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特別編 「太陽は罪な奴」

この話は本編に載せましたが、内容的に本編から逸れるので、こちらに移動させました…。

 それは夏の終わりと言わんばかりに、蒸し暑い夜だった…。

 コルテに支配された自宅アパートの前にて、寝袋での就寝に慣れてきたゼファーナが、すやすや…、と、脇に眼鏡を置いて眠っていた。アパートの周辺は、明日は晴れだと言わんばかりに、田んぼから、多くのカエル達が叫んでいた。

 しかし、そんなことを気にせずに、ゼファーナは眠っていると…。


(おい…)

「ん…」


 カエル達の鳴き声ではない、囁くような静かな声が、耳に入ってきた。


(おい…、ゼファーナ春日だな…。シュガーレスとかいう…、この世界で、悪の組織と戦っているというガキは…?)


 何者かの声が、夢と現実に挟まれているゼファーナの耳に入った。聞き覚えのない男の声だ。

 むにゃむにゃ…、とヨダレの滴れる口を上下に動かしているが、目は閉じたまま、ゼファーナは…、


「なに…?新聞なら、間に合ってますが…?それとも…。ああ、うちには、テレビないですから…」


 どこからか、聞こえる男の声に寝ぼけて答える。

 すると…。


(ちょっと、来い…。この世界にも、影響が出るかも知れねぇんだからな…)


 男の声が、少し乱暴になった瞬間、ゼファーナの目蓋が開いた。

 すると、寝袋の中のゼファーナの手が急激に、なにかの力によって、引っ張られた。寝袋を裂いて、ゼファーナの左手が、勝手に動いて、自分の目の前に突き出された。

 夢現つから覚めた、ゼファーナは、自分の左手が、見えないなにかに引っ張られているのに驚く。


「なんだ!?」


 その力に逆らおうとしたゼファーナだったが、自分のその左手に、なにか、暖かい温もりを感じた…。それは、胸を刺すような切なく、悲しきもある懐かしい暖かさだ…。


「なに、この感覚…」


 ゼファーナは、この力に逆らうのはやめた。見えないなにかに、左手を握られていることを、気味悪く感じず、自然と身をゆだねるようにして、力を抜いた…。

 すると…、カッ!と大きな光が、ゼファーナの目の前に広がった。

 そして…。




 その日の朝…。

 カエルの鳴き声が、とっくに途絶えた朝の爽やかな空気。その朝の日差しが、アパートの窓に刺さる。

 ベッドの上で、夢から目を覚まし、大きなあくびをしながら、なにも着ていないままで毛布に包まれていたコルテが起き上がる。窓から来た朝の日差しが、彼女の顔に刺さる。

 新しく買っておいた自分の下着を体に身につけ、その上から、ゼファーナのシャツとズボンに着替えて、彼女は、部屋の掃除、朝食の準備をしはじめた。傍若無人な彼女だが、部屋がきちんとしていないのと、朝食を抜いて、一日を過ごすのを嫌っているため、めんどくさがらずに、ゼファーナのアパートに住み着いてから、毎日こなしていた。

 何故、ゼファーナのアパートに住み着いているのかは、ともかく、彼女は部屋の掃除を開始しようとしたが…。


「ありゃっ…」


 アパートのドアを開けると、寝袋で眠っているはずのゼファーナが消えていた。ドアの前には、寝袋と、彼の携帯電話と、眼鏡だけが落ちていた。

 寝ぼけて、どこかの転がって行ったのかと思いながら、彼女は、アパートの外をキョロキョロと見渡す。だが、どこにも彼の姿は見当たらない。


「こないだみたいに…、また消えたのか…。思春期だからか…」


 やれやれ…、と言いながら、コルテは部屋の中に戻る。キッチンで鍋のお湯を沸かして、朝食の準備を始めた。




 その日の午前中…。

 商店街にある、ショッピングモールに設置されている映画館の前に、カタナは居た。いつもの着物姿に、腰に木刀を差したまま、コンビニのおにぎりを片手に、周囲をジロジロと見つめていた。

