第269話 間話 ヒビキ離脱0日目~1日目
ヒビキが嵐で飛ばされた直後から、物語は始まります。
リイナは、これまでで一番焦っていた。これまでも、ヒビキと離れたりはしていたが、まだ、仲間がいたため、それに、戦闘中だったこともあったため、そんな余裕がなかったが、今は、身動きができず、不幸な考えしか思いつかなかった。
ヒビキが飛び去り助けに行きたい気持ちを抑えながら、嵐の馬車の中で、納まるのを待っていたが、疲れもあってか、横になるとすぐに眠りについた。
朝になると、雲一つない晴天が広がっていた。おじいちゃんに別れの挨拶をすると、踵を返して、グローレットに向かって、走り始めた。
どうしよう、どうしよう。
リイナは、不安でいっぱいなまま、唯一頼りになるママの元に、戻ることしか考えてなかった。
朝食も取らず、飲み物も取らず、全力で走り続けること、2刻。町が見えて来ると、安堵と共に不安が襲い掛かってきた。それでも、頼れるものは両親しかおらず、ママなら、パパならと期待し、なるべく不幸なことを考えないように走った。町を通り抜け、玄関にいき、家の中にいる彼女のママに向かって、休むことなく、全力で駆け抜けた。
家の奥にあるパトリシアの部屋に飛び込むように入ると、彼女は、水晶玉の前に座っていた。
「あら、リイナちゃん、早かったわね」
「ぜぇ、ぜぇ、大変なの、ヒビキが、ヒビキが……」
「まぁ、落ち着いて、水を飲んで。
そして、パパに挨拶すれば、すべてが解決するわ」
「ど、どういうこと?」
リイナは、パトリシアから水を受け取り、一気に飲み干すと、水晶玉の相手を見始めた。
「パパ、久しぶり、ママが、ママが……」
「まぁまぁ、落ち着け、リイナ。
これをみてみろ、昨日の夜に、うちのテントに落ちてきてな」
水晶玉の相手のパパこと、ジュウベエが、ヒビキの寝ている姿を見せると、何が起きているかわからず、受け入れることを拒否しはじめた。
「え?」
「だからな、昨日の嵐対策にテントを張り終わったと思って中でひと段落しようとしたら、
すごい音がしてな、何事かと思ったら、彼がテントのそばで倒れててな。
見覚えのある杖だと思って、昨日の夜にパトリシアに確認したら、知り合いだっていうしな……」
「そ、そうなの……
よ、よかったぁ~」
気を張っていたリイナは、ヒビキの安らかな寝顔を確認すると、腰が落ちて、
へなへなとその場に座った。
「で、婚約者なのか?」
「ち、違うわ、
そ、そんなんじゃ……」
「でしょ、ジュウベエ、煮え切らないでしょ」
「そうだな」
二人は、リイナの様子をみて、お互いに視線を合わすと、一計を案じることにした。
「まだ、こっちは、嵐だから、リイナは、このまま、魔馬車で王都に迎いなさい」
「嫌よ、嵐が収まったら、そっちに走って向かうわ」
「じゃ、ジュウベエ、あとはこっちで話すから、ヒビキちゃんに生きていけるように、
剣術を教えるのよ」
「あぁ、わかったよ。
また、後でな」
そういうと、水晶玉の映像は、消え、パトリシアとリイナは、二人きりになった。
「いい、リイナ、よく聞きなさい」
リイナは、彼女が真剣に話そうということを理解し、真面目に向き合うことにした。
「ヒビキ君はまだ冒険者として駆け出しなんですよ。
いつも、リイナに任せっぱなしだと、彼のためにもならないし、
成長する機会も与えられない。
少し離れて、あなたから、独り立ちさせる時間をあげなさい」
「で、でも、心配で、心配で」
「私たちに信用するぐらいになれるように、
あなたの背中を任せるぐらいになるように成長すると信じなさい。
そうでなければ、あなたを、あの子にあげれらないわ」
「あげるって、いわれても、まだ……」
「王都まで、8日か、9日だし、直ぐにあえるわ。
道は安全だし、ジュウベエ、パパが剣術を教えてくれるから、
死ぬようなことは、ないわ」
「そ。そう。
でも、ほかの女の子にいいよられなかい、心配で…
ヒビキ、胸に執着するし……」
パトリシアは、リイナの話したことをすぐに理解し、
それは、解決できないことをすぐに悟った。
「それは、それで、そうなったら、しょうがないわね、
リイナちゃん。
縁がなかったと、諦めなさい」
この後、胸について議論になったが、最終的には折れて、
別々の道を進むことを容認した。




