3、傘の群生地、他
【コンビニ前】黄昏時のコンビニ前には、愛煙家たちが集う。学校帰りに仕事帰りにデート帰りに、一服しようとやってくる。スタンド灰皿の近くに紫煙が漂いはじめると、ああまた一日が区切られたのだと知る。夕闇が後ろから迫っている。わたしはアイスキャンディーを咥えたまま夜を待つ。
【国道一号線】国道一号線は、いつからあるのか。どうしてつくられたのか。何人の人が通過したのか。百年後はどうなっているのか。考えたらきりがない。自分はこのコンクリートの下の土を踏みしめることもない。測量の仕事をしているとよく、道の歴史に思いを馳せる。まるで恋をした乙女のように。
【光る雲】光る雲を眺めていた。おじいちゃんが骨だけになった日も、たしかあんな雲を見ていた。太陽の側の雲はまぶしくて、きっとあそこが極楽なのだと思った。今日はどの雲も光っている。おじいちゃんを探してみたけれど、どこにもいなかった。ただ綺麗な雲と空が広がっているばかりである。
【白い手袋】わたしの運転手は、常に白い手袋をつけている。お父様に内緒でキスをするときも、わたしの肌に触れる時も決して外さない。どうしてと訊くと恥ずかしいからだと言う。ある時、強引に外してしまったら、彼の心の声が聞こえてきた。「お嬢様、愛しています愛しています愛しています…」
【傘の群生地】ある森に、傘の群生地があった。人々は雨が降るとそこへ行って、好みの傘を採ってきて使った。ある日、村人が森の奥へ行くと、大きくなる前の傘を乱獲している者がいた。盗人はニヤリと笑った。「こいつはな、炭火で焼いて食うのが一番なんだよ」以来、そこに傘は生えなくなった。
【すました顔】電車の中で化粧をする女性に会った。注意したが「一日中化粧をしてないと顔が溶けて死んでしまうの」とやめない。いつからこうなのかと訊くと、同じような人を見て自分もマネした日からだと。真向かいで口紅をひいていた女子高生が悲鳴をあげる。女性はすました顔で笑っている。
【星の腕時計】時計職人のおじいさんは、孫に初めての腕時計を作ってあげました。ピカピカの時計をもらった孫はおおいに喜びましたが、文字盤を見て驚きます。「おじいさん、これ数字が一つ多いよ?」おじいさんは言いました。「我々は一日26時間の星からきた移民だ。それを忘れちゃいけないよ」