第一章『始まり』
俺の名前は、火神燕15歳
この春から【森野高校】に通う何処にでも居る普通の高校生(予定)だ。
突然だが、お前らは神様や幽霊や超能力者とかを信じているか?
ちなみに俺は信じていない。そんなものはおとぎ話や漫画やアニメの中の話。科学的には有り得ない。
そりゃ、昔はそういうのに憧れてたさ。
アニメに出てくるヒーローに憧れたり、地球を救った【もりがみさま】の話を熱心に読んだりしたさ。
だが、現実がそれが嘘であることを教えた。
社会の歴史の授業では、200年前、地球が森林減少によって、二酸化炭素の量が上昇し危機に瀕したが、二酸化炭素の排出量の少ない発明品でこの危機を逃れたと言っていた。
その証拠に今俺たちの世界では、200年前のような旧式の化石燃料式エンジンなんて使ってる車も、火を使って電気をつくる、火力式発電とか言うものも存在しない。と習った。
理科の授業では、植物にも一つ一つ命があるので、一回枯れてしまった植物をもう一度蘇らせるなんて、科学的には難しいと言っていた。
神様や幽霊や超能力者、etc…。そんなものは存在しない。そうだろ?
中学卒業まで俺はそう思っていた。……そう。中学卒業までは。
今は3月も終りの時期。
俺は学校で卒業証書を受け取り、中学を卒業した。そして、きっと最後であろうHRがもうすぐ終わる。
これで俺も無事義務教育を終えるのだ。
「なあなあ!!卒業祝いに皆でカラオケにでも行かないか?」
クラスのお調子者のその提案にクラスの奴らは全員一致で参加した。このような結果で俺の義務教育生活は幕を下ろした。
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皆で卒業祝いに色々やっていると、暗くなってきたので、皆各自解散となった。
「みんな元気でね~。同窓会とかやってよねえ」
同窓会か…。まだ何年も先の話じゃねえか。
みんなは各々の家に帰って行ったが…
「燕~。帰んないの?」
「あ~…どっかふらっとしてから帰るわ」
俺はこのまま家に帰るのは何か嫌だった。どうせ家に帰ってもすることはあまり無い。
それに、何だか無性にどこかに行きたい衝動に駆られていた。
だから俺は一人で夜道をフラフラと歩き出した。
そうやって歩いていると何故か中学校に着いた。3年も通っていたせいか、自然に足が学校に進んでいたみたいだ。これが習性というやつなのだろうか…。
「暇だしな」
その時の俺はどうかしてたのかもしれない。夜の学校に忍び込もうと考えた。
当然正面玄関は開いていない。なので、理科室のほうに回ってみた。
案の定理科室の窓は開いていた。ここの学校、なぜか理科室の窓がいつも開いている。…セキュリティに問題があると思うが……。
忍び込んでから気付いたが、学校に来たところで何もすることが無い。ここで帰っても良かったがせっかくなので、屋上に行くことにした。
屋上は俺がよく行く暇潰し場所だった。あまり人は来ないし、落ち着ける場所だった。
というか、この屋上にはいつも俺ぐらいしか来ない。理由は簡単。この学校の屋上は本当は立ち入り禁止なのだ。
まぁ、立ち入り禁止って言う看板が立っているだけで、鍵も掛っていないので入ってしまおうと思ったら誰でも入れてしまう…。
…だからセキュリティに問題があると思うが……。
そうこうしていたら屋上に着いた。そこには誰もいないいつもの屋上が広がって…。
…ん?
…誰かが居た……。
「誰?」
その人は、俺に気付く淡々とした口調で問いかけてきた。
その人は俺と同い年位の女の子だった。
背は俺より少し小さい。整った顔立ちで、ショートな髪形がとても似合う女の子。つまり、かなりの美少女だった。
「誰?」
彼女はもう一度そう言った。
答えたほうが良いか。これ。
「お、俺はここの中学校を今日卒業した火神燕だ」
何か片言で、何か変な感じになっちまった。
男子中学生なんてもんは女子とほとんど喋ったりなんかしないし…まぁ、俺は女の幼馴染がいるからそうでもないけど。
でも初対面の人だし…。
誰か初対面の女子とも普通に話せる方法を知っていたら今度2時間みっちり教えてくれ。
「あんたは…?」
我ながら礼儀がなっていないと思ったが、もう言ってしまったものはしょうがない…。
「…雨宮美鈴」
長期記憶に手動で入れるくらいしないと3秒で忘れちまうような声で、雨宮さんという女子はそう言った。
でも、何でこの雨宮さん(?)は俺に聞かれてさらっと名前を明かすんだ?
最近は物騒な事件が多いってのに不用心な娘だな。
まぁ、これは口には出さないが…。
その後、どっちも喋らなくて、しばらく沈黙が流れた…。
先に沈黙に負けたのは俺だった。
だってそうだろ?
誰かが来る様子なんて皆無のこの明かりがほとんど無い屋上で、会ったばかりの女子と二人きりで、沈黙してるのは空気的に耐えられない…。
一方、雨宮さんはそんな空気など無いように一切表情を変えずに立っていた。
話のきっかけになればと一つ話題を投げかけてみた。
「そういえば、ここで何をしていたんだ?」
20秒ほどまた沈黙が流れたあと、雨宮さんが口を開いた。
「貴方に言う様な事ではない」
…いやそうだけどさぁ……。
20秒待ってそれだけですか?
