第三章『入学』
受験終わって、コツコツと書いたら、いつもより長くなりました・・・。
……何だ?
見渡す限り森だった。
目の前に人影…。
「雨宮…?」
雨宮は悲しそうな目で俺を見ていた。
「……。」
いつかの様に無言で…。
ジッとこっちを見ていた。
そして、そのまま森の奥深くに消えていった。
「雨宮!」
俺は雨宮を大声で呼んだ。
…………。
ジリリリリリ!!
気が付くと俺はベットから転げ落ちていた。
俺は落ちたのに目覚まし時計の野郎はしっかりとベットに陣取っていやがった。
「……夢?」
そう。夢だった…。
「燕ー!」
下から母親の声が聞こえる。
今日は4月6日。森野高校入学式の日だ。
「あんたも、もう高校生なんだねぇ」
そう。俺も今日から高校生なのだ。
新しい制服に袖を通しながらそんな事を思った。
そして、朝食のパンをかじる。
…それにしても、あの夢は何だったのだろう。
何というか、リアリティがあったと言うかなんと言うか…。
そんな事を考えていると、
「そういえば、雨宮って誰?」
母親が言った。
「?…何で雨宮を知ってる?」
当然の疑問を俺は言った。
「何でって、あんなにデかい声で言ってれば聞こえるわよ」
至極当然の様に言った。
あぁ…じゃあ、あれは夢の中じゃなくてホントに叫んじまってたのか…。
「で、雨宮って誰なのよ?もしかして、彼女?茜ちゃんというものがありながら、あんたも隅に置けないねー」
どうして家の親はいつも恋愛の話に繋げるのだろう…。
「ちげーよ。友達だよ」
てきとーに言っておこう。
そしてもう一つ言っておくと、茜は幼馴染で彼女ではない…。なんていう無駄な抵抗はしない。もうずっと言ってるけどこれだからだ。
…けれどホントに雨宮は何者なのだろう。
卒業式の夜、屋上にいた女の子…。
変な技を使って俺を助けた少女。夢としか思えない。
でも、会ったのはその一回のみ。「また会うことになるだろう」みたいなこと言われたがあれから一切見ていない。
俺は今日、夢に見るまですっかり雨宮のことは忘れていた。
ピンポーン
「燕〜!迎えにきたよ〜」
そうこうしているうちに茜が迎えにきた。何故だか小学校の頃から茜が迎えに来るのが日課になっていた。
「あ!ほら早く行きな!」
雨宮のくだりさえ無ければもっと早かったと思うんだが…。
まぁ、急がなきゃ行けないのはあってるか。
「さぁさぁ!未来のお嫁さん待たせちゃだめでしょ!」
そんな毎日のように聞いた母親の戯言はあえてスルー!
俺は歯磨きを素早く終わらせ、家を出た。
玄関を出ると、茜がセーラー服を着て立っていた。
「遅いよ。こんな日ぐらい早めに玄関に居るとかしなよ」
茜は俺の母親よりも母親顔で優しくそう言った。
「すまん。明日から高校生だと思うと寝れなくて…」
「もう、しょうがないねー」
茜は笑いながら言った。
この笑顔に今までどれだけ救われたか…。
その後は、何でもないことを話ながらバスに乗った。
自転車でも充分行ける距離なのだが、前回行ってみて、『入学式はバスに乗って行こう』という事になったのだ。
「そう言えば、秋兄はどうしたんだ?」
「今日は一年生の入学式しかないから秋兄は休みなんだってさ」
成程。納得した。
「あ、そういえば、今日もう一度屋上に行ってみない?あそこで食べるごはんはきっとおいしいよ〜?」
「おう。行こうぜ!」
まぁ、俺は中学の時から飯は屋上で食ってたが。
あの屋上で食う飯はまた違った感じなんだろうな。
その時の俺はこれから始まる高校生活に思いをはせていた。
そうこうしているうちに、バスは森野高校に到着した。
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入学式は体育館で行われるということなので、担当教師に連れられて俺たちは体育館へと向かった。
クラスはまだ発表されてないので、みんな適当に入学式の席に着く。
こうして俺、火神燕の高校生活はスタートした。
しっかし、校長先生の話が長いって言うのは案外全国共通じゃないか?
この人もう40分以上話してるよ……。
ちなみに、今この校長が話してるのは、男子の制服はブレザーなのに、女子の制服はセーラー服なのだろうか…?
と、言う疑問を持つ生徒が毎年居る。という話題なのだが…。
正直俺も何となく気になっていたので聞き耳を立てる。
「それは、私がセーラー服が好きだからー!」
……森野高校の校長は変態だった。
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・
そんな感じで、入学式は滞りなく終了。
俺はこれから一年間は確実に顔を会わせることになる奴らと割り振られたクラスに移動した。
俺のクラスは1-Aだそうだ。はい!1-Aに到着ー!