 何故、カタナがこんな場所に居るかと言うと…。




………………


 あれは先日のことだ。市内体育館で、剣道の稽古していて、その稽古が終わった後、制服に着替えた雪乃から、いきなり映画のチケットを一枚渡された。

 なにこれと、カタナは汗を拭きながら聞くと、雪乃は顔を真っ赤にして…。


「これは、わっ、私の友達が…、明日、彼氏と映画見に行くつもりだったけど、急遽、行けなくなったから、私にくれた映画のチケットよ…!」


 彼女の手にあるのは、『劇場版、無事故無違反ライダー不動産王〜これ、頑丈!〜』と書かれた映画の前売り券だった。なんだ、これと思いながら、カタナはチケットを彼女の手から取った。

 雪乃は顔を赤くしながら、チケットを眺めるカタナを見つめていた。


「べっ、別に、この映画を、見に行こう!とか、言うわけじゃなくて…、せっかくくれたから、無駄にしちゃ、悪いなー、ってわけで…。しかも、二枚あるし…。べっ、別に、あんたなんかと映画を見たいとかじゃなくて…」


 口をガタガタに、文章をメチャクチャにしながら、雪乃が喋っている。こいつ、こんなキャラだっけと思いながら、カタナはなんとなく、彼女が噛み噛みで言っている言葉たちから、彼女の言いたいことの意味を読み取った。


「つまり、この映画チケット二枚もらったから、俺も一緒に来いと…」

「そっ、そうよ!べっ、別に、あんたなんかと行きたいからじゃないからね…!仕方なくよ…」

「そこまで言うなら…、大樹と行けよ…」

「ギャース!!だから、そういうわけじゃなく!!ウキーッ!!」

「なに、その日常じゃ、あまり聞かない叫び声…」


 このやりとりが、小一時間続き、結局、カタナは雪乃と一緒に映画を見に行く事になった。



………………


 なんで、一緒に来いの一言が言えんのだと思いながら、カタナは待っていると、珍しく、かなりのオシャレをしてきた雪乃が現れた。まるで、どこぞのお姫様だと言わんばかりに、気合いの入った服装だった。

 そして、二人は、このまま劇場内に入った。



(まさか…、カタナと二人っきりで、映画なんて…。最近、出番がなかっただけあるわ…)


 そう雪乃は思っていた。真っ白で大きなスクリーンに映写機が光を当て始めた。

 真っ暗になった劇場内で、真っ赤になった顔を、パンフレットで隠すかのようにして、椅子に座っている雪乃が、隣の席のカタナをチラチラ見ていた。たまに、カタナと目が合ったりすると、心臓が弾けそうなくらいに、雪乃はドキドキしていた。

 だが、映画が始まると同時に、雪乃の目蓋が開いたり、閉じたりを繰り返しはじめる。


(あっ…、ヤバ…。昨日は、なんか、興奮して…、眠れなかったから…。せっかくの、私のターンなのに…)


 劇場が暗くなったせいか、あるいは、夜眠っていないかったせいか、そのまま、雪乃は目蓋を閉じて、眠ってしまった。隣の席に寄り掛かるようにして、雪乃は崩れ、くー、くー、と寝息を立ててた…。

 しかし、彼女が寄り掛かる席…。そこには、さっきまで、カタナが座っていた…、はずだった…。

 だが、空席になっていた…。雪乃が目蓋を閉じた瞬間、カタナの姿がなくなり、席には空白が…。

 ジー、カタカタ…と、映写機は音を鳴らす…。

 カタナが消えたことに気付かないまま、雪乃はスクリーンの光を浴び、夢の世界へ…。




 同じ頃、強い日差しの太陽の下で、秋羽隼は一人、自宅アパートの前で、通販で購入したサンドバッグを、思いっきり、殴りつけていた。


「チクショウ!あのキザ野郎が!人の後頭部、叩きやがって!!チクショウが!!」


 適当な木に釣り下げたサンドバッグを、以前、自分に不意討ちをしたザッパー・春雨の顔を投影しながら、ストレス解消と言わんばかりに、何度も何度も、パンチを浴びせていた。

 ハァハァ…、息を切らしながら、サンドバッグを殴っていると…。


 バゴッ!


