第266話 苦しみから解き放ってあげよう
ハヤテは、つかんでいたリイナを軽く投げると、城壁に一直線に飛んでいった。
「ちっ!
な、なんだ、このくそスキルは!
呪い好きってなんだ……
あ、あが、がが……」
ゴーラリオが、心配そうに、ハヤテに近づいていったが、当の本人は頭を抱えて、
床をぐるぐる回っていた。
「ハヤテ様、大丈夫ですか?」
ゴーラリオは、どうしていいかわからず、辺りをうろうろしていたが、やがてハヤテが起き上がってきた。「おお、ダイジョブ…」
ゴキ
ハヤテは、老婆のように腰が曲がった様子で立ち上がると、ゴーラリオにパンチを食らわせた。一撃をもらったゴーラリオは、回転しながら城の壁にぶつかると泡を吹いて倒れていた。ハヤテの目は、真っ赤になり、口からはよだれをたらし、獣のように四つ足で見えるものを、壊し始めた。
あまりの狂乱でおびえたごろつきどもは、散々に逃げ出し始めると、彼らを攻撃し始めた。
「みんな、にげろ!」
僕の声に反応するように、四方八方に散らばると、一人ひとり、吹き飛ばし始めた。
「ギャーーーーーーーーー!」
辺りは、叫び声で、地獄のようだった。
「みんな、気をつけろ!」
僕は、吹っ飛んだリイナに走ってちかづくと、彼女の様子をうかがった。
「リイナ、大丈夫?」
リイナは、口から血を流し気絶しているようだ。
僕は、ゆっくりと近づいてきたハヤテを、魔法で空高くに吹っ飛ばした。
「氷の壁」
彼の真下に高速でだすと彼は真上に跳ね飛んだ。
僕は、目をつむり、今まで経験したことを思い出し、何か役に立つことはないかと必死で思い出すと、一案に気付いた。
そ、そうだ、ナナさんなら、ポーションをもってるかもしれない。
それに、あれなら、なんとかなるかもしれない!
僕は、ナナさんのもとに走っていくと、ちょうど、意識を取り戻したところだった。
「大丈夫ですか?」
「いま、どうなってるの?」
彼女は、頭を振りながら、体力を戻そうとしているが、体に力が入らないようだった。
「ハヤテが、ユニークスキルの取得のし過ぎで、暴走しています」
「そうなの。今は、まだ、動けないみたい」
「ナナさん、唐突ですが、エルフの廃墟で、
呪いのアイテムを拾いませんでしたか?」
「えぇ、結構あるわ」
僕は、彼女から、呪いのアイテムを数々受け取ると、バックにしまった。
「これで、いいの?」
「わかりません。
何とか行くかは、神のみぞ知るってところです。
リイナがあそこで、怪我をしています。
ポーションか何かで回復できませんか?」
「ええ、任せて」
「では、行ってきます!」
僕は、ナナさんに礼をいうと、ハヤテのもとに走った。
上空から戻った、ハヤテは、飛ばした氷の壁を粉々に壊して遊んでいた。
僕は、近くにもらった装備をばらまいた。靴やら、指輪、帽子や剣など、様々なものが床に散らばすと、ハヤテは、装備に近寄ってきた。
彼から、距離をとると、モモとアンナが近寄ってきた。
「本当に、これで、どうにかなるの?」
「わからない、でも、呪いの厄介さは、身をもってよく知っている。
あとは、どうにか、いい呪いがあるかだけどね」
僕らのやり取りを聞いてか、姫様やドワーフの仲間が集まってきた。
彼は、床に落ち、地面の装備を見つけると、一つ、また一つと、体に身に着けていった。着けている装備が呪いにより、禍々しさ、毒々しさが増し、彼に近づきたく無さが増していった。
彼が、剣を片手にもち、四つ足でこちらに向かってきたが、以前の半分のスピードもなかった。
「スピード半減の呪いかなんかじゃな」
「そうですね、これで、攻撃を食らうことはなくなりましたね」
彼が、ゆっくりと振りかぶって、こちらに攻撃を仕掛けると、姫様が、相対するように剣を切り折った。
「やわらかい、なの」
「根元まで、折れましたが、呪いは解けてないようですね」
彼は、折れた剣を握りしめ、大剣に変えることはしないところを見ると、呪い好きが、まだ、剣を離させようとしないのだろう。
「ががぁ、ぐ・る・じ・ぃ・」
ヒビキが、苦しもがきはじめた。彼の様子を見ると、体がもっている剣の重さに耐えきれず、右腕を上げることができないようだ。体は、徐々に水のように透明になり、液状に変わっていってるようだった。
「これは、なんでござる?」
「どうやら、呪いで、体系を維持できないみたいだ」
ハヤテは、装備の重さを維持できず、息も絶え絶えだった。
「助・げ・てぇ、ぐ・る・じ・ぃ・・・」
ユニークスキルが消えたのか、反発したのか、意識を取り戻し始めたが、涙を浮かべながら、懇願をし始めた。
僕は、覚悟を決めると
「すまない、僕は、こうするしかできない」
左手の剣を両手で持つと、胸に突き立て、抱きかかえるように、奥まで差し込んだ。もはや、液体に近い体の感触はなく、何も遮られることもなく反対側につきささった。
彼は、光の粒子に変わると、徐々にきえていった。
「ありがとう。
なんで、こんなとこに来たんだろう
本当にこんなところ、つまんなかった……」
「ごめんね……」
僕は、彼を抱きしめ、謝ることしかできないことを悔やんだが、直ぐに彼は、何も残らないまま、消え去った。
「ヒビキ、大丈夫?」
リイナが意識を取り戻したのか、僕に近づき声をかけてくれた。
「あぁ。大丈夫。
さぁ、王様を助けに行こうか」
僕に、ほろ苦い思いを残したが、最後のあとかたずけに専念することにした。




