第297話 漁夫の利を得よう
ふぐぉぉおぉおぉぉぉ!
巨大なヘラジカが一声鳴くと、巻貝の上に雷雲が立ち込め始めた。どんどんと巻貝を中心に雷雲が立ち込め、あっという間に、辺りは暗くなっていくと、雲の中で雷がビリッビリッっと稲光が走っていた。
ドンッ!ドンッ!ドンッッ!ドドンッ!
何本もの雷が巻貝の真上に落ちたが、内部を貫通している様子はなく、外の貝殻の壁面から、砂浜に流れるように、光っていた。
「通じてないでござるな」
「だよねぇ。
あ、動き始めた」
ナナさんが槍を頭の上に構えて、他人事のようにみていると、ナナさんの言う通り、ヘラジカは、ゆっくりと巻貝に近づいていった。
僕が返事をする間もなく、徐々に速度を増していき、ほんの数秒もしないうちに、すさまじい勢いで巻貝に近づいて行った。足は遠目からでも、見ることができないのだから、どのくらいの足さばきなのか思いつきもしなかった。
「は、はやいござる」
「だね、凄い!」
話している間に、100メートル以上離れた林から、砂浜まで一瞬で巻貝の正面に到達し、その速度を活かすかのように、巨大な角で貝の壁面をたたきつけると、貝殻の防御など微塵もかんじられないくらいに、両方の角が深々と突き刺さり、抉られた。
ガギンッ!!
「勝負あったのかしら」
「でも、まだ、光の粒子になっていないですね」
「そうでござるな」
ヘラジカは、突き刺さった角を抜こうとし、頭を上下左右に揺さぶっていると、巻貝から放たれた何百本もの触手が足元から巻き付いていき、やがて頭以外を覆い隠した。
ぶもぉ~
中でどんなことが行われているか想像もしたくなかったが、数分もしないで、ヘラジカが、力なく鳴くと首を持たれ、やがて光の粒子へと変えていった。
「巻貝が勝ちましたね」
「そうね。
相性かしらね。
で、どうする?」
「拙者に、任せてほしいでござる」
「いいわよ。算段あるの?
何も考えてないなら、行かせられないわよ」
ナナさんの一言で頭を抱えたエドワードの助け船を出すことにした。
「じゃぁ、まずは、僕が魔法を唱えるから、
その後、遠距離攻撃してみて。
それで、だいぶダメージを与えられるはずだから」
「あれで、ござるな」
「うん。
で、割れたところからなら、攻撃がいけると思う」
「了解」「了解でござる」
「で、倒せなかったら、諦めよう。
林を経由して、避けていこう」
「それでOKよ」
「行くでござる」
「僕の魔法の後だよ、いい?」
最後の返事は、聞こえなかったが、三人で静かに近づいていき、100メートルくらいのところで、
僕は、魔法を唱え始めた。




