、遭ってたか。よく、無事に逃げれたな。
それでも、奴の攻撃を躱しながら、いずれは倒せると幾刻も戦ってたのだが、
やがて、一人が疲れてきて掴まり咬まれ、奴の眷属になると、一気に形勢が不利になり、私を残して、全員が敵に回ったのだよ」
「そうなんですね」
「そんなことがあったでござるか」
僕とエドワードは頷いたが、イノさんは興味がなくなったのか、その場に座り込むと丸くなって眠り始めた。
「うむ。
それでも、全員の攻撃を躱しては避けと、防戦に回って更に半日ほど戦ってたのだが、相手は疲れも見せずに攻めてきてだね、こちらは、どんどんお腹が空いて動きが悪くなっていってな」
「で、咬まれたのね。
さっきの食べっぷりでも、判るけど。
燃費悪そうだしね」
「めんぼくない。
とはいえ、他の冒険者とは違い、ハン式格闘術免許皆伝 師範代のこのモンザ、
簡単には、魔物になっては、師に申し訳なし!
体内に気をを巡らせ、魔物化を遅らせて……はいたのだが、動かなくてもお腹が空いていって、
どんどん魔物化が進んでいって、ほれこのとおり」
彼は、服を脱ぐと肌は雪のように白かったが、前を見ていないので、どう変わったかわからなかった。 それよりも、彼の目が赤く、犬歯は牙に変わってたので、そちらだけで十分だった。
「じゃ、まだ、完全じゃないんですね」
「ああ、だから、君たちの手で私にトドメを指してほしい。
魔物化したなんていったら、師匠に申し訳がたたない」
僕は、こんなこともあるんだなと思うと
「判りました。
ご希望どおり、とどめを刺してあげます。
覚悟してください」
「ヒビキくん!
本気じゃないわよね!!」
「そうでござる。
ヒビキ殿らしくないでござる」
「僕はいつだって本気だよ。
じゃ、うまくいくように二人とも、祈っててください」
僕は、そういうとアカリさんから、貰ったものを取り出すことにした。




