第二章『平穏』
俺は今自分の部屋のベットの上にいる。
理由は簡単。卒業式を終えた中学3年生とは、ほとんどやることが無い。
他の奴らは高校での新生活に思いをはせていたりしていたりするのだが、どうしたもんか俺はそういうのがあまり無い。
まぁ、全く無いと言ったら嘘になるが、物凄いあると言うわけでもない。
だから俺はナマケモノの様な、ぐだぐだライフを満喫していた。
あの屋上での出来事を忘れるために…。
結局あの後、俺の身の回りで変わったことも特になく、雨宮にも会わなかった。
まぁそれでいいと思うけどね!日常万歳!素晴らしき平凡な生活ってとこだな。
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そんな生活をして、3月も終わろうとしていた頃、俺の携帯に電話が入った。
「…茜か」
木村茜俺の幼馴染みだ。
俺と同い年で、4月から俺と同じく森野高校に通うことになっている。
「…もしもし?」
『あ、燕?今さ暇?』
「俺は暇ってどんな時なのか考えてて暇じゃない」
『…そういうのを暇って言うんじゃない?』
こんなアホみたいな会話も俺たちの間ではお決まりなもんだった。
「そうか。…んで、何のようだ?」
『あ、そうだった。あのさぁ、森野高校がどんな所か見に行かない?』
「お前、森野高校に行ったこと無いのか?」
『無いわ』
即答するお前に感服するよ…。ホント…。
「学校選ぶときに一回は行くだろう」
というか、行ったこと無いのに何で森野高校受けたんだよ。
『そんな事は良いからさ!』
いや、良くねぇよ?
『とにかく、行くの?行かないの?』
「…まぁ、行くけどさ」
『んじゃ、私の家の前に集合ね!』
しぶしぶ俺も付いていくことにした。
しぶしぶだ。あーあ。ホントは行きたくないんだけどなー。
…誰だ?今俺のことをツンデレとか言ったのは?
べ、別にそんなんじゃないんだからな!
それにしても、元気だな。
その元気の元を俺に2mmで良いから分けてもらえないもんかねぇ。
…でも、もしかしてあいつ、最近元気がない俺のためにあんなに元気に振舞ってるのか?
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「よっ!久し振りー!」
茜は元気な声でそういった。
「おいおい、俺とお前は先週もあっただろ?」
「あたしの家と、燕の家はお隣さんなんだから、いつもはもっと会ってるじゃん?だから一週間でも久しぶりなのよ」
茜は満面の笑みでそう答えた。
「んじゃ、行きましょ〜!」
そんなわけで俺たちは4月から通う森野高校に一足先に向かった。
「そういや茜、お前森野高校で何がしたいんだ?」
俺達は今、自転車を漕ぎながら森野高校へ向かっている。
森野高校は俺の家から自転車で1時間程度行ったところにある。
う~ん…遠いのか近いのか微妙だ。
「ん〜…。取り合えず運動系の色んな部活に仮入部してみようと思ってる」
実は茜は、
運動神経抜群、成績も学年でTOP10には確実に入る。(ちなみに、森野高校にも楽勝で受かったらしい。)
性格は見た通り太陽のように明るく、容姿も申し分無い。
まぁ、いわゆる才色兼備という奴なのである。
こんなスーパーマンの生まれ変わりの様な奴と俺のような、
運動神経:普通
身長:ちょっと物足りない165cm
成績:中の上
あぁ…自分で言ってて悲しくなってきが…。
まぁ、こんなやつが何でつるんでいるのか。
前にその話をしたら、笑いながら
「別にあんたと仲良くしちゃいけないっていう法律も無いし良いじゃん!まぁ、強いて言うなら、10年以上前からの幼馴染みだからね。腐れ縁って奴?」
って言われた。
まぁ、基本良い奴なんだよな。
いつもニコニコ笑ってるし、こいつが泣いてる姿なんて10年以上の付き合いだが、映画とかで感動する以外では、あんまり見たことない。
「そういえば、秋兄は元気か?」
「うん。めちゃめちゃ元気だよ。今度三人で久々にカラオケにでも行こうか?入学祝も兼ねて」
木村秋人
俺と茜よりも二つ上で、茜の兄貴。茜は秋兄と呼んでいる。
小さい頃からよく遊んでいたせいか、俺も秋兄と呼んでる。
「そういえば秋兄も、森野高校に通ってるんだよな?」
「そうだよ」
秋兄も、茜の兄だけあって成績は中学時代、学年1位は当然。
さらには全国でもベスト10に入る実力の持ち主だ。
今でも全国レベルだとか聞いてる。
そんな実力を持っていながら森野高校に進学したらしい。
森野高校は有名な進学校でもなければ、部活が有名なわけでもない。
只のありふれた県立高校だ。
だが、何故このスーパーマン兄妹が受けてるのだろう。
なんなんだろうね。この兄妹は…。
そんな話をしていたら、森野高校が見えてきた。
「そういや、昼飯どうするんだ?」
もう、正午を過ぎていた。
別に、戦はしないけど、腹が減っては戦は出来ぬ。だそうで、近くのコンビニで何かを買うことにした。
俺は、大好きなコロッケパンと、栄養バランスを考えて野菜ジュースを買った。
茜は、メロンパンと牛乳を選んで、
「あ…」
しまった!という顔をしている。
「どうした?」
「…財布忘れてきた……」
はぁ…しょうがない。
茜は、こういう抜けた所があるんだよな。
勉強できるのに…。
仕方がないから俺が出してやる。
あとで倍にして返してもらおう。
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昼食を食べ終わった俺達は、森野高校に行った。
茜が既にアポを取っていたみたいで直ぐに入れた。
後日、どうやってアポをとったのか聞いたら、秋兄の妹って言ったら、あっさりと取れたらしい。
何でも、やっぱり秋兄は学年では1位は当然のこと、全国でもトップクラスの成績をキープしていて、森野高校の株を上げてるんだそうだ。
やっぱり秋兄ってすげえって改めて思った。
俺達は、森野高校を一通り見て回った。
中は、キレイなわけでもなければ、汚いわけでもない。どこにでもある公立の高校だった。
そのあと色んな所を回って、屋上に着いた。
屋上は高い鉄柵に囲まれた空間だった。
高い鉄柵のおかげで、生徒が落ちる心配もないので、この屋上は生徒に一般開放されているそうだ。
見ると、生徒の為に、所々に芝まで敷かれている。
こういうところでお弁当とか食べるんだろうな。
そんな中、一際目立つものがあった。
大きな一本の木だ。
看板によると樹齢1000年以上だそうだ。
なんでも、森に生えていたこの木を今の校長がこの屋上へ持ってきたのだと言う。
まぁ、木の下は木陰になって夏には涼しいと思った。
…その時思ったのはそれだけだった。
「さて!高校は見終わったし帰ろうか!」
と、茜が言ったので帰ることになった。
それで俺たちは屋上を後にした…。
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燕達が屋上を後にした後、屋上に1人の人物が立っていた。
顔は整っていて、ショートな髪形がとても似合う女の子。
その娘は、一本の大きな木に話しかけていた。
「長老様。どうですか?」
「悪くはないな。ワシの勘では時が来れば面白い逸材になるだろう」
と、大きな木が言った。
「今度、彼をあっちの世界へ招待しようではないか」
大きな木はそういうと、ほっほっほっ!と豪快に笑った。
続きは受験の後になるかも知れません。そうならないかも知れませんが・・・。