すこぶる陽気なダメ人間 〜釣り編〜
勝利の方程式は勝つ確率を上げるものではありません。
そもそも行動一つで運が良くなるなんてありえないことです。
それが分かっていながら信じてしまうのは、狂っていることに変わらないからかもしれません。
今日は釣りの話をしようと思う。
因みに俺の持論は釣りとギャンブルは紙一重だ。
まず行うことは場所選びだ。
いつも行く防波堤、その中でも比較的釣り人の少ない場所を選ぶ。
特に理由はないが、人が少ない方が比較的大物が釣れることが多い。
世の釣り上級者は、波の立ち方や潮の流れを調べて決めるそうなんだが、俺はそんな物には頼らない。
あくまでも俺は、ギャンブルが好きなだけだ。
その一環として、釣りをするだけ。
だからこそ、勝利の方程式だけで勝負する。
今日は造船場の向かい。
そこに作られたヘリコプターのエアポートの上で釣ることにする。
本来ならここは、もし救助ヘリなんかが止まれなくては困るとのことで釣りは禁止だが、今は深夜帯。
ましてや殆ど誰もいないんだから、問題ないだろう。
それに俺はここでとんでもなくデカイ鯖を釣った。
その鯖はゆうに30センチはありそうな大物だった。
俺が今まで釣った魚の中でいちばんの大物だ。
最高の1匹だった。
なんせ帰ってから魚拓までとってしまったほどだ。
その鯖の味はほんのり墨汁の色と匂いが、そして薄く妙な味がしたが、それでも最高の味だった。
だからこそ、この防波堤ではここで釣ると決めている。
ここなら大物が釣れる確信がある。
使う釣竿は3千円のボロだが、長年愛用している一品だ。
何度か折れたり、金具が飛んだりしているが、修理してずっと使い続けている。
俺の釣り人生の全てを知っていると言っても過言ではない。
仕掛けを作る。
今日は天秤にサビキを垂らす。
サビキの先には30センチは開けて針をつける。
この仕掛け、サビキはあくまでも囮、稚魚を惑わす餌にすぎない。
本当の狙いは、先の針。
稚魚の群れの下、そこで虎視眈眈とはぐれた稚魚を狙う大物だ。
この仕掛けで並み居る大物を釣ったものだ。
かの鯖もこれで釣った。
一瞬のような激闘を俺が制したんだ。
さあ仕掛けは完成だ。
餌はジャンボにパン粉を袋半分程度混ぜたもの、針には無難にオキアミをつける。
今日は風が気持ちいい。
近頃は夜も暑い日ばかりだったが、今日は絶好の釣り日和だ。
こんな日は大物が釣れるに違いない。
すっごいのが釣れたら真っ先に、あいつらに見せてやろう。
あいつら俺の鯖の魚拓を見て、「大した事ない。」だの「素人くさい。」だの言って来た。
頭に来て言い返したが、でっかい太刀魚の写真を見せられてぐうの音も出なくなってしまった。
なんでも週末に船釣りをした際に釣り上げたらしい。
しかし船釣りなんて卑怯だ。
あいつらと違って定職についてない俺が、船釣りなんてする金がない。
それを分かっていて言っているんだからタチが悪い。
でも、俺が負けているとは思っていない。
あいつらの太刀魚はすごかったが、鯖の写真はなかった。
つまり、鯖では俺が勝っている。
それに、今日はあいつらがあっと驚く大物を釣る予定だ。
今日は木曜日。
木曜日は大物が釣れやすい日。
朝からも大物を釣るための行動をして来たんだ。
もう勝利を確信しているぐらいだ。
ああ、風が気持ちいい。
今日も楽しい日になりそうだ。