そして、自分の出席番号の席に腰を下ろす。
「何だ。あたしと同じクラスじゃん!」
見ると茜が隣に座っていた。
あ、そうか。あいつ、名字は【木村】で、俺の名字が【火神】だから出席番号が隣になるのか。
だからこいつは俺の隣に…成程ね。
「お前と一年間一緒か」
「ムッ!不満〜?」
「いやいや、全くぜーんぜん」
不満なんてホントにねぇよ。
むしろ安心してるくらいだ。隣の奴が知ってる奴でよかった。
俺は他に知り合いがいないか教室を見渡す。
「…ん?」
出席番号1番のところには髪が短い少女が座っていた。
後ろから見ているから詳しい事は分からないけど…。
髪の色はみんなとは違う青っぽい色。
みんなと髪の色が違うだけでも結構印象に残った。
まぁ、秋兄も地毛で茶髪だからどうこう言うわけではないけどさ。
俺があれこれ考えていると、スーツを着た男の人が現れた。
「え〜…どうも!この度君達の担任になった森田だ。一年間宜しく!」
何か知らんけどメッチャテンション高い…。
絶対に鏡の前で10回は練習しただろうと思う挨拶と笑顔だった。
「それじゃあ、まずは皆の自己紹介から始めよう」
先生、展開が速すぎて誰も着いて来れてないよ?
周りから、
「え〜!」とか、
「面倒臭い!」とか、
「ってか、お約束だな」とか聞こえるけど、先生はそれらを一切無視して出席番号1番の人に、「では、どうぞ」みたいな感じで自己紹介を始めやがった!
出席番号1番の奴が席を立ち自己紹介を始めた。
「…雨宮美鈴です……」
……え!?
雨宮!?
あ、ホントだ。あの時は暗かったから髪の毛の色はあんまり見えなかったけど、顔と髪形が同じだ。
…って、そんなこと言ってるんじゃねぇ!
何で雨宮がこの学校に!?
いや、別にここの高校に来るなって言ってるわけじゃないよ?
いや、余りにも出来すぎた偶然だと思っただけ。
いや、落ち着け!何だか訳分からんことになってないか俺?
ってか、「いや、」の使用回数多すぎだろう。
そういえば、雨宮は俺の前から消えるとき、
『また近いうちに会うことになる』
って、言ってたよな。
まさか、この日のことを見越して言っていたのか?
いや…ってまた『いや、』って言ってるし。
何だか色々考えてしまう。
と、考えている途中で俺は横から肩を叩かれた。
「何だ?」
「自己紹介、燕の番だよ」
茜が呆れ顔で言った。
え?もう回ってきてた?
「あ、えと、火神 つばさ…違う!火神 燕です。一年間宜しくお願いします」
慌てて立った俺は、自分の名前を間違えた。
俺の記念すべき高校1日目は呆然としているうちに終了した。
あの後、雨宮に話し掛けようとしたが、茜に半強制的に屋上に連れてかれた。そう言えば行くって言ったなぁ…。そんな訳で俺は今、屋上にいる。
この高校の屋上は立ち入り禁止ではないから、色んな人がここに来るんだろうな。と、そんなことを思いながら屋上の扉を開ける。
俺の予想通り、結構人が居た。少なくとも20人くらいは居る。
上靴の学年色は赤。全員一年生だ。まぁ、今日は一年生しか登校しないから当然と言えば当然だ。
ちなみに、この学校では一学年ごとに学年色と言う物が決まっている。
一年生が赤、二年生は青、三年生は緑…みたいな感じでな?
んで、屋上に来たは良いけど、これから何をするんだろうか…。
茜を見ると、もう他の人達と打ち解けて楽しく話している。俺は何しようかな。
「暇だし横になるか」
俺は木陰に寝転んだ。
大きな木の下は心地よい暗さと涼しさで、とても寝心地が良かった。
油断したら寝てしまうな。
というか眠い…。
まぁ、眠ったとしてもそんなに長い間寝るわけでもないしいいか。
皆の話し声が聞こえる。
でもそれも自然と遠くなっていった。
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「燕〜おーい。駄目だ寝てる」
「まぁ起きるでしょ」
「そうね。じゃあ、燕。また明日ね〜」
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「う…ん…。ふわぁ〜……」
よく寝たな。
…ん?…あたりが暗い……。
しまった!!寝過したか!まさかこんなになるまで寝てるなんて…。
やばいやばい。急いで家に帰んないと…。
…でもどうやって帰ろうか。
こんなに暗かったらさすがにバスあんまり出てないだろうし。あ〜!どうしよう。
とりあえず、この屋上から早く出て…。
と、ここであることに気づく。気づいてから、我ながら気づくのが遅いと思った
「……ここは何処だ?」
その場所は森野高校の屋上ではなかった。
あたりを見渡すと、木々に囲まれている。
森野高校と同じなのは、俺が木陰の下に寝ていたということだけだった。
そして、この景色を見た瞬間、俺は妙な既視感に襲われた。この光景は見たことがあった。
その景色は、俺が今日夢で見た光景そのものだった。
…今俺に何が起こっているんだ……。