第349話 宿から出発してみよう
僕は、驚愕して、口元に手を合わせているアカリさんに声をかけた。
「おはようございます」
「え、あ、
おはようございます。
あのこれは?」
「何かありました?
特に気になることは、ないかと思いますが?」
そうはいったもののテーブルでは、エドワードがナナ様に給仕していて、正面では、サルが毛づくろいをしていて、後ろでは、猫がうみゃーうみゃーいってて、どこをどう取っても、大混乱だった。
だが、僕の話を聞いて空気を察したのか、
「そ、そうですね。
気になるものはないですよね。
では」
アカリさんは、固まったまま、ゆっくりと外に出ると、僕も追いかけた話をしないといけないのだった。
「ちょ、ちょっと待って下さい。
アカリさん」
僕の声を聴くと立ち止まり、手を胸において呼吸を整えていた。
「経験が浅いもので、少し驚きましたが、お二人は仲がいいんですね」
あぁ、そっちね。
「そうですね、僕もびっくりです」
「「ははは」」
二人で笑い合うと、少し落ちてついてきたので、ちょっと、ジャブを打つことにした。
「ここのおばあさんは、獣人なんですね」
「ええ、大ザルを連れて町に入ってこられたので、そのほうがいいのかとシルバ様と話をしていたんですよ」
思てったとのと違う気がしたんだけど、
「あれ?無理言って変えてもらったんだとど思ってました」
「ええ、どっちにするか悩んでたんですが、
必死でヒビキさんが語られるので、知らなかったことにして、話に乗ってみたんです」
やっぱり掌で踊らされてたのかと思うと、恥ずかしさでいっぱいだった。
「おばあさんのビビさんには、先に伝えてたので、普通に接してくれたと思うんですけど、
何か、問題はありました?」
「いえ、特に何もありませんでしたよ」
一緒に布団で眠りはしましたけどねと言いたいのは、我慢することにした。
にっこりとほほ笑むとバックから何かを取り出そうとしていた。
「これが、ギルドで用意した夜と明日の朝の分の食事です」
大きく見た目が立派な弁当箱を二つ手渡されると、ありがたく頂戴しバックの中に丁寧にしまった。
ちょうどご飯が終わったのか、三毛猫をつれたエドワードが眠っているナナさんをお姫様抱っこしながら、イノさんと共に建物から出てきた。
「ご飯が終わったでござる」
「それでいくの?」
僕はエドワードと腕の中で眠っている彼よりも大きな女性のアンバランスで不思議に思ったが、
「ナナ殿は軽いから、楽勝でござる」
そういや、エドワードもドワーフで、あの重たい鉱石を加工するぐらいなんだから、僕なんかより力があるんだろうな。
話に夢中になってたようで、人の形に戻った獣人のおばあさんに気づいてなかった。
「気を付けていってくるんだよ」
「はい、判りました。
行ってきます」
僕は、おばあさんにお礼をいうと、そんな様子をみていた、アカリさんが歩き始めたため、その後ろを付いて行った。イノさんは、周りに見つからないように飛び立つと、建物の屋上を器用に渡り歩いてついて来ているようだ。
イノさん達の様子を見ていたら、アカリさんとエドワードと距離があき、遅れていたので、歩幅を大きく取り、急ぎ足で向かった。
どうやら、先を歩いている二人(?)は、何か話をしているようだった。
「そういえば、昨日の夜は大活躍でしたね。
ギルドマスターのシルバが、褒めておりましたよ」
「そんなこともないでござるよ」
昨日の夜のバンパイアのことかと思ったが、話している内容から、そうじゃないような気がした。
僕は、ようやく近寄ることができ、どういった内容なのか会話に入って行った。
「昨日、何かあったの?」
「私も、意識が混濁していてよく分からないのですが、
どうやら町の中に魔物がいたようで、
エドワードさんとナナさんが退治してくれたようです」
道理で、宿の隣の建物が静かだったんだな。
きっと、夜通し戦ったんだろう、だから、ナナさんが眠いんだな。
「だったら、呼んでくれたらよかったのに」
「いや、あ、うん」
「ふぁぁぁ。
私が呼ばせなかったのよ。ヒビキ君じゃ荷が重そうだったし……」
きっと、かなり強い相手で僕が足手まといなんだろう。
「そんな強敵だったら、なおのこと呼んでくれれば、よかったのに」
「まぁ、無事、エドワードが倒したから、問題ないわ。
だから、この件は終わり。おやすみ」
そういうと、首を両手でしっかり抱きしめ、頭をエドワードにあてて、嬉しそうな顔でまた眠り始めた。
それにしても、なんで、嬉しそうそうなんだろう。
「ま、いっか。
魔物が退治できたなら」
「ですね。
私も今日は何日ぶりに眼が覚めたくらい頭がすっきりしてるんです。
最近、なんか靄がかかってた感じがしてましたから」
「そうなんですね」
僕はそのあとも、最近のアカリさんの話を聞きながら、町の中央を抜け、大通りを歩いて行くと間もなく町のはずれのゲートが見えてきた。