 強く殴りつけたせいか、サンドバッグが反動で、かなり勢いをつけて、隼の顔面の方に戻ってきた。勢いのついたサンドバッグは、隼の顎に命中し、彼の意識を奪い去った…。

 隼は白眼を向いて、その場に倒れ込んだ…。

 すると…。


(こいつ…、バカか…。まぁいい…。これで、三人目…)


 夜、ゼファーナの元で、聞こえた、あの男の声が、気を失う隼の耳に響いた。

 すると…、カッ!と、激しい光が、気絶した隼の身体を包んだ。




 そして…、それから、しばらくした午後の昼下がり…。

 炎天下の下、いつものジャージ姿のアルゼは、市内の商店街のオモチャ屋の前で、前屈みになって落ち込んでいた。普段は、冷静沈着で、目立つことを嫌う彼女…。だが、今日に限って、取り乱し、さらに、オモチャ屋に入る子ども達の視線の的になっていた。

 アスファルトに手を置き、彼女は目から涙を流す。

 彼女が居るオモチャ屋の扉に、ある貼り紙が貼られていた。貼り紙には…、


『本日発売の『歌って踊れる!カエルのモニカちゃん』のぬいぐるみは売り切れました。限定発売ですので、次の入荷はありません』


 と、書かれていた。

 この文字を見て、涙を流すアルゼは、ダンッ!と、アスファルトを何度も叩く。これを見た、子ども達が恐がって泣き始めた。


「こんなことなら、恥ずかしがらずに、予約すれば良かった…」


 ぬいぐるみを買えずに、アスファルトに伏せて泣く彼女…。それを、子ども達の目に入れないように処置する母親達…。

 しばらくすると…、サイレンを鳴らして、パトカーが現れた。



「なんて、失態だ…。我ながら、なんというキャラ崩壊…」


 そのまま、留置所の個室に入れられたアルゼは体育座りで、落ち込んでいた。警察に捕まったことに落ち込んでいるのではない、ぬいぐるみを買えなかったことに落ち込んでいるのだ。

 そのことに落ち込みながら、アルゼは体育座りのまま、頭を伏せ、予約しなかった自分を憎んでいると…。


(これで、最後の一人…。おい、協力してもらうぜ…)


 また、あの男の声が…。ゼファーナ、隼と現れ、次はアルゼの元に現れた。

 だが…。


「うるさい、私に話し掛けるな…」


 落ち込むアルゼは、声を無視した。


(『シービー』を倒すのに、味方が足りないんだ!だから、お前の仲間、ゼファーナ春日、冬風カタナ、秋羽隼に協力してもらっている!もう奴らは、『シービー』の仲間たちと戦ってくれている!だから…)


 アルゼは、この男の声に対して、とうとう落ち込みすぎて、わけの解らない幻聴が聞こえるようになってしまったと思っていた。だから、黙り込んでいると…。

 すると…。


(まぁ、いい…。このまま、お前を強引に連れていく!!)


