第七章『再会』
「燕どうしたの?元気ないけど」
茜が自転車をひいている俺の顔を覗き込んで聞いてくる。確かに俺は元気じゃない。ってかもの凄い眠い。足がフラフラして危ない…。睡魔め…今更来るなっての。
「俺にも色々あるんだよ…」
「色々な事って言うのは休日に学校の制服を着ていなければならないような事なの?」
「うっ…」
そう。実は今日は土曜日で学校休みだったのだ。俺は朝母親が起きてないのを見て気付いた。家の母親は土日はお昼まで起きない。ってか入学式の後いきなり休日っておかしいだろ…。
「ってかお前も間違えて制服で朝来ただろ!人の事言えねぇよ!」
「うっ…」
茜が俺と同じような声を出す。茜も今日が学校だと思っていたらしく、制服姿で朝家の玄関に立っていた。
そして、俺たちは一旦制服を着替えに家に戻りまた家の前で合流することにし、今に至る。
あの後雨宮と俺の発作とやらが起きるまで待ってみたが、結局発作が起きることは無かった。雨宮は「何故発作が起きない…」と、いつもの無表情で言って窓から出て行ったが(2階なのだが俺はもう驚かない)俺にとっては万々歳な事だった。
別に要らない力より我が身の安全ってね。これぞ一般人の考えだよ。
「でも、何でお前まで間違えたんだ?お前の家には秋兄もいるわけだし解るだろ?」
何気なく。本当に何気なく聞いたことだった。少なくともその時の俺に深い考えはなく、ただ話してないと眠気に押しつぶされそうな感じだったから聞いただけだった。
「ううん?今日は2年生と3年生は学校あるんだよ。だから秋兄も普通に学校の支度してたから気付かなかったのよ」
なるほど。2,3年生は今日学校あるのか。大方入学式の振り替えで学校ってとこか。………ん?2年生も学校?
「おい!2,3年生は学校って本当か?」
声荒げてたかもしれないが、そんなことは今はどうでもよかった。
「本当よ?ってか、燕どうしたの?」
「ごめん。茜。急用ができた。俺行くとこあるからまたな!」
「ちょっ!燕?どこ行くの!?」
「ちょっとその辺をふらついてくるという大事な用だ。じゃあな!」
言うが早いか俺は自転車に乗って走りだした。睡魔はもういなくなっていた。
俺は、ただひたすら…学校を目指していた。
「はぁ…はぁ…げふぅ」
もの凄い速さで自転車漕いだもんだから疲れた…てか飛ばし過ぎた。俺は学校の自転車置き場で自転車に乗った状態で体を休めた。やっぱペース配分ってのは大事なのかもしれない。しかも今気付いたが、俺今日の学校の予定も知らない。更に言えば、俺は今私服。これで学校に行っていいのかは調べていなかった。
「さて…どうしたもんかな」
考えても答えはでないと解っていたが、まぁ体を休めている今はそれくらいしかやることが無かった。
「屋上に行こう。学校内は一応生徒だし無断で入っても平気だよな?」
俺の考える範囲では屋上が一番あの人に会えると思った。俺は自転車を降り、充分休めた体で屋上へと向かった。
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どうやら今は始業式的な事をしてるのだろう。通りかかった教室にも、廊下にも誰もいなかった。しかし、それはこっちにとってはものすごく好都合なことだった。だって私服だし。目立つし、問題ないとはいえ私服で来るのは処分の対象になりそうだし…。
階段を2段飛ばしで上ってゆく。もうすぐ屋上のドアが見えてくるとこだ。…お、みえた。俺はドアノブに手をかけ、ドアを押した。
……誰も居なかった。まぁそうだよな。あの人がここに居るっていう確証はなかったし、大方始業式の方にでも出ているんだろう。頭は良いからもしかしたら代表スピーチ的な事をしてるのかもしれない。いや、そんなのあるかは知らないけど。
何もすることが無くなり俺は屋上を何も考えることなくフラフラと歩きまわる。
「ん?」
歩き回っていると、屋上の入り口のドアのある場所の側面に鉄梯子が取りつけられているのを見つけた。へぇ…ここって上れるんだ。
高いところの方が良い景色があるかもしれない。そう思い、梯子を上ってゆく。
そして、梯子を登りきり入口の上に行った俺の目の前には……。俺の探していた、あの人が…彼女が足を組んで空を見上げる形で横になって居た。
黒く腰辺りまで伸びた長くしなやかな髪。顔は男女共に振り替えるように綺麗に整っている。茜とはまた違った形の大人っぽさのある顔立ち。つまり一般的に美人と言われるような人。体系は出るとこは出ていて締まるとこはしまっている。
その人も俺に気づいたらしく、俺の方を見ていた。
そして俺は……この人に…にずっと言いたかったことを言った。
「どうも。偶然ですね。先輩」
その言葉を聞き先輩は口元を緩ませ、こう言った。
「ああ、偶然だな。ハル」
このあだ名…先輩しか呼ばないこのあだ名。1年ぶりに聞いたこの単語、この声、この口調。何もかもが懐かしく思えた。
「お前も偶然この学校に進学していたのか。しかし、相変わらずだなハル。私のことは先輩ではなく気軽に堀川様と呼べと言っているだろう?」
「様付けのどこが気軽なんですか…。ってか、そんなこと一度も言われたこと無いですよ」
「む。そうか。なら気軽に空たんとでも呼ぶがいい」
「何か恥ずかし過ぎる呼称ですよ!ってか何でたん何ですか!?」
「これを言ってハルが赤面して悶えるところを笑いたいからだ」
「あんたは鬼ですか!?」
このめちゃくちゃなことを言っている人の名前は『堀川 空』俺の一つ上の先輩。つまり2年生だ。
「で、何でお前は今私服でここに来ている?確かに今日は土曜日だから休みだ。だから私もこうして堂々と屋上で寝てるるのだが、せめて制服くらい着てきたらどうだ?」
「いや、先輩。今日は確かに土曜日ですが先輩達は学校ありますよ?入学式の振り替えで」
「む。さすがハル。鋭いな」
「なにが鋭いんですか…」
「確かに私は今日学校の登校日だ。しかしだハル。今日は始業式しかない。だから私はこう思うんだ。そんなもんサボってしまえと」
「相変わらず理不尽ですね…」
この人は中学時代もこんな感じに傍若無人な人だった。俺もまぁ色々なことをさせられたが、それはまた別の機会に。
「まぁ、そんなことよりハル。お前も暇だったらここで空でも眺めるといい」
この提案は多分、どうしても今俺たちが会った事を偶然にしたいから。だと思った。
先輩が本当に酷い人なら、私服で学校に来た事をもっと掘り下げてくるはずだ。
でも、先輩はそんなことはしない。理不尽でも、心ある理不尽。人の心にズケズケと入ってくる割りには、絶対に触れてほしくないとこには絶対茶々を入れたりしない。そういう人なんだ。
「そうさせてもらいますね」
そう言って俺は先輩の隣に横になって空を見上げた。雲一つないまっさらな空。見ていると何だか吸い込まれそうな感覚になる。澱んだことなど一つもない…綺麗な青空。中学時代はこうしてよく先輩と空を見ていた。
その後俺たちは少し言葉を交わし、さすがにサボった先輩、私服の俺共々まずいと思ったので、俺は先輩と別れ学校を後にした。
どうもです。
今回は何回か修正が加わっていてめちゃくちゃになっています。
申し訳ありません。
次の投稿は外伝が来ると思うので、本編の方はもう少し先になると思います。