第273話 間話 ヒビキ離脱 3日目(夜)
一刻ほどたつと、工業都市 セユクーゲの町が見えてきた。
この都市は、隣の大陸、以前リイナたちがいたエスサハカ大陸の上に位置するコモイラージ大陸につながる大橋が、建造されていた。大橋の下では、大渦巻きが発生し、船での移動は困難なため、この橋が大陸間での移動の命綱だ。
また、反対側では、王都 ベーオーンに直通で通じる大道が山をくり貫いて繋がっているのだが、
王族専用の道路となっているため、冒険者では、存在を知っているものは少なかった。
どちらも、厳重に警備がおり、彼女らは、そんな様子をみながら、奥の酒場に入っていった。
開いている席を四人で探していると、一つの席が空いていた。
「今日は、ありがとうございました。
おかげで命拾いできました。
今日のお会計は私がもちますので、どんどん食べてください!」
「「やったあ!!」」
二人の美女は、手に取って喜ぶと、彼を挟んで、座った。
「この座りから、おかしくないですか?」
「まぁ、よくあることなんで」
リイナは、意に介せず、一人で正面に座ると、メニューの上から順に頼んでいき、ニューイシをどん引きさせた。
「そ、そんなに、頼むの?」
「え、まだ、半分でしょ」
ニューイシは、真面な人間が一人も居ないことに、ようやく気付き当初は焦ったが、覚悟を決めると、嵐が過ぎ去るのを大人しく待つことにした。
料理が揃い始め、飲み物が届くと、宴会が開始された。
「「「「かんぱ~い」」」」
3人が一気に飲み干すと、仕方なくニューイシも一気に飲み干した。2杯目、3杯目と一気に飲み干すと、彼女らのペースで飲めないことを悟った。
「なんで、一人で、旅してたの?」
由香里は、グラタンを一口スプーンですくうと、ニューイシ林に食べさせながら聞いた。
モグ、モグ
「どうも、戦闘が苦手で、周りの足手まといになりたくないと思って……」
「戦闘が苦手なら、なおさら、他の人と一緒じゃないとまずいんじゃない」
奈々(ナナ)は、サラダの野菜をフォークで刺すと、ニューイシに食べさせた。
ハグ、ハグ
「じ、実は、吟遊詩人の力で、敵味方関係せず、影響して、追い出されるんです」
酔っぱらった影響で、思わず、ほんとのことを言ってしまい、この後のことを考えると、また同じ失敗を繰り返すのかと悔やんだ。
「じゃ、歌ってみてよ」
リイナは、目の前のイカのフライを一口咥えながら、雑にお願いをした。
酔いが回ってることもあり、ニューイシは、歌わないといったことは、できないんだろうと推測し、諦めて、一小節だけ、歌うことにした。
「そらよ~♪うみよ~♪ら~ら~ら~」
リイナは、まったく興味を持てず、ポテトサラダを食べながら、酒を注文していたが、二人の美女は、
聞き入って、目を瞑っていた。
ある程度の歌をニューイシが歌い終わると、彼のユニークスキル 魅了の効果で、店中の男性や女性かまわず、彼を中心に集まってきて、賛辞の声や、称賛の声が広まった。
「素敵だったね」
「上手だったわ」
由香里も奈々(ナナ)も同様に、賛辞の声を彼に送ると、すべてを台無しにするため、恐怖の歌を歌った。歌声は、低く周りにいた人たちは、我先にと、店を飛び出し、散り散りに逃げていった。
「なかなか、いい低い声ね」
「たしかに、こっちも悪くないわね」
二人が、また、賛辞の声をニューイシに送ると、逃げ回らない3人に対し、驚愕し、酔いが一気にさめた。
「どうして、3人は、恐怖にならなんですか!
魅了には、かかってたのに!」
「私たちはね、状態異常とか、かからないから」
「ねぇ」
そういうと、彼女たちは、自分たちのユニークスキルを彼に教えてあげた。由香里のユニークスキルは、バッドステータス(無効)で、いい状態異常はかかるが、悪い状態異常はかからなかった。
奈々(ナナ)のスキルは、明鏡止水。いい状態異常も、悪い状態異常も無効にできるが、感情の起伏が少なくなってしまうといった効果があった。
「私は、指輪のユニークスキルで、ある程度の状態異常を少し抵抗できるのよ」
「へぇ、そっちのほうが便利そうね」
由香里と奈々(ナナ)が、羨ましそうにリイナを見ていた。
「道理で!
え!!
じゃ、純粋に二人は、私の歌を聞いて、ほめてくれたんですか?
「「はははは」」
「当り前じゃない」
「ねぇ」
「う、うれしいです!!
おかわり!」
「そうこなくちゃ」
彼はこれまで、魅了スキルでしか褒められたことがなかったので、心の底から、喜んだが、
彼が酔いつぶれるまで、そんなに時間がかからなかった。