 体育座りをしているアルゼに、また、あのカッ!と大きな光が放たれた。

 そして…。



………………


 次々と、行方が不明になる地獄同盟会の4人に、謎の空白の時間が流れる…。

 果たして、彼らは、どこに消えたのだろうか…。

 それを知るのは、あの声の主だけである…。


………………


「はっ!」


 気がつくと、アルゼの目の前に、警官たちの姿が現れた。キョロキョロと、アルゼは留置所を見渡す。釈放だと、警官が言っている。

 しかし、アルゼは状況が飲み込めないまま、立ち上がった。


「なんだ…、さっきのは…?確か、私は…、あのカエルを倒して…」


 なにか、ブツブツと言いながら、自分の両手を見つめながら、アルゼは、この状況を飲み込もうとして、周囲を見渡す。

 警官が、早く出ろと彼女に言い放った。




「ん!痛っ!」


 気を失った隼が、起き上がった。気付くと、顎に痛みが走る。

 目の前には、自分のアパートと、あの自分の顎に命中したサンドバッグが、ブラブラと揺れていた…。あの太陽の下で…。


「なんか、変な夢見ちまったな…」


 起き上がって、隼は顎をコキコキと鳴らした。




「あたし、寝ちゃってたけど…」


 カタナと雪乃は、映画が終わったので、劇場から出てきた。眠っていたことを恥ながら、雪乃は、周囲をキョロキョロと見渡すカタナに話し掛けていた。

 カタナは、映画の上映中、席から消えていたはずだったが…、今は、雪乃と一緒に歩いている…。なにかを探すように、カタナは周囲を見ながら、歩いていた。


「どんな映画だった…?」


 映画の内容について、雪乃が感想を聞くと…。


「なんか…、俺も一緒に戦っていたみたいだ…」

「?」


 よく解らない感想を言うカタナ。

 そんな彼を見て、雪乃は笑顔で、彼の腕に、自分の腕を絡ませた。


「あんた、意外と映画に、のめり込みやすいんだね…」


 呆然としているカタナに、雪乃が笑って言った。




 数分前にゼファーナが消えたが、一応、朝食を、二人分で作り終えたコルテ。パンと、ハムエッグと、簡単な野菜スープがテーブルの上に並べられる。

 突然、消えたゼファーナのことを気にしていたが、とりあえずは、朝食を食べておくかと、彼女がフォークを握った瞬間。


 ガタッ!!


 いきなり、アパートの前で、大きな物音がした。彼女のフォークが驚きで、床に落ちた。

 なんだと思いながら、アパートのドアを開けると…。そこには…。



「僕は…」



 アパートの前には、さっき、消えたはずのゼファーナが涙を流し、横たわっている姿が…。メガネを外した、その、まだ少年の目からは大粒の涙が流し、眠っていた。


「鼻血君…」


 彼女は、うわごとを言いながら、眠っているゼファーナを静かに見つめた。

 何故、彼がさっきまで、アパートの前から消えていたのか…。何故、彼が急に姿が現したのか…。

 そんなことを、コルテは考えなかった。ただ、涙を流して眠る、ゼファーナの顔を静かに見つめていた。


「寝相、悪すぎ…。やっぱり、まだ、子どもだな…」


 コルテは、横たわるゼファーナの体を背負い、ベッドの上まで運んだ。

 彼の分の朝食に、サランラップをかけた。そして、思い出したように、コルテはアパートの前に落ちていた彼のメガネを拾い上げ、テーブルの上に置いた。

 そして、コルテはテーブルに座り…、


「いただきます…」


 手を合わせ、朝食を食べ始めた。




 その日の夜、ザッパー・春雨を除く、地獄同盟会の4人…、ゼファーナ春日、冬風カタナ、秋羽隼、夏海アルゼが、久しぶりに、集合することになった。

 場所は、お馴染みのファミレス。一つの席に、4人が座る。


「…」

「…」

「…」

「…」


 ゼファーナにしても、カタナにしても、隼にしても、アルゼにしても、なにか言いたげな表情をしていた。

 この日の集合は、珍しく、ゼファーナからの呼び掛けでの集合だ…。だから、第一声を切ったのは、ゼファーナだった。


「あの皆さん…」


 なんだよ…、隼が顎を触りながら答え…、カタナは静かに腕を組み…、アルゼは自分の両手を握ったまま黙っている…。

 それを見て…、


「なんか、皆さん、言いたいことがありそうですね…」


 ゼファーナが言うと、みんなが頷く。


「じゃあ、一斉に、言いたいことを言いましょうか…」


 このゼファーナの意見に、カタナ、隼、アルゼは同意して首を縦に振り、皆、一斉に口を開いた。


「なんか、変な夢見ました…」

「なんか、変な映画見た…」

「ザッパーがムカつく…」

「なんか、変な幻覚を見た…」



 ファミレスの外は涼しくなり、今年の残暑ですら、過ぎ去ろうとしていた…。

 また、明日は晴れると言わんばかりに、田んぼのカエル達が鳴き声を上げて、唄を歌っていた。

シュガーレス:一番最初に思いついたため、比較的にシンプル。動きが機敏で暗闇に潜むイメージ。 武器については、肉弾戦での俊敏性を生かすため、コダチのような小型の剣に。余談ですが、スリーピング編で使用しなかったのは、この時期、世の中全体が刃物について考えるべきことがあったため、フィクションとはいえ、主人公が刃物を振り回すのは良くないと思い、一時自粛していました。同時に、スリーピングチームは素手が多かったため、主人公が武器に頼るのはなぁ…、とも思いました。武器や凶器について考えるのも、今作のテーマです。

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