もう敬称つけるのも嫌になってきたわ。雨宮って呼ぶことにするわ。
「いや、俺に言う様な事ではないかも知れないけどさぁ、教えてくれたって良いじゃないか」
この言い方はまずかったな…。何か俺が危ない人のように感じてきたわ…。
…また沈黙……。
だが今度の沈黙はそんなに長くなかった。
突然、彼女の表情が変わった様な気がした。
いや、気がしただ。ホントに。
変わったような気がしたんだが、変化という変化が見られない。
まぁ今はそんなことはどうでもいい。そんなことより、こんなこと現実に有り得るのか…?
空にヒビが入っていた。
いや、おかしい…。
空は物体では無い。
何故ヒビが入っている…?
「これは…?」
今俺はどんな顔をしているのだろうか。
口が閉まらねぇ。
これが唖然か。
まぁ、ヒビが入っているだけならオーロラみたいなもんだと一万歩譲って思うとする。
だが、なんだ?
何か出てきたぞ?
あれは…木!?
いや、違うか?いや、だってさ、周りにコケとか蔦とかがついてていかにも長久の歳月を生きたって感じなのに、俺の半分くらいの大きさしかないんだぜ?
自分で木と言っておいて何だが、ホントに木か?
まぁ、その木(という事にしておこう)は屋上の端に降り立った。
コンクリの地面だから根は張れてないみたいだ。
と、スラスラと話しているが何だ?この光景は…。
この光景を前にしても雨宮は微動だにしない。慣れてるのか?
「くそ…。根がうまく張れねえな」
どこかからそんな野太い声が聞こえた。
どこからだ?雨宮の声ではなかった。
誰かほかにここにいるのか?
だが、あたりを見渡しても誰もいない。
今、この屋上にいるのは俺と雨宮とちっちぇ木だけだ。
「まぁ、しょうがないか」
木が180度回った。
いや、回るとかおかしいんだけどさ…。
それはおいといても…。
これはおかしな光景だ……。
木に…顔!?口が動いてしゃべってる。
この情景が見えた俺は今すぐ眼科か精神科に駆け込んだほうがいいだろうか。
何だかありえないような光景が見える…。
「おぉ、さっそく人間発見。さっそく食糧とはラッキーだぜ」
…また喋った……。
いや、信じない!信じない!今見たもの聞いたものを信じてはいけない!
そんなことがあるわけがなーい!
あの顔に見えるのは、ただの模様!動いたように見えたのは気のせい!!
木が話すなんて非現実なことあるわけがない!
そんなことを言ってるうちに、木(なのかも怪しくなってきたが)が、俺と雨宮のいる方に向かって近づいてきた。
…嘘だろ。こんな時に腰が抜けて動けないなんて…。
危ない…。
木の言葉を簡単に自分的に解釈すると、こいつ、人間を食料にしてるのか…?
こんな状況でも雨宮は表情を変えない。
雨宮はこういう状況に慣れているのか?
それとも、おれと同じように驚いて表情が変わってないだけなのだろうか…。
そんなことを考えている間に、その木(もう木でいいや)は、俺の目の前にまで迫っていた。
あ…俺死んだかも。嫌だ。死にたくねぇ…。
でも、この思いは声にならない。腰が抜けて何にも言えない。
そうしている間にも木はこちらに近づいてきている。お前を食べたら次はその娘だ!的な感じでズンズン迫っていた。
とうとう、木は一気に俺に襲いかかった。
俺は目をつぶった。俺の視界が真っ暗になって…。
…あれ?いつまで待っても衝撃が来ない。
恐る恐る目を開いてみると……
俺の前に雨宮が立っていた。
雨宮の周りには薄い膜みたいなものが出てきている。
それが木との接触を遮っていた。
木は無力的に地面に落ちた。
「ちっ!まさか、降りて早々能力者に会っちまうとはな…。アンラッキーだぜ。だが、そう簡単にやられてたまるか」
木はそういうと、雨宮に向かって突っ込んでいった。
すると雨宮が早口で何か言い始めた。
多分、「すべての植物の源の神よ。悪しき力に染められし木々を救う力を我に託せよ」
と、言っていたと思う。
雨宮がしゃべり終わった瞬間、雨宮の手の平から光が放たれた。
その光は木を貫く。
「ぐっ!やはり俺のような雑魚では相手にならんか…」
そういうと、木はどこかへ消えていった。
雨宮は息一つ乱していなかった。
そして、俺に近づき、
「近いうちにまた会うことになるだろう」
と、言った。
雨宮の顔が近すぎて俺が顔を背けている間に雨宮は居なくなっていた。
気が付けば屋上には何時ものように俺だけになっていた。
「何だったんだ…」
俺はしばらく呆然としていたが、携帯の着信音が鳴り響き慌てて我に帰る。
電話に出ると、
「今、何時だと思ってるの!」
母親の怒り声が頭に響く。
こりゃやべぇな。
俺は言い訳を考えながら家に帰った。
だけど、雨宮が最後に言った、
「近いうちにまた会うことになるだろう」っていう言葉が俺の頭から離れなかった。