1、ネコ虫、他
【雨女】「雨女だったんですよ、ずっと」目の前の医者にそう言う。「大事な日はいつも雨」「たしかに、今日も雨ですね」医者が窓の外を見て驚く。「じゃあ、そろそろ始めますね」徐々に麻酔が効いてきてまぶたが下りてくる。目覚めたらきっとわたしは「雨男」になる。
【緑色の猫】緑色の猫がいた。しっぽも三本生えている。ガリガリで物欲しそうにこちらを見ていたが「あなたにあげるものは何もないわよ」そう言って追い払った。元彼からもらったエメラルドの婚約指輪。それを川に放るとぽちゃんと音がした。振り返ると緑の猫は消えていた。
【33:33】夜中にハッと起きて見ると、枕元の時計が「33:33」となっていた。明日も早く起きなくてはならないのに、これでは困る。電池を入れ直し、正しい時間を設定。よし、これで良いと目を閉じる。するとまたハッと起きる。まさかと思い時計を確認すると「33:33」だった。
【子供たちの声】子供たちの笑い声が聞こえる。ウチの裏の保育園から。もうとっくに閉園しているのに。インターホンが鳴り、出てみると園長さんだった。「資金のめどがつきまして、来月から解体します」まだ子供たちの声が聞こえる。すっかり更地になっても、まだこの声は聞こえるのだろうか。
【ネコ虫】ばあちゃん家の縁側で、絶滅したと思われていた「ネコ虫」を見つけた。体長4センチくらい。見た目は足の無い茶トラの猫だ。寝ている所をつんつんつつくと、縁側の下に逃げてしまった。わりとすばやい。ばあちゃんが「あれは大きくなるとツチノコになるんだよ」と教えてくれた。
【ナス12歳】「ナス12歳」と書かれている。何度見ても「ナス」と書かれている。前任者の加藤さんのことはよく知らないけど、きっとこの美文字は加藤さんが書いたものだ。その前は「あや」とか「けんた」とか普通の名前が並ぶ。迷子センターに勤めて早一か月。この案件だけが気になっている。
【ピアニスト】そのピアニストは「猫ふんじゃった」しか弾かない。けれど、聴いた者は涙が出るほど感動するという。わたしも友達に強く勧められてそのコンサートに行ってみた。アレンジでもなんでもない、小学生が弾くような音色。わたしはあまり感動できなかった。皆はあんなに号泣していたのに。
七話ごとにたまったら上げていこうと思ってますので、更新は不定期です。