第199話 馬車に揺られて眠ろう
「パトリシアさん、いいものをありがとうございます。
大事にします」
僕は、頭を下げて、感謝の意をこめた。
「ママ、ありがとね」
「二人とも、仲よく、無事に行ってくるのよ。
ちゃんと、アンナを迎えに連れて帰ってきてね」
「わかったわ」
リイナも立ち上がり、食器を片づけると、
出発に向けて、本館に戻った。
僕は、ロビーで旅支度をしていると、
パトリシアさんが、お弁当をもって、やってきてくれた。
「道中で、たべてね」
「ありがとうございます。何からなにまで」
「いいのよ、リイナちゃんをしっかり守ってね」
むしろ守ってもらってるのは、こっちなので、少し心苦しい。
「できる限り、がんばります」
苦笑いを浮かべながら、弁当を受け取りバックにしまっていく。
しばらくすると、リイナも旅支度を終え、階段から降りてきた。
「待たせたわね」
「そんなことないよ、パトリシアさんから、お弁当をもらったよ」
「ありがとう、ママ」
「いいのよ、この後は、魔道車でしょ。
馬車よりは、安全だから、そうしなさいね」
「魔道車ってなんですか?」
「魔石を使って動く鉄の乗り物ですよ。
大抵の魔物は、攻撃されても、大丈夫よ。
それに、馬と違って疲れないから、速度が安定してるのよ」
へぇ~、そんな乗り物があるんだね。ちょっと、乗ってみたい。
「どこに行けば、のれるんですか?」
「町の上部にあるのよ。港の前の大広場を、北に抜けていけば、
見えると思うわ。」
「ありがとう、ママ。行ってみるわ」
僕とリイナは、パトリシアさんの別れの挨拶をして、
本館を後にした。
とはいえ、広い邸宅のためか、一向に門が見えない。
少し歩くと、後ろから馬車がやってきて、送ってくれることになった。
パトリシアさんが、手をまわしてくれたのかな。
ありがたく乗らせてもらうことにした。
リイナと横並びに座り、馬車から見える庭の風景を楽しむ。
すぐにゲートを通過し、門番さんに会釈をすると、見下ろす町は、まだ遠かった。
奥に見える海を眺めながら、対岸の聖都に想いを馳せる。
「聖都がちっちゃいね」
「そうね、あんなに小さく見えるわね」
たわいのない会話が、普通にできる幸せを噛みしめながら、
ゆらりゆらりと馬車が揺れると、ゆっくりと眠っていった。




