2、人鳥の卵、他
【素晴らしい国】あるところに、素晴らしい王様の治める素晴らしい国がありました。どう素晴らしいのかというと、毎日誰かを褒め称えるとそれに見合ったお給金がもらえるのです。一方けなすと即、国外追放されるという国でした。素晴らしい街、素晴らしい国民たち、あんなに素晴らしい国はありません。
【人鳥の卵】ペンギンを漢字で書くと「人鳥」って書くんだけど、なんでだか知ってる? 私はペンギン専門で写真を撮ってる者なんだが、たまーにね、あいつら真っ赤な卵を産むことがあるんだよ。その卵からは小さな人間みたいなのが産まれる。まあ、すぐ親ペンギンのエサになっちゃうんだけどね。
【カーテンの色】そのマンションは、どの部屋の窓にも明るい色のカーテンがかかっていた。なんでも大家さんの注文らしい。赤に青に黄色に緑。建物自体は白かったが、カーテンの色が美しいと評判のマンションだった。その中にたった一つだけ真っ黒いカーテンが。あの部屋は事故物件だそう。
【母の瞳】母はごく普通の人間だった。とりたてて頭がいいわけでも、運動神経がいいわけでもなかった。容姿も人並であったが、父は「母の瞳」に恋をした。生粋の日本人であったにもかかわらず、深い青色をしていたのだ。父は同じ色の瞳を持つ子が生まれると期待したが、それは叶わなかった。
【花占い】「生きる、死ぬ、生きる、死ぬ、生きる、死ぬ…」荒川の土手でちょっと不穏な花占いをしているサラリーマンに出くわした。手にしているのは黄色いタンポポ。声が止むと、サラリーマンは寂しげに笑った。「生きる…だってさ」彼は立ち上がると尻を払い、どこかへ行ってしまった。
【ドクロの木目】家のトイレの壁にはドクロに見える「木目」がある。最初は横向きだったのが、いつのころからかだんだんとこっちを向くようになってきた。気にしないようにしていたが、やはり完全にこっちを向く前にリフォームすることにした。今、あの壁紙の下はどうなっているのだろうか…。
【第六の指】とある美大生がいた。彼は絵の上達のために、毎日自分の左手をスケッチしていた。握り拳にした手。人差し指を立てただけの手。目一杯広げた手。何百何千と描き続けるうちに、やがて第六の指が見えてくるようになった。彼はもう左手を描かない。代わりに右手だけを描くようになった。