第344話 宿の話を聞いてみよう
後ろから来る鬼の目線が、痛かったが、振り払うほどの度胸もなかったため、僕は、柔らかな感触の右腕に全神経を集中しながら、一緒に歩いた。急にアカリさんが、こちらを見上げると、
「ヒビキさん、あそこを曲がったら、着きますよ♪」
確かに、今通った道は、ご飯の前に一度通った気がしたが、今は、それよりも集中しているものがあったため、頭がまわってなかった。
アカリさんの一言のとおり、直ぐに曲がり角はやってきて、幸せな時間はすぐに終わってしまい、宿の前に到着すると、アカリさんは、腕から離れるて、距離をとった。
「では、ゆっくり休んでくださいね。
明日の朝、迎えにきますから♪」
「判りました。
明日も、よろしくお願いします」
「よろしくね、私は重いから先入ってるわよ」
「判りました」
ナナさんは、まだ腕にエドワードを抱いており、こちらを振り返ることもなく、宿の入口に向かって歩いていき、直ぐに背中が見えなくなった。
アカリさんと一緒に、ナナさんが見えなくなるのを確認すると、
「町から出る時も、ヒビキさん達は、目立ちますから、騒ぎになるといけませんからね、
絶対に、私をおいて、先に行っちゃだめですよ!」
「はは、そうだすかね。
ちゃんとアカリさんを待つようにしますよ」
僕が笑いながら返事をすると、アカリさんが、急に接近しきて僕の目の前で、目を瞑ってきた。
さ、さ、さ、流石に、怒られるよね、で、でも、見つからなきゃ。
といった考えが一瞬頭に横切ったが、背中に寒気が走った。後ろを振り返り、正面を見てみると、宿の先の曲がり角に顔だけ出しているナナさんが興味津々で口角を上げてこちらを見ていた。
やばばばばばばばば
一瞬で真顔にもどり、アカリさんを見ずに、
「じゃ、僕は、行きます。
また、あした~」
「えっ、は、はい
また、あした……」
僕は、後ろを振り返ってアカリさんを見ることもしないまま、急いでナナさんのもとに走った。ナナさんは意地悪そうな顔をしており、
「あら、残念♪
りっちゃんにお土産ができると思ったのに」
「意地が悪いですよ、あえて、状況作るなんて!」
「なんのことかしら、
さ、イノさん達に、ご飯を追加で上げましょう。
「むぅぅ、
そ・う・で・す・ね!!」
僕らは、竹藪の庭の石畳を歩いて入口に向かうと、玄関のところに年老いたおばあさんが立っており、僕たちをみると頭をさげた。僕は合わせるように、頭を軽く下げると、
「今夜は、よろしくお願いします」
「聞いておりますよ。
今日は、みなさんだけですから、全建物を好きなように使ってください。
夕食は、いらないってきいておりましたが……」
「ええ、先ほど、アカリさんと一緒にたべにいってきました」
「それは、なによりです。彼女は人との付き合いがひろいですからね。
明日は、朝ご飯を用意します」
「はい、楽しみにしてます」
老婆は、楽し気に笑うと、僕らを引き連れて中に連れて行った。
「そうそう。
あの親子は、色恋沙汰が大好きですが、
お前さん、二人に好かれそうな顔しておりますな」
「そうなんですよ、
ふふふ」
「そ、そんなことないですよ!」
僕の言うことは聞かずに、ナナさんと老婆は二人で楽し気に会話をしながら、宿を通り抜け、二つの建物の前にたった。
「この別邸も、使ってください」
「さっきも言われてましたが、ほんとに、二つ使っていいんですか?」
「今とおった宿の二階も、使ってよいし、
この先にもういっこ建物があるので、そっちもつかってよいですよ」
「そんなに!」
「客がおりませんからね。
あと、この太い道の先に露天風呂があるから、好きに使ってよいですよ。
まぁ、夜は危険だし、山の獣も勝手にはいってるかもしれませんが……」
「そ、そうなんですね」
「じゃ、明日の朝、最初の建物で朝ご飯を用意しとくんで、
いつでもよいから、来てくださいな」
「ありがとうございます」
僕らは、二つの建物の前でお休みすると、おばあさんは、最初の建物に戻って行った。
「どっちを、使います?」
「私たちは、こっちの建物を使うわ。
ヒビキ君とイノさんは、そっちね」
「@あい@」
「りょうかいだお」
「え!!」
僕は、驚いて声がする隣を見ると、イノさんたちが隣に座っていた。




