チャプター1 「HENKYAKU 〜返却〜」
内容に尽きましては、現在、連載中の本編『漆黒のシュガーレス』を御覧になってから、お読み下さい。なお、御覧になっても、満足戴けない、それどころか、本編自体が満足戴けない場合があると思いますので、この場で謝罪をします。
秋羽隼の休日の朝。
自宅のアパートのチャイムが、宅配便のおじさんから鳴らし、その音で彼は目を覚ました。
遅くまで、職場仲間達と飲んだくれて、眠い目をこすりながら、下着姿で宅配物を受け取り、サインを書いて、おじさんを見送る。
「なんだよ…、ったく」
いい気分で眠っていたのにと、愚痴りながら、宅配物の小包みを送り主を見ずに、乱暴に開けた。
すると、中から、かなりの量のプチプチ(正しい、名前が解らない…)が入っており、厳重に包装されている物体が入っていた。
「まさか…」
さっきまで、二日酔いと眠気にやられていた、隼の頭が一気に目覚め始めた。
重かった目蓋が軽くなり、大きく目を見開いて、その包装を、バリバリと破った。
すると…。
「これはぁあああああ!!!!」
隼は、周囲に迷惑を掛けるほどの驚きの声を上げた。
小包みの中にあったのは…。
その日の正午、何故、呼び出されたか解らない仏頂面のアルゼと、飯を奢ると言われて来たカタナと、二人を呼び出し、嬉しそうな笑顔を浮かべている隼の3人が、喫茶店のテーブルに腰を掛けていた。
喫茶店の前に駐輪された隼のZZ-Rには、彼のファンタジスタスーツのキーであるヘルメットが、ぶら下げられている。そして、椅子に腰掛ける彼は今、自分のファンタジスタスーツのポニーポニックを着衣している。
ポニーポニックは、一般人から見ても、普通のライダースーツと見た目が変わらないため、隼は普段、バイクに乗る際は普通に、このポニーポニックを着ていた。
「見て、驚くなよ!」
隼は、向かい合う席に座る二人の目に前に、今日の朝、届いた物をカバンから取出し、テーブルに置いた。
それは、エビの頭をし、タキシードを着た怪人のフィギュアだった。
アルゼの顔が固まる。
「なんだ、それは?」
と、いつ飯を奢ってくれるんだと心待ちにしているカタナが、そのフィギュアについて聞いた。
すると、隼は笑いながら、
「ははは!これは、伝説の、旧エビフライ伯爵の幻のフィギュアだ!」
と、かなり嬉しいそうな顔をした。
アルゼ、カタナは、なんで、今日、隼に呼び出されたのかを理解した。
そう、彼は、これを自慢するためだけに二人を呼び出したのだ。
アルゼは、鋭い目つきで、そのフィギュアを睨み付けた…。
カタナは、腹が減ったと思った。
そんな二人に、お構いなしに、このフィギュアについて、隼は楽しそうに語る。
「いいか、エビフライ伯爵は、『山登り戦隊・ヤマレンジャー』での初登場以来、毎年、登場でお馴染みの敵キャラだ!しかし、実は、ヤマレンジャーの前のシリーズ、『下着戦隊・ホットパンチャー』の39話に登場していたのだ!それが、この旧エビフライ伯爵だ!旧エビフライ伯爵は、マスクの造形が、エビよりも、どっちかと言うと、アメリカンザリガニぽかったため、41話で降板になった悲劇の敵役!」
顔が微動だにしないアルゼと、適当に頷きながら、聞き流しているカタナの二人に、隼は楽しそうに熱論。
実は、秋羽隼は熱狂的な特撮番組のファンだ。
「それ故に、フィギュアの生産が、すぐに中断となり、存在その物がなかったことにされ、旧エビフライ伯爵のフィギュアは、幻のフィギュアとなり、ファンの間では殴り合いの奪い合いが起きてしまうほどのアイテムになった!」
余談だが、特撮番組は、予想外のハプニングが多いらしく、そのためか、グッズに破格のプレミアがついてしまうことが多い。
隼が手に入れた旧エビフライ伯爵のフィギュアも、そんな所らしい。
「しかし、先日、ネットのオークションで、こいつを発見!出品者は、生活が苦しかったらしく、この幻のフィギュアを涙を流して出した!値段は、10万もしたが、なんとか、手に入れてやったぜ!」
と、隼が自慢げに言い、カタナが驚いた。
「10万!こんな食べれもしないエビフライの人形に、そんな額を!!」
10万もあれば、牛丼が、何杯食べれると考えながら、カタナは隼に言う。
しかし、隼は得意げな顔に、不適な笑みを浮かべるだけだ。
カタナは、なんて金の使い方だと苦い顔をしつつ、自分の財布の中身が空なのを虚しく感じた。
すると、カタナはあることに気がつき…、
「しかし、そんな金、どこに…?安月給なのに、浪費ぐせが激しく、金と女に、ダラシナイお前が…」
「失礼だな、てめぇ…」
と、無駄遣いの激しい隼が、どこから、そんな大金を出したのかを尋ねた。
すると、隼は…、
「実は、春日から、借りたんだよ」
と語り始めた。
カタナは、そういえば、ゼファーナが居ないことに、今更ながらに気付いた。
すると、さっきから、仏頂面のアルゼの口元が、少しだけ緩み始めた。
「いやー、あの眼鏡小僧のおかげで、ゲット出来ちまったぜ!」
と、高笑いしながら、隼は言う。
「しかし、あいつが、そんな大金を貸すか…」
ただでさえ、隼に大金を貸しおり、それを、隼は返さないため、イライラしてるゼファーナが、そんな理由で貸すのと疑問に思うカタナが、そう言うと…、
「ははは!実は、あいつには、職場の阿部さんが、今度、結婚するから、その祝い金として貸してくれって、言ったら、ホイホイ、10万を貸してくれてよ!ははは!」
と、言った瞬間…。
「!」
カタナが、なにかに気付いて、びっくりしたような表情を浮かべた。
アルゼは、口元を震わせて、笑いを堪えている。
さっきまで、楽しそうに熱論をしていた隼は、背後に強烈な負の念を感じたため、開いた口が塞がった。
そして、隼は恐る恐る、負の念が放たれている後ろに、振り向く…。
そこには…。
「あ…、き…、ば…、ね…、HA・YA・BU・SAァァァ…」
クセッ毛の長めの髪の毛。黒い瞳が覗く、黒い縁の眼鏡。ちょっと、女の子みたいな端正な顔立ちの、パーカーと白いズボンを着た線の細い、肌の白い少年が全身の血管を浮き上がらせて、隼の背後に居た。
彼の名前は、ゼファーナ・春日。16歳、フリーター。
秋羽隼に、金を騙し取られた哀れな少年…。
ギャース!!と叫びながら、その場から立ち上がり、逃げる隼。
だが、ゼファーナは片手に握っていた、コダチを、隼の足元に投げつけ、動きを封じた。
「お金、返してください…。ていうか、阿部さんが結婚とか言ってましたけど、あの人、この界隈で有名な…、な人じゃないですか…」
シュガーレススーツを着たゼファーナが、隼を外で正座させながら、金を返すように言った。カタナと、アルゼも、この場にいた。
だが、旧えびふらい伯爵に全額を使った隼は、金なんか出せない。
「このバカは、貴様から借りた金を、このフィギュアに使った…」
と、アルゼが隼から取り上げた旧えびふらい伯爵のフィギュアを、ゼファーナの前に差し出した。
さすがに、温厚なこいつでもキレるだろうと思っているアルゼであった…。
だが…。
「うそぉ!これ、幻の旧えびふらい伯爵のフィギュアじゃないか!!」
シュガーレスのマスクを外して、ゼファーナが興奮した。
「知っているのか!?貴様!!旧えびふらい伯爵を!」
急に、意気投合した始めたゼファーナと、隼。
アルゼは、ダメだ、こりゃと頭を抱えた。カタナは、エビフライが食べたくなった。
しかし…、
「だからって、お金返しなさいよ!!」
また、シュガーレスのマスクを被って、キレたゼファーナであった。
果たして、秋羽隼が金を返してくれる日は来るのだろうか…。
登場人物解説 ・ゼファーナ春日:キャラは、同作者作品の『フリーナイン』のレビン・ハチコと、富野アニメの主人公達とかをモデルに。レビンは、マルチブルに使えたキャラだったんで、彼も動かしやすいキャラです。なにかと、受難の多いキャラですが、逆境の男になれるよう意識して書いてます。